第9話-海とハプニング

晴れ渡った真っ青な空に、空よりも明るい宝石のような海。

今日は少し暑い気がするから、飛び込んでも大丈夫だろうか。体感的には五月の暑い日といったところだ。

海なんて何十年ぶりだろう。泳ぐのは久しぶりだ。

俺は楽しみで足取り軽くジョセフに付いて行く。

「コースケ、大丈夫ですか?普通の道じゃないから気をつけて。」

家の庭を出た先には海へ降りる獣道があった。岩だらけでとても歩きにくいけれど、転ぶほどではない。


下まで歩いていくと真っ白の砂浜の入江が姿を表す。

「わぁー!下からは見えないんだな!」

はしゃぐ俺をジョセフは嬉しそうに見ていた。


「俺はあっちで魚獲ってます。エイとかウミヘビとか見つけても触っちゃダメですよ。あと、あまり遠くに行かないで?あと…」

ジョセフが子供に言い聞かせるように色々注意してくるので、思わず笑ってしまう。

「あはは!そんな心配すんなって!その辺で遊ぶだけにする!」

にこりと笑いながら手を振り、上着を脱ぐと走って砂浜からバシャバシャと海に入る。

少し冷たいけれど思った程じゃない。これなら全然遊べる。


ジョセフは困ったように笑いながら、網を持って岩場へ移動した。

「おぉ!気持ちいい!」

少し深くなったところで、素潜りで泳いでみる。

海は透きとおり、まるで空気の中を色とりどりの魚が泳いでいるようだ。大きな魚も沢山いて、人を怖がらずに近付いてくる。


魚可愛い!!


この感動をジョセフに伝えようとサバァっと顔を出す。

ジョセフの姿を探していると、少し離れた岩場で投網を投げている姿を見つけた。

ジョセフに手を振ると、手を振替してくれた。

「ジョセフ!お魚可愛いぞ!」

ジョセフはこくこくと頷いてくれている。それだけで嬉しくて、上機嫌でまた潜ろうとすると、突然ビキッっと右足に痛みが走った。


「いっッ!?やばっ…」


右足が攣り思うように動かない。

足が付かない場所で泳いでいたので立ち泳ぎができないと溺れる!

なんとか岸を目指そうとするが上手く泳げずバタバタと水の中で暴れる事しかできない。


「がはっ…ジョセ…っ」


やばい沈むっ


気付けば俺は海の中だ。

ジョセフの言う事最後まで聞いとくんだった…。

沈んでいく恐怖に目を閉じる。

呼吸が続かず、がばっと肺の空気を出し切ってしまい本能的に空気を吸おうとする。

その瞬間、何かが俺の腕を掴み引き寄せて、唇を覆い空気を分けてくれた。

ふぅぅっと空気を吹き込まれて、なんとか呼吸を止めていられた。


脇を抱えられ水面に顔を出す。


「はぁっげほっげほっ…!!」

水面に出た瞬間、本能的に深く空気を吸ったと同時に海水が入り咳き込む。

「はあっ…っ、コースケ!?大丈夫ですかっ!?」

服を着たままのジョセフが、俺を抱えて泳いでいる。

俺はぐったりとジョセフを見た。

「げほっ…っ、ごめ…っ足が…」

「すぐ海岸です、頑張って!」


俺はジョセフに身を任せる。

すぐに砂に足が付き、歩けるようになるが、足に力が入らない。

「コースケ大丈夫?ちょっとごめんなさい。」

ジョセフは俺を海の中で歩きながら横抱きにすると、そのまま海から上がった。


砂浜に俺を寝かすと、自分もバタンと横に寝転がる。

「ごめん、まさか足が攣るとは…」

「入る前に準備運動しろって先に言えば良かったです。」

ジョセフは肩で息をしながら、冗談めかして言うと、濡れた髪を掻き上げて目を閉じる。


「助けられてよかったぁ…」

本当に安堵した声だ。俺は申し訳なくなり、涙目になる。

「ごめんジョセフ…」

「ちょ、コースケ?!」

ジョセフがびっくりして俺を見ていたが涙が止まらなかった。

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