第6話-沈む夕日
それからは、ひとしきり自分の世界の事を話し、この世界の事を聞いた。
そうしてるうちに日が落ちて海に夕陽が沈んでいく。夕日の光に呼ばれるように海の見える部屋に行くと、夕日にキラキラと輝く海が一望できた。
「なぁ!すごく綺麗だな!!」
「もう日が暮れますね。」
ジョセフは夕日に感動する俺を眺めながら笑う。
「じゃあ、俺は暗くなる前に色々支度してきます。」
「おぅ、なんか手伝う事あったら言ってくれ。」
「大丈夫ですよ。初めての感動は、初めてしか味わえませんからね。ゆっくり見ててください。」
ジョセフはそう言うと、2階へと行ってしまう。
「…んとに、顔も中身もイケメンだな。」
俺は後ろ頭を掻きながら、自分の今までの配慮の無さを痛感する。
初めての感動…か。
そんな事、今まで考えもしなかった。
今まで付き合ってきた女の子達は、きっとその感動を味わいたかったのかもしれない。俺はただ、彼女らのやりたいように付き合ってきただけだ。
心を寄せた事など一度もなかった。
ジョセフが夜の準備をしている間、俺は沈んでいく夕日を眺めている。
海も夕陽も本当に綺麗だ。
しばらくすると、トットットと、2階からジョセフが降りてくる。
「コースケ、とりあえずこれ。俺ので悪いですけど。」
部屋に入ってくると、俺にこちらの洋服を渡してくれる。
確かにスーツじゃ目立つもんな。
「ありがとう。なぁ、身体拭きたいんだけどいいか?」
俺は礼を言うと、申し訳無さそうにジョセフに頼む。しかし、ジョセフは嫌な顔一つせず、忘れてた!という風に目を丸くする。
「あ、そうですよね!ちょっと待ってて。」
「あはは、ほんとごめんな。汗とか気になってさ。」
「身体の匂い気になりませんけどね?」
クスリと笑いながらジョセフは部屋を出て行く。
鼻のいいジョセフが言うのだから、そうなのだろうが、日本人としては毎日風呂には入りたい。
ジョセフはタライに水を張ったものと手拭いを夕日の見える部屋に持ってきてくれた。
「これから世話になるのに頼み事まで、悪いな。」
申し訳なさそうに言うと、ジョセフはにっこりと笑う。
「いいんですよ!俺は同居人が出来て嬉しいんです。コースケは綺麗好きなんですね。」
「毎日身体洗うのが当たり前の国だったんだ。」
「なるほど、文化の違いってやつですか。」
ふーん、とやけに上機嫌なジョセフを尻目に、俺は服を脱いで身体を拭く。
「な、なんだよ、そんなジロジロ見るなよ。」
ジョセフはわざわざ椅子を持ってきて、背もたれに肘をつて、じーっと俺を見てる。
「別にいいじゃないですか。減るもんじゃあるまいし。」
ジロジロ見られながら服脱ぐの恥ずかしいだろーが。
「減る!減るからあっち行ってろ!!」
顔を赤くして、ゲシゲシと椅子を蹴って部屋から追い出そうとする。
「あはは。わかりました分かりました。行きますから。恥ずかしがり屋さんだなぁ。」
ジョセフは立ち上がるとあはは、と笑いながら部屋を後にする。
と、ひょこりとまた部屋を覗いてきた。
「後で調香室に来て下さいね!」
満面の笑顔のジョセフに俺はため息をついた。
「ん、分かった。」
返事を聞いてにっこり笑い、ジョセフはまた部屋を出ていく。
ジョセフの祖母は一年前に亡くなったのだという。それから思い出の多いこの家でたった1人過ごすのは寂しかったにちがいない。
俺がその穴埋めになるならまぁいいか。
ジョセフが楽しそうにしているのだし。
これがもし、面倒そうだったり、興味なさげに振る舞われていたら?そう考えて自分を振り返る。
いつも言われた事だけをして、一緒に居ても上の空、何をしても興味も持たずに生返事をしていた気がする。
「そりゃ女の子も、不安になるよなぁ…。」
まったく、ジョセフを見ていると自分の駄目さを痛感するばかりだ。
脱いだスーツを畳んで、ジョセフの準備してくれた服を着る。彼の服は少し大きめで花の香油の香りがした。
…俺、帰れんのかな。
沈みゆく夕日は夜の帷を引き連れて海の向こうへ沈んで行った。
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