第5話-コーヒータイム

ジョセフは釜に火を焚き、水を入れたポットを鉄板の上に乗せる。

本格的なコーヒーミルで引いたコーヒー豆はとても良い香りがして、心が落ち着く。

「コーヒーは俺の知ってる香りだな。」

「それは良かったです。」

ジョセフがくすりと笑った。


木製のテーブルには木の器に干したイチジクの実。

「お、イチジク!これも知ってる。俺の住んでるとこにもあった!」

「庭にイチジクの木があるんですよ。」

「へぇ、あれはイチジクかぁ。」

ドライフルーツのイチジクは糖分が凝縮されて美味しい。種のプチプチした触感も好きだ。

「うん、美味しいな!」

「お口に合って良かった。」

ジョセフは嬉しそうに笑う。



湯が沸くのを待ってるのか、ジョセフも向いに座る。

「えーっと…」

なんだか、どこから話せばいいか分からなくなって途方に暮れる。

「聞いてますから、気負わずに話してみて下さい。」

ジョセフはにこりと笑ってこちらを眺めている。


「俺が住んでた場所は、日本ていう島国なんだけど、他の国に、ここと似た過去の記録を持つ国があるんだ。」


「過去、ですか。するとコースケは未来から来たって事ですか?」

予想外の言葉だったのか、ジョセフは目を丸くする。

俺はコクリと頷いた。


「多分、この時代から130年くらい先の未来から来たんじゃないかなって……まぁ推測だけどな?もしかしたら似てるだけかもしれないし。」

「思ったよりスケールが小さいですね。」

ジョセフはきょとんとしている。

「スケール?」

俺は俺で、ジョセフの着眼点がわからず頭を傾げる。

「人間の寿命が50歳として、だいたい3人分でしょ?50年生きる。を3回。って考えるとコースケの住んでた時代は案外近くないですか?」

ジョセフは、3回なら余裕ですね。とよく分からない事を言っている。

「あははっ!余裕ってなんだよ。お前変な奴だな。」

「よく言われます。」

呆れたように笑っていると、ジョセフもふふっと笑う。

「人生一回分しか無いんだから余裕もなんもないだろ?」

俺もクスクスと笑った。

「俺のいた世界は、馬車の代わりに機械で走る車が沢山走ってたり、鉄の乗り物が空を飛んだりしてたんだ!」

タイムスリップものでよくある話をしてみる。大抵はこれで驚いて信じない!っていう展開だから、わくわくしながらジョセフの反応をみる。

「空の移動手段があるんですか。それは流通も早そうですね。」

ジョセフのさらっとした反応にこちらが驚いた。

「もっと驚かないのか?鉄だぞ?重いだろ?空飛ぶんだぞ?」 

ジョセフは、俺を不思議そうに見て、そして吹き出す様に笑った。

「コースケは未来から来たのに鉄が飛ぶのが不思議なんですか?」

「不思議じゃないか?紙飛行機なら分かるけど、鉄だぞ?」

そしてハタと思う。これじゃ反応が逆じゃないか?俺がなんでこうなったんだと考えていると、ジョセフはクスクスと笑う。

「コースケは表情がコロコロとよく変わりますね。面白いな。」

「そうか?お前は落ち着きすぎな?鉄が空飛ぶんだぞ!?ビックリしないのか!?俺ダメなんた。空飛ぶ鉄の塊なんて普通に落ちそうで怖いだろ?」

俺が腕を抱えて怖さを表現しているとジョセフは気になったのか興味津々に聞いてくる。

「え、落ちたらどうなるんですか?」

コトコトと後ろでポットが鳴っている。

ジョセフは立ち上がるとポットにさっき引いたコーヒー豆を入れた。

「そりゃ…死ぬだろ…」

飛行機が落ちる所など想像したくもない。

ジョセフは普通の回答に、困った様に笑う。

「そりゃそうか。空から落ちるんだから、やっぱりそうなりますよね…。なんでそんな危険な物に乗るんですか?」

ジョセフはさも当たり前の事を聞いてくる。

「そんなバタバタ落ちたりしねーよ。落ちても一万年に一回らしい。」

「それはもう、落ちませんて言ってるのと同じなんじゃないですか。」

ジョセフが笑いながら言う。


ジョセフはマグカップを2つ取り出して、布でポットの取手を掴むと、コポコポとコーヒーを入れてくれた。

「はい、お口に合うといいんですが。」


少し薄めのコーヒーをテーブルに置いてくれた。

また、丸椅子に腰掛けると自分もマグカップに口を付けた。

「ありがとうジョセフ。」

フーフーと息を吹きかけて申し訳程度冷ますと、ほんの少し香ばしい香りのするそれを啜る。

ほぅ。と息を吐く。

コーヒーの味はどこも変わらないんだな。

その様子をじっと見て、ジョセフはにこりと笑った。

「…良かった。」

俺は、きょとんとジョセフを見た。

「なにがだ?」

「少し緊張解れたみたいで良かったなって。」

嬉しそうに笑うジョセフに、また恥ずかしくなって顔を背ける。

俺を気遣って話題を作ったり、コーヒー入れてくれたりしたのか。ジョセフがあまりにも自然にやっていた気遣いに気付き、不覚にもドキリとしてしまった。


ああ、これがモテる男というやつなのかもしれない。


「お前さ、女にモテるだろ。」

「はい。そりゃもう。」

ジョセフはテーブルに肘をついて、イタズラっぽく笑った。

「なるほどな。」

またコーヒーを一口飲み、俺はため息をついた。

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