第2話 戦場の悪魔
いま俺の目の前には不思議な女がいる。
何が不思議って、この女が言うには「城を出るのに協力するって言っていた女性からもらった紫色の瓶に入った毒を飲んで死んだ」とのこと。
死んだなら幽霊ということになるけれど、俺の目の前にいる女は薄汚れて……いや、薄汚れを軽く超えて泥だらけだが足はある。
俺の視線を感じたのだろう、女はその足をピコピコと動かしてみせた。
……面白い女。
「足はあるようだが、君は幽霊なのか?」
「ああ、死んだは不適切ですね。薬をくれた方は『一時的に仮死状態になるだけ』と言っていたので、私は生きています」
「……“仮死”?」
頷いた女が泥だらけの手で差し出した紫色の薬瓶。
受け取って『鑑定』してみると強力な毒薬……どこが仮死だ?
「めちゃくちゃ不味かったのでひと口も飲めませんでした」
つまりこの劇毒が美味かったらこの女は死んでいたということなのだろう。
運がよかったな。
「私の私物は全て埋葬品になったようですね」
そういう女が見渡した穴の中には数冊の本、泥だらけのドレス、そして首飾り。
「この首飾り、王子が何かしたのか自分では外せなくって。お気に入りと思われたのかしら」
「王子限定で外せる点は気持ち悪いが、一応君を守る気はあったらしい。いろいろ付与されている……魅了、追跡、物理防御、魔法防御、防毒、防媚、防呪……ん?なんで防毒があって毒に?」
鑑定魔法を応用して首飾りに付与さえている魔法陣を見える化してみたら、『防毒』がしっかり付与されていた。
それならなぜ?
「これ、防毒ではなくて防
……間違えちゃだめなところだろう、そこ。
「ピンポイントで役に立たなかったな。まあ、この首飾りについている石は高価な宝石ばかりだから、売ればそれなりになるぞ」
「それなら受け取ってください、このお礼に」
そう言って笑う女の周りには大きな穴。
さっき俺が掘った穴だ。
「お、ありがとう」
この穴を掘るのは骨が折れたので遠慮なく首飾りを受け取る。
「とっても深く埋葬されていたんですね……ここまでやらなくても」
「怨念を持つ者の亡骸は深く埋める風習があるから、埋葬した奴は恨まれる自覚があったんだろうよ」
俺は土魔法を展開して穴の底を隆起させる。
そして、泥だらけの女に手を差し出した。
「墓場でこれ以上長話するのもなんだから、行くか」
「行く?どこにです?」
女のきょとんとした顔に俺は思わず笑う。
「俺の家。さっきの話では行く宛はないようだし、ついでに金もないんだろ?売れば金になる首飾りは俺のものだし」
「そうですね、では言葉に甘えさせていただきます……えっと、“オーランド”さん?」
魔法陣を解読して俺の名前を知ったのか……やるな。
「オーランドだ」
「サラです。背負った黒い大剣……私、『戦場の悪魔』の名を持つ“オーランド”という男の方を知っているのですが」
「ああ、それ、俺」
***
目の前の男性があの『戦場の悪魔』だと分かったとき、足元がぴかっと光って浮遊感に包まれました。
初めての間隔に戸惑っている間に、目の前には知らない風景。
さっきも知らない風景でしたが、さっきとは違う風景が広がっていました。
転移魔法です。
戦地を移動させられる日々、あれほど欲しかった憧れの転移魔法です。
「ここ、俺の家」
地理的にここが世界のどこにあるのか分かりませんが、目の前にある家がオーランドさんの家とのこと。
持っている鍵で扉を解錠しているので信じられます。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
開けた扉を押さえたまま私を中に入れようとして下さるオーランドさんは紳士的ですが、
「どうした?」
「歩くごとに土がボロボロ落ちるので、入るのが申しわけないというか……」
私の言葉にオーランドさんは納得したように頷き、「それじゃあ、あっちの風呂場から入って」と玄関扉とは別の扉を指しました。
なぜお風呂場に外に通じる扉が?
……もしや露出狂とか?
オーランドさんは美形な方なので女性がとても喜びそうです。
「他人に裸体を晒して快楽をえる趣味は俺にはないから。戦場ではいろいろ汚れるからね、外から直接風呂場に行けるようにしたんだ」
なるほど。
戦場にいても夜はここに帰ってこれたのですか……転移魔法、ぜひ覚えたいところです。
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