第16話 ローズルビーの入手先

ローザが亡くなった後、回復と補助をローザに頼っていたパーティーは、パーティーとしての活動が継続できなかった。新メンバーを考えたが、ローザのような存在は現れず、そのまま解散。カールはローザを埋葬した後、街に戻り、冒険とはかけ離れた生活をしていた。EXスキル:剣神を授かっていたが、彼女を死なせたことで冒険に出ることができないでいた。そこで出会ったのがヴェラードだった。


破天荒で遊び人のヴェラードはカールを兄弟のように、時には息子のように可愛がってくれた。また、破天荒なヴェラードなだけに、成功談よりも失敗談の方が多い。そんな話をヴェラードがしている間にカールに少しずつ笑みが増え、だんだんと閉ざしていた心が開いていくのだった。まるで精気が無かったカールだったが、ヴェラードとの生活の中でカールはたった数ヶ月でいつもの笑顔を取り戻していった。


そんな生活の中でカールはふと、緋爪族の子と恋仲になっていた話をヴェラードに話してしまったのだという。すると、しばらくしてからヴェラードがローズルビーを手に入れたという話を小耳にはさんでしまった。


ローザが緋爪族出身なのでローズルビーの名前を聞くだけでカールは嫌な気持ちになっていたが、それ以上にその宝石の出処が気になっていた。絶滅したと言われる緋爪族の心臓からしか取れないローズルビーの入手先と考えるとそうそうあるものではない。また、死者から心臓を取り出して得られる非人道的な宝石ということで、死者を尊重するこのアストレアスでは通常のオークションなどでは一切姿を現わさない。もし出品されるとしたら闇オークションくらいだ。そこで稀に出品がされる可能性があったとしても、それを競り落とすには莫大なお金が必要だ。貴族のヴェラードでもそうそう容易く競り落とせる金額ではない。未だ、緋爪族に関する不老不死の伝説は根強く語り継がれており、その研究を秘密裏に行っている存在もいるのだ。その存在は国家レベルでの資金を有していると言われている。更に上の金持ちがこの世界にはいるのだ。


ただ、カールは1つだけ確実に、しかも『タダ』で入手する方法を知っている。


「埋葬されたローザの心臓からローズルビーを取り出すこと」だ。


緋爪族はローズルビーの魔力により、亡骸となっても肉体は腐らない。その為、死後も腐敗せず、綺麗なまま永久にその身を携える。その為、もしローズルビーをローザから手に入れるなら、ローザの胸を切り裂いて心臓をえぐり出す必要がある。そして、もし、ローザの心臓を取り出せば、ローザの肉体は腐り始める…


カールはローザの埋葬場所を詳しく話していないが、パーティー解散後の旅の話をヴェラードに話していた。ローザの埋葬場所を推測するのは難しくない。頭の切れて様々な人脈のるヴェラードなら容易に到達できるだろう。


だが、カールはヴェラードがローザの心臓を取り出したなど信じたくなかった。自分が忠誠を誓うヴェラードが自分を裏切るはずがない。だが、一度疑ってしまったら、その疑いが晴れるすまでは気になってしまうものだ。


その疑念は時間が経つほどに募る。不安になったカールは、いつの間にか屋敷の中を調べるようになった。何かローズルビーに関連する情報があるのでは…?そう思うと調べないと気がすまなかった。


それはヴェラードがローザから心臓をえぐり出したという証拠が欲しかった訳ではない。逆に「そんなことはしていない」という証拠が欲しかったのだ。ローズルビーの入手先の情報や落札した記録、安心できる情報が手に入ればなんでも良かった。手に入れた経路を示す何かが見つからなければ、今の自分にとって家族とも言えるヴェラードを嫌いになってしまう。他に家族と言えるのはリクくらいしかいない。ヴェラードを信じられなければ自分の信じる家族のような存在が崩れ去ってしまう恐怖も、カールの不安感を増長していった。


カールはバレないように屋敷を捜索するようになった。最初は慎重に確認していたが、焦れば焦るほど何かを探しているという形跡を残してしまうようになった。カールが屋敷の調査をしていた形跡から、「誰かがローズルビーの盗難を企んでいる」と思われてしまう。その為、より警備が厳しくなってしまった。ヴェラードの身辺警護警護の強化も行うこととなり、カールはヴェラードの側から離れることも難しくなった。しばらく屋敷を調べるのを我慢していたが、その我慢がカールの心を徐々に狂わせていった。


月のない真夜中、カールは気が付くと、自分の愛した女性・ローザの墓の前にいた。墓の周りに掘り起こした形跡はない。だが、墓石の側に光る石を見つける。死者が死後の世界で道に迷わないようにと棺に入れる「光石」の欠片だ。非常に希少で高価な為、墓地とはいえそこらへんに転がっている物ではない。それがなぜここに…。


どうしても心配になってしまったカールは、誰にも見つからないようにローザの墓を暴くことを決めた。そして、掘り出した棺の中を覗いた。


「あ…あああ…ローザぁぁぁぁぁぁあああ…!!!」


そこにあるは血液の魔力で死んだ時のままの綺麗な姿の少女がいるはずだった。だが、棺の中には無残にも心臓がえぐり出された少女が横たわっていた。パーティーみんなで埋葬の為に用意した真っ白なドレスは切り裂かれ、棺の蓋が中途半端に閉められたせいで棺の中は泥だらけであった。そして、永遠にその美しさを保つはずだった肉体は心臓の除去と共に徐々に崩れ去ろうとしていたのだった。


「ローザ…ローザ…酷過ぎる…誰が…こんなことを…」


カールは最愛の人の変わり果てた姿を見て気が狂いそうになったが、怒りを一旦収め、ローザについた泥を落とし、むき出しになっていた肌を綺麗に隠し、泥をすべて取り除いて改めて綺麗に埋葬をした。そして、改めて怒りに狂う。早く屋敷に戻らなければ…。そして、ヴェラードに確認をしなければ…。

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