第17話 カールの想いとリクの提案
そうだ、もしかしたら、これはヴェラードじゃない人間の仕業かもしれない。そうだとしたら、ヴェラードにこの感情を向けるのは間違っている。だから確認をすればいいんだ。一言「俺じゃない」と言ってもらえれば、この感情を真犯人に向けられる!真犯人は絶対に許さない!絶対に見つけて、この手でローザにしたことと同じことをしてやる!!
そう思いながら、翌朝、ヴェラードに真実を確認をする勇気が出ない。もし、ローズルビーがローザのものであった場合、カールはヴェラードを怒りに任せて殺してしまうだろう。
それでも、カールは自分に言い聞かせた。
「宝石は彼女の元に返せるのであれば犯人が誰であろうと許そう。もし、ヴェラード様が犯人であっても許そう。許す代わりにローズルビーは譲ってもらえるようにお願いしよう。」
もし犯人であっても許すと何度も何度も自分に言い聞かせた。ただ、ヴェラードにお願いして断られたら…。そうなるとヴェラードを殺してローズルビーを強奪するしかないのか?だが、慎重なヴェラードは宝石を警備兵を使って厳重に守っている。
ヴェラードを殺せても、宝石を守る4人の傭兵に危害を加えず抑え込むのは難しい。殺してしまえば簡単だが、それではヴェラードと同じクズ人間になってしまう。それだけは絶対に嫌だった。
先に宝石を奪おうとすれば、警戒したヴェラードは逃げてしまうだろう。それではローザの仇が取れない。
どうやって奪おう…。どうやって殺そう…。そればかりを考えるようになるカール。
「ああ、僕が悪いワケじゃないのに!悪いのはローザにあんなことをした人間なのに!でも、この狂った頭ではこれ以上の解決方法が見いだせない!!」
久しぶりの休日で街中を歩けば少しはこんな感情から離れられるだろうか、と散歩をしていたその時に、カールはリクに出会った。そして、思った。
「もしもの時のために殺害と強奪を同時に行ってくれる信頼できる協力者がいれば…!!!」
リクなら自分のことを分かってくれるはず!協力してくれるはず!たとえその行為が残虐非道な行為であっても、兄弟のリクなら分かってくれるかもしれない。その時が来たらリクに協力をお願いしよう!
信頼出来るリクがそばにいてくれる安心感で少しは心が落ち着いた。カール自身も、普段の自分に近い感情に落ち着いているのを感じていた。
ただ、状況は急展開する。リクを執務室長に紹介した後にカールはヴェラードと隣町まで出かけることになった。5日に渡るヴェラードの豪遊の後、屋敷に帰ってきた直後にヴェラードと商人との会話をカールは聞いてしまったのだ。
「ようやく買い手が見つかりました。」
「そうか?値段は?」
「ヴェラード様のご希望価格を大きく上回りましたよ。」
「そうかそうか!でかしたぞ!これでまた数年は豪遊できるだろう。真夜中に『苦労してえぐり出した』甲斐があったな!ガハハハ!!!」
その言葉を聞いたカールはすべてを察し、今まで考えたくない最悪の予想が事実であったことを悟った。そして…
「…笑いながら、『苦労してえぐり出した』だと?」
抑えつけていた怒りの炎は爆発したように怒りとなって燃え上がった。
「誰から?!何を?!!えぐりだしたんだ!!!!」
我慢してきたものが一斉に溢れてしまったカール。もうその感情は自分では制御できなかった。背中の剣を抜くと近くにいた傭兵四人の首を一閃で斬り落とした。
『こいつらは常にヴェラードと共にいた!ローズルビーを手に入れた時だっていたはずだ!なら、なぜ止めなかった!!!こいつ等は共犯だ!殺されても仕方ない!!」
そして、少し離れたヴェラードに一瞬で近づき、ヴェラードの左胸に剣を差し込む。カールは剣先を上手く使い、ヴェラードが生きたまま心臓をえぐり出した。
「ぐぇぇ…、カ…カール…」
「ヴェラード!!貴様だけは絶対許さん!!これがローザの痛みだ!!」
心臓を抜き取られ、血を吹き出しながら絶命するヴェラード。
ヴェラードは顔面から地面に崩れ落ち、その周りには血だまりが広がっていった。
その光景をみた使用人たちは逃げ出し、警備兵は街の衛兵を呼ぶために警笛を鳴らし続けた。
「あなたがこんなことをしなければ…」
カールはしばらく呆然としていた。今までずっと脳内で色々なケースを考えていた。その中でも一番最低最悪のケースが事実として判明した。思考のリソースをすべてそこに使っていた為、今は脳内が空っぽになってしまったのだ。
だが、そのままボーっともしていられなかった。警笛を聞いて駆け付けた街の衛兵を見て、カールは意識を取り戻す。
「このままでは捕まる…まだ捕まるわけにはいかない!」
まだローズルビーをローザの元に返していないことを思い出したのだ。悪人だとはいえ、自分は人を殺しているのだ。自分が捕まって殺されても悔いはなかったが、ローザの元にローズルビーは返さなければならない。絶対にあの宝石を奪い返して、ローザに返さなきゃ。思考が停止していたカールは、もう「ローザに返す」ことしか考えられなくなった。
ちゃんと殺した理由を伝えればみんな自分の行いを理解してくれるだろうか?ヴェラードの行為がいかに非道で、自分がどれだけ正しいことをしたのかを。
ただ、信じてもらえなければローザの元にローズルビーを返せない。このまま自分が死ねば、それは一生叶わなくなる。リクにお願いすれば…いや、信じていたヴェラードに裏切られたのだから、確実に戻せる方法を取らないといけない。
信じられるのは自分しかいない。
狂った感情と思考の中で、カールは覚悟を決める。
「誰にも止められないくらいに強くなって、すべて自分の手で終わらせる。ローズルビーも奪い、ローザの墓に戻して、俺も死ぬ。絶対に…絶対に…これだけはしなきゃ…。」
カールは追いかけてくる警備兵を退け、街を抜け出した。そして、この北の山にやってきたのだ。
「ここで剣の腕を鍛えていたんだ。左腕は無くなっちゃたけど、前よりも数倍も強くなれたよ。」
「ああ、見た感じ…恐ろしく強くなったな…。」
「この剣も僕の味方だ…。左手が無くなった時に見つけて命を繋ぐことが出来たんだ。それに、力を僕にくれる…。」
カールの右手には長身のカールの身の丈もある剣。ただの剣じゃない。いわゆる魔剣というものだろう。剣を振るう右手の手首までドス黒い痣が出来ている。。そして、カールの目つきがおかしい。この魔剣の持つ魔力に取り込まれてしまっているのだろう。
だが、あの魔剣を奪えばカールも正気を取り戻すかもしれない。
「でも、もうローズルビーは無いんだね。幼なじみのリクの力になったんだ…うん…それでいい、ローザが君の力になったのなら…。このお話しはもう終わりだ。」
一人で満足そうな笑みを浮かべるカール。だが、そこにリクが忠告する。
「じゃあ、もうこの話は終わりでいい。だが、今後の話がある。」
「今後?なんだい?」
「自首しよう。」
「はぁ?」
カールは何を言ってるんだという顔でリクを見ている。
「何をするって?」
「自首。きっとお前は許される。」
アストレアスは命の尊厳を深く尊重している。魔物が世界中に分布しており、その魔物たちは魔素の多い場所から離れて街までやってくることが非常に多くある。大きな街であれば防衛設備や兵がいるが、近隣の村ではその度に命をかけて戦い、多くの人が亡くなっている。だから、死者への冒涜は決して許されないとしている。
今回は私利私欲の為に墓暴きをしたヴェラードに非があると誰もが認めるだろう。
例え、ヴェラードが誰もが認める素晴らしい領主だったとしても、墓暴きをしたとなれば許す者はいない。冒険中に亡くなった冒険者の死体から装備品を剥ぐ行為が禁止されているのもこれが理由だ。死者の墓暴きというヴェラードの行為に、カールの正当な復讐、そして自ら罪を認める自首。カールにも多少のお咎めがあるかもしれないが、ほぼ無罪に近い形で許される可能性が高いだろう。
しばらくぼーっと考えたカールは笑いながら答えた。
「ハハ…そうだね…リクの言う通りだ。俺はちゃんと罪を償わなければならない。」
リクはすぐ自分の意見に賛同したカールに
「おお、さすが相棒!任せろ!オレがカールのこと全力で守ってやるから!じゃあ、一緒に街に帰ろう。」
リクはカールに近づき、肩に手を置こうとしたが…
「だけど…」
リクの手をスッと避けたカールが冷たい表情で言う。
「だけど、自首は無理だよ。」
「どうしてなんだ?もう『このお話しはもう終わりだ』って言ったじゃないか?」
「違う違う。ローズルビーのお話しは終わり。でも、ローザの復讐はまだ始まったばかりじゃないか?」
「おい、もうヴェラードも亡くなって復讐は終わりだろ?!!」
カールの両肩を掴んで必死に止めようとするが、急に怒りを爆発させたカールは狂気の表情でリクに言い放つ。
「いや、また共犯者達が残ってるだろ!!ヴェラードと付き添ってた傭兵どもはぶっ殺してやったが、あの時殺し損ねた商人!!あと、一緒にいた御者、それを引いていた馬もだ!!それと、それと…怪しい奴は全員だ!!」
「待てって!1そこまでやる必要はない!これ以上!もう手を汚すな!!目を醒ませよ、相棒!!」
「知るかよ!オレは相当怒ってんだよ!ローザを汚した奴らは全員地獄行きだ!!」
怒りが収まらないカールはリクを突き飛ばす。
リクはカールが素直に話を聞いてくれると思っていた。だが、現実は違った。リクはゆっくりと足りながらカールに告げた。
「…それは駄目だ。どうしてもと言うなら、カール、お前はオレが止める!!」
目を丸くするカール。
「オイ、リク。邪魔するならたとえリクでも容赦しないよ?」
「それでも!オレはお前を止める。たとえ、力づくでも止めてみせる!!」
「やってみるかい?EXスキル『剣神』を手に入れた僕に敵は居ない!!」
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