第15話 緋爪族のローザ

木陰から音もなく姿を現したのはカールだった。


「相棒って言った…リク…、本当にリクなのか…?」


か細い声。もしかして泣いているのかもしれないと思わせるような、そんなカールの声にリクが答える。


「ああ、カール、オレだ。リクだ。どうしてこうなったんだ…相棒…」

「それはあとで話すから…ローズルビーはどうなった…?君が守っているんだろ?」

「やっぱり、何かローズルビーとお前に何か因縁があるんだな。」


無言のカール。リクは言葉を続ける。


「答える前に一つだけ質問したい。なぜ、ローズルビーをそんなに気にするんだ?」

「…」

「言わなくてもいいさ。どっちにしろ、カールには残念な話がある。ローズルビーはもうこの世の中にない。」

「え…?どうして…?」

「オレのEXスキルのせいで経験値になっちまったんだ。」


リクはローズルビーが無くなる瞬間の説明をした。自分のEXスキルの説明をし、カールがヴェラードを殺した瞬間に触れていたため、所有者が不在になったところでリクの経験値になってしまったことを話した。


「…そうか…。ということは、ローズルビーが無くなったのは俺のせいか…。」

「タイミングが悪かったんだ。あと10秒でもオレがローズルビーを早く手放しておけば…」

「フフフ…結果的に…まぁ、それなら良いかな?アッハッハ…」


リクの説明を聞いても無表情だったが、少しずつ笑みを浮かべ、最後には大笑いをし始めた。


「おい、カール。何がおかしいんだ?」

「うん、いいよ、それでいい。大切な人が大切な人のためになったなら全然良い。親友のリクの経験値になって、あの小汚いヴェラードから奪い返せたのなら、それはそれでいいさ。」


見たことも無いカールの表情に寒気を覚えるリク。あの温厚で優しいカールにこんな顔をさせるなんてヴェラードは一体何をやらかしたんだ?


「お前がそんな顔をするなんて…、カール…、ヴェラードとの間に何があったんだよ…」

「話してあげるよ。ヴェラードの糞野郎のことをね!!」


半年前、ふとしたことからカールは女性だけで組まれたパーティーに所属することになった。最初は女性パーティーの一人がイケメンのカール目当てで遊び半分でパーティーに誘ったのがきっかけだ。だが、誘った理由は本当に困っていたこともあったからで、実はパーティーメンバーの一人が絶滅したと言われていた「緋爪族」の生き残りだったということに起因していた。


アストレアスには特別な種族も存在する。その種族はEXスキルとは別に「血統スキル」を持つ。こういった種族は、様々な要因で生まれてくる。種族と名が付くほどに見た目が人間からかけ離れる場合もある。特殊な容姿や能力は時に人外として扱われ、迫害されたり研究として誘拐や殺害されたりと、非常に酷い扱いを受けることがある。


その中で、緋爪族は見た目は人間と同じなのだが、血液を使った特殊な魔法を得意としており、攻撃・回復・補助までこなす万能な一族であった。その特殊な血液から爪先がルビーのように真っ赤なことから「緋爪族」と呼ばれていた。


「緋爪族の血を飲めば不老不死になる」と言った噂が広がったこともあった。実際は飲んでも何の効果もない。だが、嘘でも試す価値はあると一部の貴族では緋爪族を探し回ったりもした。また、緋爪族のその特別な血は魔力を失うと凝固して宝石のような輝きを放つ。そして、激しい戦闘の中で死んだ緋爪族の心臓は特別な血液の作用で死後に心臓が破裂して薔薇のような形の美しい宝石になるという。その為、薔薇の宝石を求めた人々によって緋爪族は絶滅したと言われていた。


そこまで聞いてリクは悟った。リクの知るカールからは想像できないような残虐な行いをなぜヴェラードにしたのかを。そして、リクは何故か安心した。


リクはカールを心の底から「イイ奴」だと信じていた。うまく言えないが、悪いことを無為に仕出かす奴では無いと信じたいと思っていた。子供の頃に悪いことをするのはいつもリクの仕業で、カールはリクを叱ったのちに、そんなリクと一緒に謝ってくれた。まるで自分のことのように謝ってくれた。


そんな優しいカールが、ヴェラードにあんな残虐極まりない行為をしてしまったのは、特別な人への侮辱に対する怒りと特別な人への優しい想いがあったからだ。カールの蛮行を「正しい行い」だとは認められないが、この話を聞いて、リクは改めて、カールが持つ「大切なものへの優しさ」を信じることが出来たことにホッとしたのだ。


カールは更にその後について詳しく話す。


緋爪族を狙う悪党はカールがパーティーに加入することで追い払うことができた。さすがに新進気鋭の若手剣士に喧嘩を売って無事に済むはずもなく、絡んできた輩はカールが排除した。その輩たちの手掛かりから悪さをしていた集団は国に通報されて逮捕された。その後も不安はあったが、しばらく経っても襲われるようなことはなかったので。不安を追い払ったことで感謝した緋爪族の子「ローザ」はいつしかカールと恋仲の関係になる。


だが、その後の冒険中にカールはローザを死なせてしまう。


カールの判断ミスで判断ミスで、自分たちでは手に負えない魔物の群れとの戦闘が始まってしまった。必死で逃げる中、転んでしまったローザを庇おうとしたカールだが、そのカールをローザが突き飛ばした。ローザはなんとか即死を避けられたが、もうここから逃げられないと悟り、緋爪族が命と引き換えに体内の血液を高質化させて放出し、爆発させる秘術で魔物を倒すのだった。


「ローザ…なぜ…」

「私だけ死ねばみんな助かるから」

「みんなで助からなきゃ意味がない!」

「そんなことないよ。カール、あなたは私の大切な人だし、私はあなたの大切な人だもの。だから、私はずっとカールの中にいるわ。だから、私の分まで『君は長く生き抜いてね』。」

「ローザ…」

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