第14話 北の山奥

リクはその夜、北の山奥を目指した。


同行する者は誰もいない。出かけることも誰にも伝えていない。リク一人でケリを付けるつもりだ。


リクは全力のスピードで走っている。そのスピードは訓練された騎馬隊の馬を超えるスピードだ。そのスピードで走って疲れないというのだから、レベルアップによる身体能力アップの恩恵は大きいのだろう。


また、リクはテクニックをフル活用していた。オーラ系テクニック「身体強化」、瞬間的にスピードを上げる「ダッシュ」を常にフル稼働している。自動変換で溜まっていたテクニックポイントを十分使い、テクニックの性能を挙げてある。更に使い続けていくことで更に性能が上がる。本来、連続使用には相当のスタミナが必要だが、今のリクなら無理をすれば出来る。リクのスピードは更に加速していくのだった。


朝方になった頃、リクは北の山に着いた。情報の通り、山の奥の方へ進んでいく。


北の山は魔素が濃い場所で有名だ。その為、魔素を好む魔物が潜んでいる。普段、街の近くにも現れるゴブリンのような通常の魔物も、ここの魔素を吸収したゴブリンは何倍も強くなっている。


早速、リクの目の前に魔物が現れた。ゴブリン…ただのゴブリンじゃない。歩いている時の身のこなし、明らかにフットワークを使ってる。魔素の影響で知恵もついているせいか、ここのゴブリンは些細な情報も見逃さないように常に辺りを観察して行動している。それに、持ってる武器は刃が欠けているが、元々はなかなかに業物であろうロングソードだ。ここで死んだ冒険者の持ち物を拾ったものなのだろう。ゴブリンはリクを見つけると一瞬で距離を詰めてきた。


「いいぜ、やろうよ。オレもどれだけ強くなったか試したかったからな。」


飛び掛かるゴブリンから袈裟斬りで振り下ろされる剣を最小限で交わし、リクは素早く剣を振るう。ゴブリンは真っ二つになって崩れ落ちた。


「大丈夫。今のオレならここでも十分通用する。だが、カールもここで過ごしているとしたら…今のカールがどれくらいの実力を持っているのか想像もつかないな…」


魔素の影響で強くなったゴブリンを一薙ぎで倒したが、そのせいでブロードソードは刃こぼれしてしまった。奥に進むほど更に固くなるであろう魔物達を、いつまでこのブロードソードで貫けるか不安に思ったのと同時に、ここで生き抜いているカールの剣とぶつかった際にブロードソードが役立つのかが不安だった。


そんなことを考えながら、正規の道を外れて、崩れた道を突き進むリク。目指している北の山の中腹にある大きな滝でカールと思われる人影が目撃された為、リクは最短距離で滝に向かう。


目撃地点の滝まで辿り着く。辺りには人がいたと思われる形跡はない。


「こんなところに本当にカールがいるのかね…」


この場所に来るまでに戦った魔物たちは数か月前のリクでは歯が立たないような凶悪な魔物ばかりだった。ここでカールを見つけた冒険者達は8人パーティーで挑んでいたという。それくらいの準備が必要な場所なのだ。だが、カールらしき人物はここで鬼人のような強さで魔物を屠っていたらしい。しばらく辺りを眺めたが、カールらしき人物は見当たらない。仕方なく、リクは叫んだ。


「カール!!話がある!!!出てきてくれ、相棒!!!」


こんな山の中で大声を出せば気が付いた魔物が接近する危険性があったが、そんなことを考えて待っている余裕をリクは持っていなかった。ただ早く、カールに会いたい。その気持ちで一杯だったのだ。


しばらく静寂が包んだが、リクはわずかに背後の森から禍々しい気配を感じた。振り返ってしばらく待っていると、森の暗がりから音もなく姿を現したのはカールだった。

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