第13話 転職希望とカールの行方
その後、街中では…
「リクが狙われたヴェラード様の宝石を持ってるそうだぜ?」
「リク?あの新進気鋭の若手冒険者か?。」
「でも、少し名の知れた盗賊ならリクくらいの若造、すぐに殺っちまうんじゃないか?」
「それが、最近リクは一気に実力をつけたらしいぜ。ヴェラード様のところの警備兵4人を子供扱いにしたって言うじゃないか?」
「どんだけ実力者なんだよ!それだけの実力だとレベル15は無いと無理だろ?でもあの若さだろ?となると、リクってのはよほどのEXスキルを手に入れたのか?」
「さあな。だが、そんなスゴイEXスキルを手に入れたのならヴェラード様が国に報告するだろ?そんな大したEXスキルではないんじゃないか?」
そんな噂が街に流れる。ところで、現在のヴェラードの持ち物の所有者はヴェラードの執務室が保持している。宝石の件は警備兵のリーダーが執務室長に話しをして、宝石はリクが管理・保管することになっている。執務室にも危険が及ばないように、執務室も協力してオレに一任していると触れ回ってくれていた。ちなみにオレは執務室長に会っていない。会ったらウソがバレそうだからな。
で、その噂が色々な人をリクの元に呼び込んだ。
持ち主が居なくなった宝石を譲って欲しいという商人。こいつらは内緒で売ってしまえば分からないと言っていたが断った。というか、実物が無いので大変良い話だが受けることが出来ない。そうしたら「悪いことが起こりますよ」とかなんとか言ってきた。きっと脅しなんだろう。
だが断る。
理由は、「持っていないものは売りようがないから」。そして、そんな悪巧みを考える奴はきっと悪いやつなので国の警備兵に報告しておいた。
更に、ヴェラードの親戚・一族という者も現れた。この宝石を返して欲しいということだったが、この宝石は事件の重要なアイテムなので今は引き渡せないと伝えた。
一族の宝だとか言って突っかかってきたが、胡散臭い。最近手に入れたものなのに家宝な訳が無い。ヴェラードは家族がおらず、独り身で悠々自適な生活をしていたらしいし。
と言っても本当に一族の方の可能性も無くはないので、後にお渡しするので今は我慢してくれと言う。それでも「今すぐよこせ」と収まらないのはなんなんだこいつら?
よほど金に困っているのか?そんな奴が金持ちで遊び人のヴェラードの一族な訳がない。というところで、偽物っぽい奴らは国の警備兵に調べさせて捕まえさせた。嘘は犯罪だからな。まぁ、オレも嘘をついているのだが。バレなければ本当になる。
そして、しばらくして盗賊や暗殺者がやってきた。最初は宝石狙いの盗賊だったのだろうと思っていたけど、どうやらオレが衛兵に密告した商人や取り調べをさせた貴族が報復で暗殺者を送ってきてるようでもあった。
盗賊や暗殺者は美味しい。襲ってきた暗殺者や盗賊の装備を奪い、経験値に変換できるからだ。襲ってきたら躊躇なく装備品を経験値に変えていく。もう全身剥いで、裸にして追い返す。すると、しばらくするとまた襲ってくる。また身ぐるみを剥いで追い返す。すると永久的に経験値が稼げる。襲ってくる奴らが一流なら装備品も一流で、経験値にすると非常に美味しかった。そして、経験値に変換することを続けたことで、EXスキルのレベルも上がっていた。
《スキルレベルアップ!属性武器を使用したEXP変換を一定数行いました。テクニックポイント変換を覚えました》
技能ポイントはレベル上げだけでは覚えられない「テクニック」を覚えるのに必要なものだ。最初にズックと戦った時に使った「心眼」もテクニックの一つだ。本来、テクニックは実践を積み重ね、その結果覚えるものだ。この実践というのは対魔獣でも対人でも構わない。また、個人で修練を積み上げても備わっていく。だが、とても時間のかかる作業である。「テクニック」とはそういうものなのだ。修練の末に、一定の技量があるとこの世界的に認められた時に「テクニック」が身に付く。特定のアイテムや装備品を装備することで「テクニック」が与えられたりこともあるが、基本は修行が必要。技能ポイントはその積み重ねにかかる時間をゼロにするものだ。
「なんて素晴らしいEXスキルなんだ!」
いやぁ~、いつか様々なテクニックを覚える為に一度は修行期間が必要だろうと思っていたが、技能ポイントもアイテムのEXP変換で手に入るようになっちゃったか~。それも経験値と一緒に手に入る。ただ、僕が本当に欲しいのは「自動EXP変換のオフ機能」です!!!覚えるのか分からないけど、早く覚えたい!!切実に!!
まぁ、それはそうとして、技能ポイント変換を活用して剣士の「テクニック」を一通り覚え、使えそうな「テクニック」を中心にレベルを上げていった。その中でオレにとって、とても便利な「テクニック」があったのだ。
「ウェポンスティール(武器強奪)」
これは相手の装備品を剣で絡めとり、装備を奪うものである。もちろん、奪われた敵は装備品が無くなる。盗賊のテクニックのように思われるが、これはれっきとした剣士テクニック。よく決闘などで相手の武器を弾き飛ばすアレだ。本来の目的は武器自体を強奪するのではなく、相手の攻撃力やプライドを強奪するテクニックである。
だが、リクの場合は弾いた武器が相手の所有物として権利を失ったものになるので、弾き飛ばした武器を手にすれば自分のものとして経験値に変換させることが出来る。
「これは美味しすぎる。」
大体、自分の獲物を奪われた襲撃者はやる気を無くし、だいたい逃げていく。そして、次の襲撃時には新しい武器を持ってやってくる。もう、経験値稼ぎ放題だ。技能ポイントもたまると、リクはあることに気付く。
「ん?竜巻斬り?」
貯めた技能ポイントで新たなテクニックを習得する際、リストに「なぜか」竜巻斬りがあったのだ。
「これは剣士でも大剣使いが覚えるやつだろ?」
普通、剣士と一括りに言われるが、正確には「剣士」と「大剣士」がいる。いわゆる片手剣持ちが剣士、両手剣持ちが大剣士とされる。リクは大剣を使わないので竜巻斬りは通常覚えないはず。だが、リストには出てきた。つまり、
「テクニックは使えるだけの能力があれば使えるってこと?」
確かに、テクニックリストの更に奥に行くと、剣士は覚えないであろう、でも、過去に見たことがあるテクニックが表示されている。襲ってきた盗賊や暗殺者が使っていたであろうテクニックもある。
「ふむ、もしかしたら、これは意外な発見かもしれない。そういえば…神官のリュスリムさん、オレとカールが無謀なクエストを受けたと聞いて追いかけてきた時、神官なのに斧担いで斧テクニック使ってたな…。案外、職業の垣根とかよりも、適正とか実力とか知識で覚えられるのかもしれないな。」
と、リクは便利そうなテクニックをちょこちょこと覚えていく。
そんなこんなで、色んな者に襲われる日々を繰り返していたらレベルは40に到達していた。
「これだけレベルが上がればそろそろ転職できそうなものだけどな…」
ソードマスターは強い剣士であればだいたいの冒険者が転職している上位職だ。早ければレベル30くらいで到達できる職業である。リクのレベル以下でも転職できるなら、転職出来てもおかしくないのである。
「そういえば条件が色々あるとか言っていたな。」
そういえば、上位職だった師匠が「東方で手に入れた剣を使っていたら転職できたぞ」と言っていたな…。
ハッ!!装備品?!も、ももも、もしかして…装備品が転職に関連しているとか?たしかに「騎士」や「近衛兵」が国からの印で転職できるとしたら、ソードマスターは何かしらの武器を装備しないといけないかもしれない。例えばある素材以上の剣を装備とか、属性の付いた剣を装備とか…。それはあり得る。ある剣士はドロップ品の剣を試しに装備した瞬間にソードマスターになったとか。ということは、オレの場合…装備出来ないから剣士のまま?!
「は、ははは…終わった。一生剣士だ…。」
だが、リクはまだあきらめていない。素手で戦う「拳闘士」は武器を装備することなく、上位職「ゴッドハンド」に転職する。装備品が関連していると思われるソードマスター以外にも上位職はあるはず。
「む!素手剣士とか?なんだそれ…もう剣士じゃねーだろ…」
だが、未知の上位職がいつか現れるかもしれない。リクはそれを心待ちにするのであった。
といいつつ、リクが本当に待っているのは、転職やテクニックの選択肢が増えたという通知ではない。リクが待っているのは、幼いころから一緒に育った相棒の行方である。
カール…お前はどこへ行ってしまったんだ…。
噂を広めて欲しいとリクが周りにお願いしているのは、真犯人であろうカールがオレを狙ってくれるのを期待しているのもある。
カールとは幼なじみの相棒だ。リクが今、こうして冒険者をしているのもカールのおかげでもある。そして、カールが及んだ謎の凶行。それも、リクになら話してくれると思っているのだった。
そうこうしながら事件から2ヶ月が過ぎようとした時、一つのニュースが入ってきた。
「カールらしき人物が見つかった。」
ヴェラード殺害後、行方不明となっていたカールは、当初かなりの警備兵を捜索隊として動員して捜索をしていた。だが、その足取りは全く見つからなかった。
ところが、つい先日、北の山奥で鬼神のごとく魔獣を狩るカールと思われる人物が見つかった。特徴として左腕は腕の根元から無く、右腕だけで身の丈ほどの禍々しい長剣を振り回していたらしい。動きは野性的でありながら太刀筋は極限まで美しさを放っていたそうだ。あくまで背恰好と髪色とその凄まじき剣技からカールと推測されただけではあるが、間違いないだろう。
北の山奥はレベル25ほどの4人パーティーが経験を積むのに最適な場所だ。そこで戦うカール…その能力はレベル40相当にはなるだろう。
「なにしてんだ?お前は化物でも目指してるのかよ…相棒…」
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