第12話 カールとヴェラード

「それにしても、本当にカールがやったのか…」


リクはあまりに信じられない出来事につい言葉が口から洩れてしまった。


「ああ。間違いねえ。通路の上から見たが、あれは確かにカールだった。」

「子供の頃からカールのことは知っているが、オレの知る限りではそんなことができる奴ではないんだが…」

「だが、屋敷に戻った直後、急に傭兵ども4人の首をたったの一閃で切り落としたぞ。」


えええ?!一振りで4人もクビちょんぱ?!


「その後、ヴェラード様の心臓を剣でえぐり出して殺した。」

「何、その残虐な殺し方?!あのカールが?…信じられない…」


二人で活動していた時のことを考えると、スピード型のカールにそんな力はなかった。魔獣であれ人であれ、簡単に生き物を一刀両断するのは相手とそれなりの装備品とレベル差が必要だ。冒険者をしていたとしても、その後屋敷の護衛をしていたカールのレベルは、どう考えても5~7、多くて9くらいだろう。


それが同レベルか格上の傭兵を一瞬で4人同時に首チョンパしてしまうんだからEXスキル:剣神は相当なのだろう。傭兵たちのカールへの印象はと言うと


「カールは常にヴェラード様に誠実に仕えていたと思ったんだがな。」

「主と家来を超えた親しさはあったな。」

「家来というより友達…いや、家族と表現した方が良いかもな。」


だそうだ。まるで兄弟のように仲の良いところしか浮かんでこないそうだ。喧嘩どころか、カールは口答えすらしたこともないし、ヴェラード様が叱った姿をみたことがないそうだ。


「そういえば最近、カールが寂しそうな顔をしていたが、ヴェラード様に昔の女の話をしてから、そういう表情をするようになったと思ったんだが…」


ただ、ここ2週間のカールの動きがおかしかったのもあったようだ。


「何か女関係で変な因縁でもあったのか?全く検討もつかねぇ…」


カールとヴェラードの間に因縁があるとすれば、ひとつ考えられるのが宝石:ローズルビーだ。2週間前にこれを手に入れてからヴェラードは狙われるようになったと言っていた。カールとローズルビーに関係があるとか?その関係者とカールが繋がっているとか?謎は深まるばかりだ。


「ところで、カールはどこにいるんだ?」

「騒ぎを聞きつけた街の衛兵が来た所で逃げた。街の北の方に走っていったが、その後は分からん。」

「北というとオレたちの故郷の村がある方向ではあるが…そこには多分行かないだろう。」


故郷に逃げても、そのうち追手がやってくるだろう。その時、かくまっていた人がいたとしたら、その人も同罪となる。孤児院に帰り、どこかに隠れていたとして、もしカールがいるのが見つかったら孤児院にいる人達は同罪扱いの罰を受ける。貴族殺しだ。生半可な処刑では済まないだろう。優しいカールが孤児院の人達を巻き込んででも逃げようとするだろうか?いや、それは絶対にない。北に逃げたのは何か別の目的だろう。


例えば、故郷の村の更に北の奥には凶悪な魔獣が生息するエリアがある。一般冒険者なら立ち寄らない、歴戦の冒険者でも避けて通る場所だ。だが、EXスキル:剣神を手に入れたカールならそこに隠れ住む力はあるかもしれない。あそこに逃げ込まれたら追える人物は数少ない。だが、追えるだけの実力を持った冒険者はこの仕事を受けないだろう。要人殺しの報酬は高いが、探す場所が危険な森となればリスクも高い。国から派遣される警備兵に頼るしかないのが現状だろう。


「とりあえず、カールが国の警備兵に確保されるまでは待つしかないだろう。」

「それもそうだな。ところで、宝石の件の報告はどうする?」


くっそ、宝石の話を蒸し返すんじゃねぇ!うーむ…仕方ない…


「それは…宝石をオレが隠し持っていることを街中に広めて欲しい。」

「なんだって?本当にいいのか?そうしたら今度はお前が宝石を狙っているヤツから狙われるんじゃないか?」

「ああ、大丈夫だ。覚悟の上さ。」


名探偵のごとく額に指を当てて答えていく。


「もしカールが犯人だとしたら、カールは宝石目当てにオレを狙ってくるだろう。その時、おとなしく罪を償うように説得できるのはオレしかいない。」

「だが、キール以外の物取りからも狙われるかもしれないんだぞ?この屋敷で守るような24時間体制の警備は出来ない。そんな危険な仕事を任せて大丈夫なのか?」

「オレが逆に襲ってくる奴らを順番に捕まえてやるよ。カールの紹介でここに入った責任もあるしな。」

「もしお前が命を落とした場合、宝石の隠し場所はどうなる?」

「安心しろ。その情報は冒険者ギルドに預けておく。死後、執務室長だけに伝わるようにしておくよ。」

「なるほど、冒険者ギルドなら安心だろう。宝石の為とはいえ、ギルドに喧嘩を吹っ掛けるバカはいないだろ。カールもリクにならおとなしく捕まってくれるかもしれないしな。人を殺めたとしても元同僚だ。俺としてもちゃんと罪を償ってほしい。その案でいこう。よし、俺が執務室長に報告してくる。」


警備班のリーダーが執務室長に向かっていった。良かった。リクが説明していたらウソがバレたんだろうなと思う。


こうして、リクは自分に不利な状況を作ることでローズルビーを隠し持っていることを押し通した。だが、この事件の中心人物になってしまったことで、もはやこの事件から逃げだすことが出来なくなったのだった。

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