第11話 街で一番誠実な男

リクは頭が真っ白になっていた。カールが伯爵を殺した?ローズルビーは急に無くなっちゃうし、なんでこんな訳が分からない状況が連続して起こるんだ?


EXスキル貰ったら楽しい冒険者生活が始まるはずだったんだぞ?それが、一気に貧乏になって、泣きながら夜を過ごして、昨日は「冒険者として頑張ります!!」って祝賀会で言ってたのに、今日になったら警備していた宝石「ローズルビー」は事故で経験値になり、その結果に泥棒扱いされて、家族ともいえる人物が5人も殺人を犯して逃亡、オレは共犯者扱いになっている。


ダメだ思考が追い付かない…。ガックリとうなだれたい。あ、うなだれてました。


「む?!その反応、やっぱり共犯なんだな!捕らえろ!」

「まぁ、待てって。」


まずはこの状況を収めよう。リクは飛びかかる傭兵どもを軽く片手でいなしながらかわす。ローズルビーの経験値のお陰だ。更にレベルが上がり、現在はレベル30だ。ストーンゴーレムと素手でタイマン張ってもワンパンで勝てるくらいには強い。


「くそ…、若いのにやっぱり強いな…。こうなったら怪我させてでも…」

「落ち着けよ。オレが犯人なら今ここにいる全員ぶっ殺して逃げてるし、実際それが出来るだろ!」

「な!…ぐっ…」


リクの言葉に突撃を躊躇する傭兵たち。

剣を抜いたリクは一人の傭兵の胸の心臓の位置に剣を突きたてる。あまりのスピードに傭兵たちは動くことすらできなかった。

リクが言葉を続ける。


「オレがみんなを殺さず、今もまだここに残っているのは何故だ?オレは犯人を捕まえたいからだ!それがヴェラード様への恩返しだ。」


口からでまかせにもほどがある。リクが仕事を始めてまだ1週間。ヴェラードに恩など全く感じていない。まぁ、ここ1週間ちゃんと食事できてるのは感謝してるが。


と、その前に、ヴェラードはリクが来てすぐに遠征に出かけたので、リクはヴェラードの顔すら見たこともない。そして、今日戻ってきたらようやくご挨拶出来ると思っていたら死んでしまったから、結局、一言も会話をすることもなかった。

もし、似顔絵が10枚あって、「どれがヴェラードでしょうか?!」と言われたら余裕で外す自信しかない。そして、外しても全然悔しくないくらい、ヴェラードに対する想いなど無い。


それはそうとして、こんな言い訳を続けても信用されるんだろうか…。結局捕まるなら自白した方が楽に殺してくれるのではという考えが頭をよぎる。ゴネることで苦しみを感じながら殺されるなら、楽に殺して欲しいな―。こんな思いするならもう死にたいんだもん。


すると、傭兵の一人が言う。


「…確かに、オレがリクで泥棒だったら、ここにいる全員口封じに殺して逃げるな。」

「たしかに。オレがリクなら、自分がトイレの隙に全員殺されて宝石も無かったと言うだろう。」

「オレがリクなら、宝石は侵入者が持って逃げた、グルだった警備員は全員殺したが侵入者は逃したと言ってもいいな。」

「オレがリクなら、宝石を確認しに来た段階で無言で全員背中から剣で腹を刺す。不意打ちだ。その後は屋敷に火でも放って証拠を消す。あとは、適当に宝石を闇市に流しておしまいだ。ついでに高価な品々も一緒に盗んで売り捌くぜ。」


他の傭兵も同調する。というか、放火や追加で泥棒まで考えるのか、すげーな。お前らの方がよっぽど悪党だよ。お前らがリクじゃなくて本当に良かった。


「そうすれば目撃者もいないわけだもんな。証言も言いたい放題だ。」

「それもそうだな。もし、オレだったらそうするぜ…」


む、なんか、これは良い方向に流れてるのか?よし、この方向でオレは最後の賭けに出る。


「そうだろ?オレは無実だ。お前らがそれを信じないなら仕方ない。」


すらりと腰の剣を抜く。


「無実のオレに容疑をかけ、その隙に財宝を狙う可能性がある怪しい奴らとして、残念だがお前らを始末させてもらう。」

「おいおい、やめてくれよ!あくまで一番怪しいというだけでお前が犯人だと断言している訳ではない。リクも逃げないならそのままでいい。」


そして最後は余裕の態度。


「ああ、オレもお前たちが襲ってこないなら、お前たちが味方だと信じよう。」

「俺たちだってお前が逃げなければ襲う必要もない。そのままでいてくれよ?」

「オレは逃げも隠れもしないぜ。むしろ、犯人はオレが捕まえる!!」

「怪しいと思っていたが、こっちの味方だと思うとなんか頼もしい感じもするな。」

「任せておけって!!オレは街で一番誠実な男だぜ?八百屋のおばちゃんに聞いてみな?」


ふぅ~、ハッタリ終了。背中に汗ビッショリだぜ。なにせ、装備品を装備してないからな。相手の剣で切られたら魔力が流れていない紙装甲状態の防具はスッパリと切り裂かれてオレは流血間違いなし。また、こちらの剣は相手の防具に傷一つ付けられずに折れるだろう。「装備」はマジで大事。このレベル差なら体術だけでなんとかなるかもしれないが、一撃喰らったら致命傷もあり得るからな。正直、荒事にならなくて良かった。


それにしても、罰が怖くてこんなウソをついてしまったのはなんだか罪悪感を感じる。警備兵の人たちに大変申し訳ない気持ちで一杯だ。実質、どう考えても犯人はオレなんだもんな。街で一番誠実な男?八百屋のおばちゃんに今すぐ全裸で土下座したい気分だ。


そんなオレの気持ちは置いといて、とりあえず、オレは宝石泥棒疑惑は第一容疑者ではあるが、逮捕や拘留は一旦保留になった。それよりも、カールが犯人ってどういうことだ?あのカールがそんな事件を起こすとは思えないんだが…。

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