第10話 思い込め、オレは悪くない

頭を抱えたリクはヴェラードの死を聞いて理解した。


つまり、こういうことだ。ローズルビーの所有者であるヴェラードが殺されて亡くなった。その結果、所有者が一時的に居なくなったんだ。その瞬間にオレが触っていたから、所有者がオレになってしまった。なんというタイミング!!


くそ!暗殺者!宝石を箱に戻すまでのあと10秒だけでもヴェラードを殺すのを待ってくれれば良かったのにな!!


暗殺者のバカ―!!!

あと、ついつい触ってたオレのバカーーー!!


「トホホ…」


どうしよう…今、生まれて初めてトホホって口にしちゃったよ…と言っていると、部屋の中に傭兵たちが駆け込んでくる。


「おい!リク!宝石は大丈夫か?!」


リクを押しのけて警備兵が宝石箱を開けるが、中は空っぽだ。


「おい!宝石がないぞ!?まさか!リク、お前が…」

「違う。オレは盗んでいない。」


そう、盗んだ訳じゃない。所有者がオレに移り、それを経験値にしてしまっただけだ。


ん、待てよ?つまり、あのローズルビーは「この世界」的にはオレのものだったのだ!!あの瞬間、間違いなくオレが所有者だったのだ!!「この世界的に」=「神様のご判断」と言ってよい!!そうオレは完全に!まったく悪くないのだ!!


…と言って済むのならそう言っているが、世間的に一般的な状況証拠から考えたら、この世界的にオレが犯人なんだ。


「リク、本当なのか?じゃ、逃げるなよ。尋問をするから大人しくお縄につけ。」

「尋問だって?待て待て、オレを疑うのか?」

「疑って当然だろ!警備をしていたお前がいて、宝石が無い。今、お前が一番怪しいんだ。」


正論である。ぐうの音も出ない。ここで大人しく捕まるのが得策か?いや、捕まったら犯人はオレになるだろう。宝石が見つかるまで拷問されるだろう。だが、宝石はもうこの世には無いので、実質死ぬまで拷問である。まだ宝石がこの世のどこかにあれば言い訳も出来るのだろうが、この世に無いものはどうしようもない。


「オレのスキルの結果、経験値になりました!でも、これは事故なんです!」


と、言って、自分のEXスキルを詳細に説明してみてはどうだろうか?「この世界的に」所有者はオレになっていたという理論が通じれば…まあ、通じるわけがない。「なるほどねー。この世界的にリクが所持者だって認められたなら仕方ないか。」という人は100人中0人で間違いない。自分でも認めない。そんな人がいたら教えてほしい。


一般的に所有者が亡くなっても、一応は死んだ人が所有者だ。次の所有者が明確になるまでは普通そうだろう。普通そうだよな。死んでいた冒険者の装備品を剥ぐのは冒険者として御法度だ。そういう理論が世に浸透しているから一般的にはオレの過失だな。そんで、結局「あなたのせいで宝石が無くなったんですよね?」で、死刑だな。


おお?!違う話になっちゃうけど、もし死んでる冒険者に触ったら勝手に装備品を経験値にしちゃわない?行き倒れが生きてるかどうか確認する時は気を付けないとヤバイな。


と、つい現実逃避していたが、今回はオレのせいでもあるんだけど、不可抗力だ。そう嘆きつつ、短い時間で考えた挙句に出した答えがこれだ。


「外から声が聞こえた時、オレは宝石を誰にも分からないところに隠した。オレにしか分からない隠し場所に隠している。」


こうなったらやけくそだ。隠したことにする。そして、ほとぼりが覚めたらうやむやのうちに奪われたことにしよう。その前にどこか遠くに逃げよう。そうしよう。だが、性格上、ウソがバレやすいからな。思い込め!思い込むんだ!オレは宝石を誰も分からないところに隠した!!そう、オレの経験値として隠した!戻ってこないけどー!!


「なんだと?じゃ、その宝石を見せてみろ!」


そうくると思った。


「断るね!だいたい、お前らこそ怪しい。見せたところでそれを奪って逃げるんじゃないか?」

「俺達がそんなことするわけがないだろ!新人のお前が見張っていて宝石が無くなった。お前が怪しいんだ!」

「新人が怪しい?そっちこそ昔から虎視眈々と伯爵の財産を狙っていたんじゃないか?」


と、逆に難癖を付けていくリク。よく考えろリク、その線は間違っていない可能性もある。警備兵が宝石を盗み出すチャンスを作っている可能性も考えろ。伯爵殺害もこいつらの手引きで、宝石を強奪しようとしているかもしれない。疑え!思い込め!こいつらを疑え!!こいつらは宝石を奪おうとしている!警戒するんだ!宝石が無くなったのは自分のせいだが、宝石を狙っていたのはコイツ達だ!


リクの謎に凄い迫力に、警備兵達は唖然としたあと、怒りながらリクに食い掛る。


「んな訳ねぇだろ!俺たちはヴェラード様が今よりも力をつける前から支えてきたんだぞ?」

「そんなものは大金やお宝の前ではすぐに揺らぐものだろう?」

「給料も良いから犯罪に手を染めて大金を手に入れる必要もない!」

「だから、死んでも遊べるほどの金の前では何を言っても無駄なんだよ。」


あまりに無理があるリクの返答だが、警備兵達はリクのような冒険者同士の交渉術に長けている訳ではなく。どう説明していいのか分からなくなっていた。執務室長のような頭の良い人がいなくて良かったとリクは安心していた。困った警備兵はリクに質問した。


「だいたい、お前はなんなんだよ?一週間前にお前が来てヴェラード様は殺害されて宝石が無くなって…一体お前は何者なんだ?」


そこでオレはこう言ってやった。


「何言ってんだよ!オレはヴェラード様のお気に入り・カールの古い親友にしてほぼ兄弟、そのカールの誘いで来たんだ!それでもオレを疑うのか!!」


自信満々で言い放つと、警備兵達は顔を見合わせてこう言った。


「じゃあ、お前が犯人だな。」

「へ?どうして?」


傭兵たちが声を揃えて言う。


「「「「そのカールがヴェラード様を殺したんだよ!!」」」」


「ふぇ?…マジかよ…相棒…」

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