第9話 消えたローズルビーの謎

面接合格と共に警備の仕事を始めようとしたリク。カールから警備仲間に紹介してもらうことになっていたが、カールはそこにいなかった。カールはリクが着替え中にヴェラードに呼ばれ、そのままヴェラードの遠征の護衛をすることになり、そのまま遠征に行ってしまったのだ。ということは、ヴェラードにもしばらく会えない感じか。うむ。挨拶くらいはしっかりしたかったのに。


さて、リクは屋敷の保管庫で宝石を守る任務に就くことになった。宝石を守る傭兵は5人。ちなみにヴェラードの遠征の護衛もカールを含め5名の兵士が付いていった。


屋敷の中に保管されたローズルビーは入り口が一つしかない宝物庫で守ることとなり、その部屋の中に一人、部屋の入口に二人、部屋までの通路を二人で守ることになる。そして、ローズルビーの保管される部屋の中の警備をリクが担当することになった。


当初は新米ということで保管庫の外の通路を守ることになるはずだったのだが、


「わ、若ぇのに強いんだな。ま、まぁ…これは力量テストみたいなものだ。こんなに強いなら心強いな!」

「リーダーより強ぇじゃん。」

「バカ野郎!テストだから多少手を抜いてだな…って、こんな簡単にあしらわれちまったら否定のしようもねぇ。まっ、頼りにしてるぜ!!」


力量テストと言う名の「新人イジメ」をしようとした兵士のリーダーがあっさりリクに返り討ちにあったことから、リクが宝石の一番近くで守ることになったのだ。


「オレ、そんなに強かったっけ?」


と思って確認したステータスでレベルを見ると…


「レベルが…22?」


その時は自動変換のあまりのポンコツ具合に怒っていたせいでしばらくステータスを見るのを忘れていた。ラッキーシューズを手に入れた時に入った経験値は破格だったため、大幅にレベルが上がっていたのだ。


冒険者のレベルは昼夜を忘れるくらいに目一杯狩りを行って、2ヶ月で1上がるくらい。2日前まではレベル7だったのに、知らぬ間にレベル22まで…。


普通、レベル20となると30歳くらいの鍛え抜かれたベテラン冒険者である。


大体1年で上がるレベルは2~3くらいだ。計算上、20年戦うとレベルは50くらいになる。だが、レベル50になるには、その時のレベルで同等に戦える敵と戦い続けてようやく手に入る力だ。魔獣もレベルが20を超えるあたりから知恵を持った行動をするようになる。魔獣が一気に強力になるため、倒してレベル上げをするのは困難になる。レベル20以上になることはとても難しいことなのだ。それに、人間は年を取る。16歳から始めた冒険者も、20年経てば後は体力的に下り坂だ。


もし、若くして高レベルを目指すなら、自分より強い魔物と戦っていく必要がある。よほど命知らずで無ければレベル50は到達できない。ましてや、レベル100ともなると未開の地に住む魔人クラスである。それこそ、本当に魔人クラスを目指して日々秘境を走り回る存在でないと到達できない領域である。


自分の生活にあったレベルまであげたら、それに見合う敵を倒していくのが普通の冒険者である。


「こんなに短期間で一気に強くなれるとは…成長に関しては自動変換さえなければ大当たりスキルとしか言いようがないな。」


そう思いながら目の前の宝箱に目をやる。


「もしかして、このお宝も経験値にできたとしたら…ゴクリ…」


今、リクの目の前にある宝箱の中にローズルビーが保管されているのだ。


「狙われるような宝石ということは余程高価なものなんですかね?

それとも何か因縁があるとかかな?」


試しに宝箱を開けてみる。


「ほー、キレイだな。こんなでかい宝石は初めてみた。」


勝手に宝箱を空けても良いのかと思われるかもしれないが、この世にはどのようなEXスキルがあるか分からない。あると思っていたら偽物だったり幻だったりということもある。そのため、定期的に触って実物があることを確認するようにと言われている。もちろん手袋は着用済みだ。


直径15cm。まるで真紅の薔薇をそのまま宝石にしたようなローズルビーは光を浴びてまるで生きている薔薇を連想させるような光を放つ。だが、リクはこの美しさになぜか怖さを感じていた。血のように真っ赤な赤色はまるで命の終わりを感じさせる雰囲気を持っていたのだ。その怖さを感じつつも、あまりの美しさにリクはつい手のひらに置いて眺めてみたくなり、実際に手に取ってしまった。


ちなみにローズルビーはヴェラードのものなので、自分のものじゃない。触って消えることはない。


「まぁ、これを狙っている盗賊がいるってことだもんな。おい、お前、盗まれるんじゃないぞ!」


そう言いつつ、リクがツンツンとのローズルビーをつついた。


「やっぱり不思議だな…何かこの宝石に悲しみを感じるだよな…」


リクは宝石箱にローズルビーを戻した。


そんな感じで1週間が過ぎた。


リクが心配だった誕生日会も無事盛大に終えることができたこともあり、リクはとても陽気だった。ご祝儀は多額の金額になると予想されたため、入場時に執務室の一人が回収して支払いまで済ませてくれた。その為、酒場にも執務室長にも借金をせずに済んだ。最後に貰った金額は全部経験値になってしまったが…。そんなこんなで、久々に羽目を外して浮かれていたため、リクはかなり調子に乗っていた。


いつものようにローズルビーを宝箱から取り出した。前にも言ったが、ローズルビーはヴェラードの物だ。だから経験値にしたりはできない。そう、そのはずなんだ。そのはずだったし、最初はそうだったんだ!今だってこうして手のひらでローズルビーは輝いている。が、リクは調子に乗って、ローズルビーにキスをしたのだった。


「おー!いとしのローズルビーちゃんよ!君のお陰で僕は昨日冒険者として華々しいデビューを飾ったよ♪今日も元気?チュッ」


するとその瞬間に…


宝石:ローズルビーを手に入れましたが、経験値6,249,671になりました。


「ちょっと待ったーーーー!!!!なぜ経験値になったぁぁぁぁ?!」


待て待て~~~~ぇ!!さっきまで手のひらにおいてたぞ?その時は経験値にならなかった!!それはつまり、これはオレの所有物ではなかった証拠だ。


え?さっきキスしたから?いやいや有り得んだろ!キスしたらオレのもの?


そんなんで所有者が勝手に移ってたまるか!お店の武器にキスしたらオレの武器か?まぁ、店主に見つかったら買取しろとは言われそうだけど。女の子にキスしたらオレの嫁か?そんなことないだろ!まぁ、自分の彼女じゃない子にキスしたら罰せられそうだけど。


宝石の所有者はオレじゃないはずなのになんで経験値になるの?!


どういうことだ?意味が分からない。だが分かることがある。オレはとんでもないことをやらかしてしまった!!!ヴェラードが大事にしていたローズルビーを、私がこの世から消滅させてしまいましたとさ!!!とさ!!!


どーしたらいーんですかーーー!!

おれはどーなるんですかーーーー???


と、心の中で叫んだ後に放心状態になる。このまま口を開けて一生ぼーーっとしていたい。でもそんな場合じゃない。宝石が無くなった今、オレはどうするべきなんだ?!


トイレに行くふりしてそのまま逃げるか?


だが、オレと宝石が一緒に無くなったら確実にオレが犯人だ。とはいえ、オレが居ても宝石が無いとなると、それもオレが犯人だ。


この状況、逮捕確定演出ですか?


待て待て、考えろ。他に何か方法はないだろうか?例えば、急に盗賊が来て盗んで行ったと言ったらどうだ?警備員としての責任は問われるとしても犯人にはならないのでは?だが、実際に盗賊はこの屋敷に入っていないし、自分だけが目撃者だと言い張っても、他の4人が守るこの通路を完全にスルーしてくる盗賊は相当の手練れだ。尚且つ、傭兵のリーダーのEXスキル「完全気配感知」は完全に気配を消せるスキル「完全気配遮断」も「あれ?なんかいるかも?」くらいに感じるスキルだ。リーダーがまったく気配を感じなかったと言えば、やっぱりリクが一番怪しいと犯人扱いされるのは確実だ。


まぁ実際に宝石が無くなってるの、オレのせいなんですよねー。無くなった原因を作った人間が犯人というのであるならば、それはオレだ。うん、オレなんだ…。


犯人として捕まったら奴隷になるの?いや、貴族の宝に手を出したなら死刑もありうる。すごい拷問とかもある?もっとひどい事される?生まれたこと後悔しちゃう?いやだよ…って、また泣いちゃう。最近泣いてばっかりじゃん。


無い知恵を絞り、起死回生の回避策を考えていると、なぜか屋敷の外が騒がしい。執事の叫び声がする。


「おい!大変だ!ヴェラード様が殺された!護衛も全滅だ!屋敷の中は大丈夫か?!」

「なんだって!!おい、お前ら宝石を見に行くぞ!!」


続けて、部屋の外で待機していた警備兵の声が聞こえる。リクは呆然と立っていた。


「オーマイゴッド、なんてタイミングなんだ…」


連続して起こる事件に、リクは頭を抱えてしまうのだった。

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