第8話 「この世界」のルールの抜け道
と思いながら箸をつけてみると…
「うま!!!焼いた肉、うま!!!エール、冷た!!キンキンだ!頭イテー!!」
「おいおい、落ち着いて食えよな…それにしても、めっちゃ喜んでるな…」
「ああ、ありがとう!ありがとう!あの…もっと食べていいか?」
「食い放題だからな…好きなだけ食えよ…相棒…」
「ううう…ありがとう!!…もぐ…ありが…もぐ…ダメ…泣いちゃう…モグモグ…」
これは発見だった。ルールの抜け道ってやつなのか?
食事を奢ってもらったとしても、それはあくまでカールのものを食べている状態なのだ。お金を払うのがカールであれば、所有者はカールなのだ。そして、リク自身はこの肉三昧食べ放題を「装備」をするわけではないのでこの世から消滅しない。
これがプレゼントだとダメだ。所有者が自分に移った瞬間に消滅する。あくまで、「カールのものを食べている」という状況じゃなければならない。リクは奢ってもらった瞬間に自分の所有物になると思っていたが、ステータスにあった「この世界」的には「奢りはあくまで他人のものだよ」ということなのだろう。試しにロックできるか試したが、出来なかった。だから、これは「カールのもの」で間違いないのだろう。
リクは考えた。
借りたもの、奢ってもらったもの、所有物が自分のものでなければ消えない。そういうことであれば…
「おい、カール。なんか仕事ないか?報酬にモノや金は要らないが、『誰かがオレに飯を食わせてくれる』という状況になればいい!できれば『寝る場所』も!なぁ、相棒!」
「ああ、実はオレもお前に頼みたいことがあったんだ。良いところで会えたよ…相棒…」
カールの依頼とは、カールが今仕えているこの地域の伯爵「ヴェラード」の屋敷の警備をして欲しいとのことだった。
どうやら、カールが仕えるヴェラードが最近手に入れたお宝が何者かに狙われているらしい。ただ、実力と信頼を兼ね備えた人物が足りないらしい。そこでオレなら警備としても十分以上に役立てるし、街の人からも信頼が厚い、なにより、ヴェラードのお気に入りであるカールの推薦と言うことであれば最適だと言う。そして、その警備の仕事は衣食住完備で給料も良いと来た。
「分かった!オレに任せろ。絶対に警備の任務を遂行してみせるぜ、相棒!」
豪快なサムズアップと笑顔で答えるリク。それなら、さっそく面接をしてしまおうという話になった。とりあえず、お腹がパンパンになるまで肉を食べ、そのままヴェラード伯爵の屋敷に向かうことになった。
冒険者として名を馳せる夢は捨てたわけではないが、とりあえず来週に迫った誕生日会を乗り越えなければならない。それを乗り越えるために、しばらく厄介になろうと思ったのだ。
移動中にカールにヴェラードの狙われているお宝の状況を聞く。ヴェラードは最近手に入れたという「赤い宝石・ローズルビー」が狙われていると言う。屋敷に誰かが忍び込んで調べたりした形跡があり、その原因がどうもこの宝石を手に入れてからということだ。そこで腕利きの警備兵を探しているところだったという。リクは貴族も大変なんだなぁと思いつつ、カールとしばらく歩いて、ヴェラードの屋敷に到着した。そのまま屋敷の中の執務室に辿り着いたリクとカール。
「執務室長、新しい警備兵を探してきました。」
「そうか、カール。では私が面接と採用を行おう。君はヴェラード様の遠征に付いていってくれ。なぁに、君の知り合いだ。すぐに合格だろう。」
「そうだと助かります。さぁ、リク、彼がここの執務室長だよ。後は彼に聞いて貰えばいいよ。彼がこの地域の政治の一切合切を取り仕切っている。実質、この地域の領主みたいなものだからね。」
「へ?ヴェラード様は?」
「まぁ、大事な場所では先頭に立つが、基本は遊び人だな。」
「カール…そんなこと言っていいのか?」
「まぁ、それくらいヴェラード様は気さくなのさ。」
「そ、そうか?オレはお貴族様ってだけでビビってるけどな。」
緊張しまくっているリク。それもそのはず、ヴェラードの屋敷は余りにも大きく、田舎者のリクは緊張していたのだ。そんなリクに執務室長が声をかける。
「さて、君の名前は?」
「あ、あ、リクです!す、すごく立派なお屋敷ですね!」
「ハハハ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。私はヴェラード伯爵の領地の運営を
取り仕切っている執務室長のユーゼリウスだ。では、採用するにあたって、まずは君の実力だが…」
「えっと、それなりに強いです!現在、Eランク冒険者です。」
「ほう、その若さで?素晴らしいじゃないか。では合格だ。」
満面の笑みで答えるユーゼリウス。緊張していたリクはあっけにとられて、つい普段の口調で聞いてしまう。
「はぇ?良いんですか?もっと性格とかどうとか…」
「ハハハ、実はカールからすでに君のことは聞いていたのだよ。村から出てきた兄弟がいるってね。」
「兄弟…。へへ、血は繋がってないけど兄弟か…へへへ。」
自分もカールのことを他人に話す時は「相棒」と話していたが、時々「兄弟」とも話していた。リクはカールが同じ想いを持っていることに素直に照れてしまう。
「だから、若い子を連れてきたと聞いて、君のことだとすぐに分かったよ。それに君の街での評判は私たちの耳にも入っている。」
「悪い噂では…ないですよね?」
「もちろんだ。これでもこの地域を取り仕切るのが私たちの仕事だからね。街中にも色々と目を光らせてもらっているよ。」
不敵な笑みを浮かべるユーゼリウスにやや怖さを感じる。
「君は街の人たちにも誠実だと評判だ。よろしく頼むよ。」
「はい!ところで、お給料のことなんですが…」
「ん?カールから聞いていると思ったが、仕事内容の割には高給だとは思うがね?」
「実は大変申し上げにくいのですが…」
「給料を今から前借りしたい、とかかね?」
「いえ、ある理由でお金より、オレが好きな時に好きなだけユーゼリウスさんがオレに食事を奢って頂けたらなぁって…」
「お金があれば食事は出来るだろう?」
「その…それは…」
EXスキル「EXP変換」は極力バラさない方が良い。と言うのも、リクのような誰も知らない激レアEXスキルを得た人間は本来、国で管理されてしまう。一部の激レアEXスキルはすでに内容が判明しており、国に知られるとすごい勧誘が来る。まぁ、だいたいの人は国に就職する。公務員は安定感あるからな。ただ、国益にあまり関係ない系列のEXスキルの場合は国の管理から外れることもある。リクの場合は国の管理から外れるかもしれないが、リクは冒険者として活動したいこともあり、激レアスキルが出た場合でも内緒にしてくれるリュスリム神父の教会でこっそり調べたくらいだ。今ここで領主の側近にバレたら国仕えが確定するかもしれない。ウソをつくしかない。
「…そう、お金持ってると借金取りに持って行かれちゃうんですよ。」
「借金取りにお金を返せばいいだろ?」
「いや、もうそれものすんごい借金で。もうお金持ってると袋叩きにされてお金持ってかれちゃうんで、ご飯食べられないんです!」
「ふーむ、借金取り程度に後れを取らるような警備兵を雇いたくはないのだがな…」
「えっ?!っと…そう!その借金取りは『貧乏神』と言われるような奴でして…強さもホントも神クラスでして…」
「嘘は良くないな、リク。」
うお!余裕でバレた!!冒険者相手なら得意な交渉事も、頭の良い人との会話だと変な説明をしてしまう。嘘が苦手な性格が恨めしい。
「リク、言いづらいことがあるなら言いづらいと言えば深く詮索はしない。冒険者の業界には様々な境遇を持つ人間がいるのは知っているからな。だが、嘘は許されん。怪しい人間だとしても、我々に嘘をつかないのであれば使いようはあるが、一つでも嘘をつくなら二度と信用しない。即クビ…うむ、ついた嘘の内容によっては我々が持つ権力を行使させてもらうこともある。それだけはしっかり肝に銘じておいて欲しい。」
こういう頭の良い大人は苦手だなぁ。すべて見透かされてしまう。ある程度話しておくしかないのか…。
「分かりました。私のEXスキルの関係上、お金よりも食事を支給して頂く、いや、支給というよりおごりじゃないと駄目なので、執務室長に『食事を奢って欲しい』んです!」
「なんだね?君は珍しいEXスキルを持っているのかね?」
「あ、これは国には言わないで欲しいのですが…」
「フフフ、安心したまえ。そんなこと国に言うわけないじゃないか。君だけじゃない。カールが元気になったら国に報告することになっていると聞いていると思うが、カールが随分元気になったからと言って、我々が国に「彼が元気になりました」と伝えると思うのかね?」
「え?!言わないんですか?」
「当たり前に言う訳がない。元気になったと言えば、カールは国に持っていかれてしまう。わざわざ有能な人材を手放す必要があるかね?なら、まだ言わなければ良い。」
「なるほど…。ただ、それは国に対する嘘じゃないですか?嘘は良くないって…」
「たしかに嘘は良くないな。だが、私自身はカールがまだ元気とは言えるような状況ではないと思っている。それならば、国に報告するべきではない。元気になったというその加減は明確になっておらんので、あちらがどう思うかは知らないがな。さて、これは嘘をついていることになるのだろうかね?」
「え~っと、すごい真っ黒に近いグレーな考えだなと思いました…。」
「フフフ、我々にとってそれは誉め言葉だよ。」
領主とかその側近って国に忠実なのかと思ったけど、意外にしたたかだったりするんだな。怖くなってきた。
「さて、リクくん。だいたいの事情は理解した。『私の奢りで』君はこの屋敷の食堂で好きな時に、好きなように食事ができるように手配しておこう。また、屋敷の一部に君の部屋を『私の奢りで』貸し出そう。給料はその分、少なくなるぞ?」
「大丈夫です!それでいいです!」
「うむ、では差し引いた給料の支給はどうする?」
「実は、来週16歳の誕生日会があるのですが…その支払いをお願いしたいので、余った額でどうにかなりませんか…?」
「よろしい。では、酒場のマスターには請求を私宛にするようにお願いしておこう。その支払いを私がする。その代わりに、リクは無償で警備の仕事をすること。退職時にその期間と成果において支給額を私が頂く。酒代以上の支給額なら、その時に渡す形を話し合うというのはどうかね?」
「最高です!それでお願いします!!」
ということで、とりあえずの当面の生活における不安要素がなくなったリクは、支給品の服に着替え、支給品の装備品を身に付けて(身に付けているが装備はしていない)、さっそく警備の仕事をすることになったのだ。
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