第7話 カールとの再会

街中をトボトボと歩く。

さっきから何度も不意に今後の自分を想像してしまい、その度に涙ぐむリク。


そんな時に、リクに若い男から声がかかった。


「よう!元気ないじゃないか?相棒!」

「ああ…、それがな…って、カール!カールじゃねぇか!お前こそ元気か?相棒!」


語尾に「相棒!」。俺たちの昔からの癖だ。


声を掛けてきたのは、リクの唯一の親友で家族とも呼べる「カール」だった。


カールは子供の頃からの親友で、一緒にこの街で冒険者を始めた、まさに「相棒」と呼べる存在だ。二人は同じ村の出身で、共に両親を早くに亡くした為に村の教会で一緒に過ごしてきた。お調子者で粗雑なリクとは対照的で大人しくて優しいカール。正反対だが同じ境遇同志、兄弟のように育った。また、孤児院の先生が優しい人で、二人とも素直で真面目な性格に育った。14歳になった時、リクとカールは一緒に冒険者を志し、田舎町からこの街にやってきたのだ。


カールも剣士だ。リクと共に幼少期は野山を駆け回った。魔法の素質はお互いに無かったが、リクはパワー系、カールはスピード系の能力に優れていた。二人は冒険者になる為に街に来たが、到着後に出会った師匠との修行のお陰で、リクはパワー系、カールはスピード系のスキルを覚えた。


この街に到着してから1年経った後、リクとカールは二人で剣士パーティーとしてやっていたが、カールはとにかく女にモテた。背が高く、金髪で長髪、細身だが鍛え抜かれた身体。そして、何よりも女性にも見えてしまうような美しく整った顔立ち。街を歩けばすぐに女性が近寄ってくるくらいだ。カールは困っていたがな。


さて、なぜそんな親友カールと一緒に冒険をしていないのか?それはある女性パーティーが関係していた。


街に来て二年が経とうとしていた時のことだ。リクとカールは仲良くなっていた女の子パーティーからパーティー加入のお誘いがあったのだ。女の子だけだとなめられたり難癖をつけられたりするのが怖いらしい。さらに最近は変な気配を感じたりもするようになったので、男性がいると心強いとのことだった。カールは困っている人を見捨てられないと言い、すぐに承諾した。


だが、オレは女と組みたくなかった。


冒険中も何かと気を使うし、一緒にいる戦闘で女の子が傷付くのを見たくない。自然と女の子を庇う形になれば後手の戦闘になり、効率を悪くするだろう。効率が悪いだけならまだしも、ジリ貧になれば命の危険も考えられる。そして、もしその子たちが命を落としたら責任が取れない。女の子が死なないように庇えば先に自分が死ぬ。リクは女の子たちと一緒に冒険を続けていく自信が無かったのだ。


そういう訳で、リクはカールと別れることになったのだ。


一人になったリクは、カール以外とパーティーを組むのがなんとなく嫌で、他のパーティーに入らず、ソロで活動することにした。というのが現在ソロパーティーの理由だ。後にまたカールが今のパーティーを離れた時に気軽にパーティーを組めるしな、という想いもあった。


リクもカールも、それぞれの想いの違いでパーティーを解散することになったが、お互いの意見を理解した結果の解散なので、カール自身との関係は今でも良好だ。


カールは新しいパーティーでそこそこ名を挙げる活躍をしたと聞いていた。だが、パーティー内で出来た恋人が、半年前の戦闘中に亡くなってしまった。それが原因でカールは冒険者としてひどく落ち込んでいた。この時、リクはわざわざカールを訪ねて、一晩中側にいて慰めたのを覚えている。


その時のカールもまだ15歳。EXスキルを得ていない状態だったが、リクと同じでEランクという肩書が彼を調子付かせてしまったかもしれない。そう思うと、一人前の冒険者になるというのは本当に大変なことなんだなと、リクもカールも思ったのだった。


その後、カールは彼女の故郷で彼女の埋葬を行うと言って別れた。そして、埋葬の後はしばらく旅にでるということだった。彼女が小さい頃に過ごした景色をゆっくりと見てみたいとのことだった。


リクは、カールが戻ってきたら改めてパーティーを組もうと誘ったが、冒険者はもうやらないと聞いていた。今日の再開は、カールを慰めた時以来となったのだ。


「…はは、元気なさそうにみえるか?…実はな…オレの獲得したEXスキルなんだけど…」


リクは自分が得たEXスキルが超ハズレスキルだったことを伝えた。強くなる為には申し分ないスキルだが、今後手元に金が残らないこと、装備品の更新が出来ないこと、まともな食事も寝床も用意できないことを伝える。普通に考えれば、リクはそこらへんの冒険者に比べればかなり良い生活が出来るような実力派冒険者だったはずのに…。


「なんか…大変だな…強い=裕福のこの世界で貧乏は辛い…」

「ほんと、それなんだよ!!世界中を旅して、カッコ良くて強い装備を見つけて、美味いものを思いっきり食って飲んで!!それなのに、オレは今後何のために頑張ればいいんだ…。」

「たしかにそうだな…お前も大変なんだな…」


ん?カールの表情が何やら暗い気がするが…。カールもまだ彼女のことで心を病んでるのかもしれない。暗い話は止めて、ちょっと話を変えてみよう。


「お、そうだ。お前はどんなEXスキルを手に入れたんだ?誕生日、オレよりも少し前だったよな?」

「俺か?俺のEXスキルは…驚くなよ…なんと!『剣神』だ!!どうだ!!相棒!」

「ままま、マジかよ!!剣神は剣聖、剣王の上位EXスキルだろ?オレ達が一番欲しかったEXスキルじゃないか!!滅多に出ないEXスキルなんじゃないか?」

「ああ、そうさ。」


なんと、カールは1ヶ月前の誕生日に神の信託で「剣神」を得たという。勇者パーティーに入れるくらい有能EXスキルじゃねぇか。その前に、国が有能な人材を引き抜くからな。たぶん、国の騎士団に入って、のちは騎士団長だな。でも、なんで、ここにカールがいるんだ?


「でも、それだと国が黙ってなかっただろ?だって『剣神』だぜ?」

「そうだな。神殿で『剣神』と判断された時は国からスゴイ勧誘があった。」

「だろうな~。となると、ジョブも『剣士』から『騎士』か『近衛兵』か?いや、そのまま伸ばして『ソードマスター』もあり得るか?」

「いや、俺は剣士のままだよ。」

「ええ?」


アストレアスにはジョブという概念がある。これは様々な条件で上級職への転職条件が現れる。レベルアップやスキル獲得のアナウンスと同じで、それは唐突にやってくる。その中で、国に使える際に授与される騎士団の印を受けると『騎士』に、更に上級の王直属部隊で貰える印を受けると『近衛兵』に転職できる。剣士では覚えられないスキルを覚えられる為、王国に就職することは強くなる手段の一つだ。だが、騎士系統は防御寄りのスキルを覚える為、剣士のまま成長しソードマスターになるのもアリだ。ソードマスターは戦闘において鋼鉄の防具を装備した人間、もしくはその硬度に準ずる魔物を一刀両断するなどの条件を満たせばなれる。


「だって、戦闘において優秀な人材は全員国に所属する義務があるだろ?もし断ったら罪になる場合もあるって聞くぞ?」

「ああ、だが、すべて断った。」

「えええ!国の命令を断るって?!それは大丈夫なのか?」

「大丈夫…だった。彼女が死んで、腑抜けた俺を見たら国の人達も去っていったよ。」

「まぁ…あの時のカールは今にも死にそうだったからな。」


本当に死んだような顔つきだった。その顔を見た国の人たちも、さすがにこんな状態では「剣神」であろうと国で管理するほど価値がある人材とは判断しかねたんだろう。


「そんな時に声を掛けてくれたのが、今仕えている『ヴェラード』伯爵だ。」


剣神を手に入れたカールの元に国の遣いがやってきた時、地域の代表として一緒にやってきたのがこの地域の領主『ヴェラード』伯爵だ。どうにもならなそうなカールと対応に困惑している国の遣いを見て、


「この状態じゃ、国の方もカールの扱いに悩むだろう。私が面倒を見て、活気を取り戻したら改めて私から国に声をかけるというのはどうだね?」


この対応には国の人もしっかり管理してくれる人がいて安心したという。その後、カールは領主の元で少しずつ元気を取り戻し、今では身辺警備の一員として領主の側にいるらしい。リクも、そんな状況じゃなかなかカールに会わない訳だと理解した。


「それにしても、『剣神』か…。羨ましいな。それに比べて、なんなんだよ…オレは干し肉と水だけの生活だぞ?」

「なんだ、飯喰ってないのか?そりゃ、元気も無いわけだ…よし、メシおごってやるぜ!相棒!!」


先程の落ち込んだ表情を見せたカールを心配していたリクだったが、


「タダ飯!!!オレは今、猛烈に腹が減っている!!!うお!!!ありがとう!!」


リクはそんなことも忘れてとにかく飯の事しか考えられなくなっていた。


そして、街一番の酒場に到着。カールが豪勢にも「エール飲み放題付き・特製肉三昧食べ放題コース」を二人前注文する。


だが、そこでリクは思い出す。どうせ食べようとする瞬間に経験値になるんだろうな…

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