第4話 アプデした「自動EXP変換」の罠
喜び勇んでEXP変換の自動機能をオンにした瞬間、リクは戦慄を覚えた。
《金貨10枚は、経験値10,000になりました。》
《銀貨66枚は、経験値6,600になりました。》
「うお!!待て待て!!お金も所持品になるのか!」
ついついアイテムばかりに目が行き、リクはお金自体にロックをするのを忘れていたのだ。急いで財布の中を覗くが…
「ああーああ…、せっかく貯めたお金が…」
経験値16,600という大量の経験値取得によりレベルアップしたが、リクは素直に喜べなかった。あと、かろうじて服や下着もロックしておいて良かった。あやうく全裸になるところだった。いや、全裸に皮鎧か。変態過ぎるわ。
幸い、日常生活で使うものは基本的にロックしてあった。フォークやスプーン、水筒などもロックしてあった。これ、ロックしてなかったら食事は毎回素手、水の持ち運び不可だったのか?一生そうだったのかもと思うだけで、精神的に死にそうだった。と考えていたら、寝具である寝袋や毛布が消えていたことが発覚。ロックし忘れだ。これからの野宿はどうしたらいいんだ…。
ということで無一文に…いや、何故か銅貨は残っていた。ああ、ロックを掛けた所持品の一つに大事にしている「記念品の銅貨」が一枚あったためだ。お陰で銅貨は残っていた!バンザイ!だが、無一文ではないが、銅貨だけでは安い食事が出来ても宿に泊まるには足りない。
「失ったものはしょうがない…稼げばいいんだ!!」
もう陽が傾いている。日没まで2時間ほどだ。そうなると、宿に泊まれるほど稼ぐにはいつもより強い魔獣を狩る必要がある。草原をひとまず通り抜け、少しだけ危険な岩場まで足を伸ばす。魔物の強さはそこそこ上がるが、リクのレベルも上がっているので問題ないだろう。
急いで狩場に着くと、リクはすぐに幸運と出会うことになる。
「お、マジかよ!!ラッキーラビットだ。出ろ!ラッキーシューズ!!」
ラッキーラビットはとても便利な「ラッキーシューズ」というアイテムを落とす。ラッキーシューズの防御力は低いが、「歩くスピードアップ、歩くたびHP回復(小)、疲労軽減、歩くだけで経験値獲得(小)」というチート性能だ。戦闘が苦手な貴族では、ラッキーシューズでレベリングするのが常識なので非常に高く売れる。そして、なかなか巡り会えないラッキーラビットだが、出会えればまぁまぁの確率でラッキーシューズを落とすのだ。
「レベルが上がってリアルラックも上がったのか?どうでもいいや、これはチャンス!」
急激にレベルアップしたリクがラッキーラビットのスピードを上回る。そして、渾身の一撃でラッキーラビットを打ち倒し、見事にラッキーシューズがドロップ!!
「やったぜー!これで資金も元通り…いや、元の所持金の1.5倍にはなるかな?待てよ、ラッキーシューズを自分で使うのも良いな。防御力は下がるが、移動スピードアップはかなり冒険が楽になるぞ!!更にレベルが上がりやすくなる!!!」
あまりの嬉しさについつい黄金色に輝くシューズを持ち上げてしまったのだが、その時、悲劇は起こった。
《レア装備:ラッキーシューズを手に入れましたが、経験値205,020になりました。》
「はぁ?!…ちょ!なに勝手に経験値にしてんだよ!!」
せっかく手に入れたラッキーシューズは経験値になってしまった。
「じ…自動変換…か…、そうだった…。嬉しすぎてつい忘れてた…。」
それもこれも自動変換がオンになっていたからだとリクは反省した。
「この馬鹿オート変換め!こんなの今すぐオフじゃい!」
という訳ですぐさま自動変換をオフにするべくステータス画面を開いた。
そして1時間経過…
「おいおい、この自動変換ってどうやったらオフにできるんだ?」
ステータス画面をくまなく探してもオンとオフの切り替えが分からない。
「まさか、オフに出来ねぇのか?」
日も暮れる中、リクの気持ちは空の色と同じようにだんだんと暗くなっていく。ステータスには自動変換がオンの状態は表示されているが、これをオフにする部分はどこにも見当たらない。
「オーノー!!!オフにできないなんて、欠陥スキルじゃねぇか!!」
だが、これが真実だとしたら、と思うとリクは冷や汗が流れるのを感じた。これから手に入るアイテムは全部経験値に変換されてしまうとしたら…。なんとかならないかリクは試してみる。
「自動変換オフ!」
シーン。
「叫んでも駄目か…。自動変換オンの時は確認が出たのにな…こりゃ、オフにする機能を神様が付け忘れたやつだな…はぁ~…」
スキルには「スキルレベル」が上がると進化するものがある。スキル「目利き」は物の良し悪しをだいたい分かるようになるが、進化した「識別」ならその物の価値をそこそこのレベルで知ることができる。更に「鑑定」になれば物の名前や使い方まで分かるようになる。基本的に上位互換になるので、スキルレベルがアップした時に「オン」にしない人はいないだろう。そして、「オフ」にする必要もない。そういうことから、スキル全般的にオフにする機能自体が付いてない。EXP自動変換もその類なのだろう。
だが、この「EXP自動変換」に関してはオフが無いのは絶対におかしいだろ!今後、一生ロックしていないアイテムは所持できないとか、ハードモード過ぎる!!
装備品もアイテムも現在所持してロックしているもの以外が持てないことになる。将来、ダンジョンで誰も見たことないような装備を見つけても触った瞬間に経験値になるのだ。カッコいい装備に身を固める自分の予想図が崩れていく…。
リクはもうすぐ太陽が沈みそうな空を眺め、ただ立ち尽くすだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます