第3話 「EXP変換」がチート過ぎた

神殿からの帰り道、リクは嬉しさのあまり、自分のステータスからEXスキル「EXP変換」を調べまくった。街中では大変良くない「歩きスマホ」ならぬ「歩きステータス」だ。


「ステータス!」


この「ステータス」という魔法は生まれながらに誰でも使える、この世の中のシステムのようなものだ。なぜこんなものがこの世にあるかは分からない。巷では、己の力を過信して死に過ぎる人間が多いため、数値的に分かるように神がしているとか、また神が人間を管理するために数字で管理しているなど、説は色々あったりする。


ステータスはこの世界に記録されているあらゆる情報が管理されている「神の本棚」に繋がっているとも言われている。その本棚から引き出せる情報は


自分自身の能力や状態についての情報

自分自身が所持しているアイテムについての情報

自分が扱えるテクニックとEXスキルについての情報

だけだ。他人のEXスキルを覗けないし、誰も知らないアイテムやテクニック、EXスキルを調べることも出来ない。この「神の本棚」の存在については、過去に「神の本棚」にアクセスできるEXスキルを持った人間がいたことから判明したと言うが、その人間の記録はすでに失われているらしい。


ステータスは使用者の頭の中だけに見えるボードに映し出される。そのステータスを使い、リクは「EXP変換」について調べた。


「EXP変換」は所持しているアイテムを経験値にできるというスキルらしい。通常、魔素を吸収することでしか獲得できない経験値をそこら辺のアイテムから得られるというのは破格の性能だ。


「やべー、純粋にチートじゃん。」


例えば、商人であれば魔素を吸収するチャンスは少ない。魔物を倒す機会が無いからだ。だが、商売で稼いだお金でアイテムを経験値にすれば、命を危険にさらさずに安全にレベル上げが出来てしまう。強くなれれば安全に行商も出来る。また、この世界の魔物は討伐した際にアイテムを落とすことがある。自ら魔物を討伐してアイテムを獲得し、冒険者としてギルドからのクエストを行えば二重に稼ぐこともでき、「商人」兼「冒険者」として同時に活躍できる。


もし、「EXP変換」を王族や貴族が得たとしたら、潤沢な資金で一瞬でレベル上げも可能だろう。王族は国を統治する上で強い能力が求められ、20歳までに様々な試練を乗り越える必要がある。その試練を乗り越えるために命を懸けてレベルを上げる必要があるが、危険を冒さずレベル上げが出来るとなれば、重要な人物を不慮の事故で失うこともなくなる。過去に若くして亡くなった王子や王女もいることから考えると非常に羨ましいEXスキルだ。


また、単純に冒険者としても、魔物のドロップ品と二重で経験値を稼ぐことができるので、単純にレベルが上がりやすくなる。強い魔物は高価なアイテムを落とすことが多く、そうなれば更に経験値効率が上がる。強い魔物はレアアイテムも落としやすいので、少しのドロップ品で稼いで、あとは経験値にするという方法も取れる。誰よりも素早く高レベルに達することが出来れば、誰も到達したことがない景色を真っ先に見られるチャンスもある。リクはよだれが止まらなかった。


しかし、この「EXP変換」でアイテムを経験値にするには幾つかの「条件」が存在するようだ。


EXP変換の条件

自分の所持品として「この世界」に認識されているものはすべて経験値に出来る。

所持者が居ない物は、取得した段階で自分の所持品と認識されて変換出来る。

他人の所持品は経験値に変換出来ない。

所持者が他人でも、そのアイテムを「装備」すると一時的に自分の所有物と判断され、経験値に変換出来る。

所持品に生物(死体を含む)は含まれない。

ただし、生物を解体後、素材として所持する場合は経験値へ変換可能。

所持中のアイテムをロックしておけば変換されない。

ロックは自分が所有中のアイテムならいつでも掛けられる。

経験値に変換したものは「この世界」から完全に消滅する。

「なんかめっちゃ制約多いな…。」


つい口に出してしまう。「この世界」って判定はなんなんだ?神様の判断ってことかな?


「自分の所持品として「この世界」に認識されているものはすべて経験値に出来る。」これはそのままだな。


「所持者が居ない物は、取得した段階で自分の所持品と認識されて変換出来る。」は、拾ったものに所有者が無ければ経験値にできるってことだな。魔物のドロップ品とかは所有者が無い状態だろうから、すぐに自分のものになるという認識で良いだろう。


「他人の所持品は経験値に変換出来ない。」も分かる。他人のアイテムを勝手に自分のものに出来たらさすがにダメだよな。例えば、相手の所有物もプレゼントしてもらえたら自分のものになるのだろう。逆に相手が所持したいという気持ちがあれば経験値に出来ないとか。なんだかこの辺も確認しておかないとダメだな。


「所持者が他人でも、そのアイテムを「装備」すると一時的に自分の所有物と判断され、経験値に変換出来る。」は面白いな。相手が所持しているものでも、オレが装備しちゃうと経験値にできるのね。まぁ、魔力を通すってことは自分の身体の一部になるも同然だからな。ただ、何かしらの機会で装備品を借りた時には注意しておこう。


ちなみに「装備」とは、単純に武器や防具を身に付けるだけではなく、「武器や防具に自分の持つ魔力を流す」ことである。武器や防具は魔力を通すことで真価を発揮し、身に着けるだけでは素材の持つ効果を十全には発揮しない。業物の剣を持っていたとしても、魔力を流して「装備」しなければ素材の域を超えることはできない。


例えば、魔力を通す前の鋼の剣では岩を斬ることは不可能だが、熟練者が魔力を通した鋼の剣なら岩を斬ることができる。防具なども同じで、魔力が通っていなければ魔物の爪で切り裂かれるような魔導士のローブも、魔力を通すことで爪では切り裂かれないようになり、鋼鉄の鎧よりも強いダメージ耐性を生み出す。


ちなみに、装備する人によっても装備品の性能は変わる。その人間の魔力の入れ方で切れ味も属性も変わってくる。どんなに良い武器でも扱う人が弱ければ武器の性能を引き出せない。とは言え、扱う人がどんなに優れた冒険者でも武器の持つ性能の限界を大きく超えて力を出すことは出来ない。つまり、冒険者の成長と共に、優れた武器を持つことはどっちも大事だ。


話を元に戻そう。


「所持品に生物(死体を含む)は含まれない。」はそりゃそうだ。生き物は含まれないのはすごく分かる。今は全く考えていないが、将来結婚を約束した女性が現れて、「俺の嫁」的な感じになったら経験値になるとか怖いからな。あと、ペットとかも対象になったり、まず自分で購入することは無いだろうけど奴隷を雇った段階で消滅とか怖いよな…。あと、道端で倒れている冒険者が実は死んでいて、触って経験値になったら怖いよな。


「ただし、生物を解体後、素材として所持する場合は経験値へ変換可能。」はそりゃそうだよな。魔物から素材を剥いだ場合はさすがにアイテム扱いになるだろうし。解体しても死体扱いじゃ経験値に出来ないしな。


「所持中のアイテムをロックしておけば変換されない。」と8. 「ロックは自分が所有中のアイテムならいつでも掛けられる。」についての『ロック』ってかなり重要そうだな。間違えて無くなっちゃいましたは辛いからな。9. 「完全に消滅する」っていうことなら、大事なものはロックをしておかないとな。寝ぼけてロック解除とかあるかもしれない。オレ、寝言よく言うらしいし。


「とりあえず、手持ちで大切なものやよく使うものは全部ロックをかけるか。」


と、とりあえずリクは間違って経験値にしてしまわないように今の装備品と所持品で重要なものにロックをかける。これで不用意に経験値にしてしまうことは無いだろう。


さて、これで大体の「EXP変換」について理解できた。自宅に帰ったら早速「EXP変換」の実践をしてみよう。


リクは自宅に帰ると、売る予定だったいくつかのアイテムを経験値に変えてみることにした。すると…


《素材:魔狼の牙は、経験値10になりました。》


「お、結構な経験値になるな!下手にお金にするより良いじゃん!!」


今、リクが主に活動している草原に住む魔獣:魔狼の経験値は10程度。その魔狼が落とした魔狼の牙は街で銅貨10枚になる。だいたい銅貨1枚が経験値1で入る感じかな?


そんな感じで、リクは所持していた素材などをすべて経験値にしてみる。


《素材:魔狼の牙は、経験値10になりました。》

《素材:魔狼の牙は、経験値10になりました。》

《素材:魔狼の牙は、経験値10になりました。》

《レベルが上がりました。》


「え?え?ホントに?椅子に座ったままレベルアップ?」


経験値が入ってレベルアップのお知らせが。


「お、レベルが上ったようだぞ!もう少し先になると思ってたのに!」


リクは興奮を抑えられなかった。誰よりも強くなりたいと思っていた自分に、こんな超絶チート級のEXスキルが与えられたことが信じられなかったのだ。


「おお、神よ!教会育ちなのに今まで信じてなくてごめんなさい!!でも、見ていてくれてありがとう!これからはちゃんとお祈りします!!」


リクは大興奮のまま、売るつもりだったアイテムをすべて経験値に変換する。誕生日、EXスキル獲得、レベルアップ、色んなことが重なって、リクは自分の力を試したくて仕方なくなった。誕生日くらいはゆっくり過ごすつもりだったが、居ても立っても居られなくなったのだ。そして、


「やっべー、レベル上がるとやっぱ実感するよな♪」


街を出てすぐの草原を駆けまわり、魔獣を駆逐する。レベルが上がったことで上機嫌なのと、わずかに上がったステータスのお陰でどんどん調子が上がっていく。ドロップアイテムを拾い、アイテムが溜まったら経験値にしていく。この経験値効率の良さにリクはうっとりしていた。リクは時間を忘れ、草原に現れる魔獣をどんどん倒していくのであった。


しばらくするとカバンの中がアイテムで一杯になっていた。リクはアイテムを取り出し、どんどん経験値へと変換していく。


「おりゃー!『変換』『変換』『変換』『変換』『変換』『変換』!!!」


すると…


《スキルレベルアップ:短時間での連続EXP変換を行いました。スキルレベルアップ!拾ったアイテムを自動的に経験値へ変換しますか? はい/いいえ》


「お、めっちゃ便利そうじゃん!長時間狩りをしていく中で、アイテムを経験値に変える時間が面倒臭くなっていたからな。」


と、リクは深く考えず、


「こんな便利な機能オンにするしかないでしょ!『はい』だ!自動変換オン!!」


が…これがリクが死ぬまで後悔するほどの選択になるとは夢にも思わなかったのだった。


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