そして二人は遅刻する。

「ねえ、真理奈まりな

「……何?」

 美里みさとのベッドの上で二人横になりながら、声を掛けられた真理奈は横を向いた。

「もう一回してもいい? イタッ」

 そして、美里の額にデコピンを喰らわせた。

「アンタ、どんだけすればいいのよ」

「うへへ、だって今日は真理奈の可愛いところがいっぱい見れたんだもん」

 真理奈の呆れた声に、美里は額を押さえて幸せそうに笑む。

 その顔に、真理奈は自身の顔に顔が熱くなるのを感じてそっぽを向き、美里は真理奈の頬に指先を滑らせた。

「それが私、嬉しくって。ほら、いっつも私が下じゃん」

「……いや、アンタいつも余裕そうじゃん」

「えー、そんなことないよ?」

 美里の指先が頬から耳へと移り、爪が真理奈の耳たぶを軽く引っ掻く。

 今日二人で買った蝶の意匠の揃いのピアスが小さく揺れる。

 そのこそばゆい感覚に真理奈は首を竦ませると、美里へと再び視線を向けた。

「ん、ちょっと、美里」

「なあに、真理奈。その気になった? ……いたたたた!?」

 そして突然首筋に嚙みついた真理奈に、美里は驚いて身を捩る。

 一矢報いてやったと満足気に鼻を鳴らし口を放した真理奈の様子に、美里は可愛いなぁ、と目尻を下げた。

「何よその顔」

「なんでもないよ」

 真理奈の指先が美里の首筋に触れる。

 咬まれた箇所をなぞられ、僅かな痛みが美里の頭を刺激する。

 更に指先が右耳のピアスに触れる。

「美里は、明日はこのピアス外すの?」

「うーん、そうだね。ほら、これでも私優等生だし。校則には従わないとね」

 真理奈の寂し気な顔を覆い隠すように、美里は自身の恋人を抱きしめる。

「だから、明日はこれは貴女が持っていて。私の狂犬さん」

「その呼び名嫌いなのよ」

「えー、いかにも不良って二つ名で良いじゃない。私は好きよ」

 耳元で囁かれる声に、再び顔に熱が籠るのを自覚して、真理奈はその顔を見られたくなくて、美里の頬に唇を寄せた。

「あら、その気になった?」

「ばか、そんなわけあるか。アンタ私が鳴くまで止まらないじゃない。さすがに来週まで我慢して」

 腰に廻された腕を撫でつつ、美里が問い掛けると、真理奈は鼻で笑った。

 それでも撫でられる腕を払うことはせず、そのまま好きなようにさせる真理奈のピアスに、美里は唇を寄せた。

 耳元に吹き付ける吐息に、真理奈は背筋を震わせ、その様子に美里は楽しそうに笑う。

 それから、二人は啄むようにキスを繰り返してから、繋いだ指先の温かさに息を吐き出して、揃って瞼を閉じたのだった。

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1000文字以内で百合する話 煮込みメロン @meron_san

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