宵に枕を二つ
リンと涼の音色が覚醒気味の頭に響いた。
けれど、頭の下の柔らかな感触の心地よさに再度まどろみに落ちる。
何かが頬を撫でた。
その温かさと安堵感にチラリと片目を開いた。
見上げる先には縁側に吊るされた、金魚の描かれた青い風鈴が一つ。それから瞼を閉じたアイラの端正な顔。金糸の髪が夜風に吹かれて微かに揺れている。
夕立に濡れた庭先から吹く風が涼しい。
私の頬に触れた手が、彼女が船を漕ぐ度につられてゆっくりと動く。
アイラの顔がゆっくりと彼女の膝に乗せられた私の顔に迫る。
いったい何の夢を見ているのか、幸せそうに笑む唇に視線を送り、長いまつ毛に移す。
唇が私の鼻先に触れた。
惜しい。もう少し下だったらよかったのに。
「アイラ、おはよう」
彼女の頬を両手で挟み込んで少しだけ押し上げる。
「ンにゃ、おはよう、ヤエカおねぇしゃん?」
寝ぼけ眼の青い瞳が私を捉え切れていない。
両手を今度はゆっくりと下に降ろす。
「む、ン……」
アイラの柔らかな唇が重なる。
熱を持った吐息と混ざり合う。
時間にすれば1秒か2秒かそのくらい。
離れた唇から湿った音が鳴る。
赤く熟れた顔がパッと離れた。
それが少し寂しい。
「はえ、はにゅ……」
可愛らしい唇から漏れる声は意味をなしていない。
「アイラ、おはよう」
「お、おはようございましゅ」
今度こそ焦点を結んだ瞳が私を見る。
「いい夢は見れた?」
「ヤエカちゃん、ズルいです」
「あれ、お姉ちゃんって呼んでくれないの?」
「不意打ちで私をテゴメにしようとするような悪いヤエカちゃんなんて知りません」
下から眺めるアイラはむくれてそっぽを向いた。
彼女の膝から起き上がると、チラリと視線が私の方へ向けられた。
「そんな事言われたら私寂しいな。どうしたら許してくれる?」
言葉を投げかければ、耳まで真っ赤な顔が私へ向けられた。
「もう一回、ちゃんとしてくれたら許してあげます」
小さく笑みを向けて、アイラに唇を寄せた。
触れるだけのキス。
そして数回目を瞬かせてから、彼女の口元は満足そうに笑みを形作った。
「それじゃ、すっかり遅くなっちゃったみたいだし、送っていくよ」
「いらない」
立ち上がろうとした私の服の裾を小さな指先が摘まんだ。
「今日はヤエカお姉ちゃんの所でお泊りしていくって、ママに言ってきた」
彼女の視線の先には畳に敷かれた枕が二つの布団が一つ。
「だから、今夜は一緒に寝よ?」
私を見上げる瞳に、今夜は理性との長いお話し合いを覚悟した。
END
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