「なんであの白黒ふーふ結婚してないの?」

桃華とうかは、いっつもこんなところで弁当食べていて寂しくないの?」

桜華おうかに言われたくない。あなただっていつもこんなところで一人でお弁当食べているじゃない」

 学校の昼休み。私、黒木桜華くろきおうかはいつも屋上で一人弁当を食べるのが日課になっている。

 そして今、私の目の前にいるのはクラスメイトの白峰桃華しらみねとうか。教室で話すようなことは無いし、別に友達ということも無い。いつもクラスの誰かに囲まれている桃華と違って私は由緒正しいぼっちだ。

 けれど、私だけの昼休みの憩いの場だったこの屋上にやってきては、私の優雅な時間を壊していく女だ。

「何が優雅ですか。ただのぼっち飯じゃないですか」

「そう言う桃華だってぼっち飯じゃない。というかいかにもお嬢様って見た目してるくせにぼっち飯とか言うな」

「私の家は由緒正しい中流階級です。桜華みたいな黒木財閥の上流階級とは違いますわ」

 言いながら、私の前で優雅に弁当を広げて箸を動かす姿はどこから見てもお嬢様のそれだ。弁当箱の中身も彩り豊かで、健康に気を使っているのが見て取れる。何でこれでお嬢様やってないんだろうか。

「桜華のお弁当はなんだっていつもそんなに茶色いんですか! ご飯とおかずが揚げ物ばっかりとか、本当にお嬢様ですか!?」

「美味いんだしいいじゃないか、冷凍食品。唐揚げとか春巻きとかミートボールとか好きなんだよ」

「いつもそんな偏った食事なんてしていたら病気になりますよ。家の人は何も言わないんですか?」

「家じゃ健康優先な味気ない物ばかり食べさせられるんだよ。学校でまでそんなもの食べたくないからな、弁当は自分で準備してるんだ。最初は色々言われたけど、今は何も言われない。諦めたんじゃないか?」

「まったく、その唐揚げを寄越しなさい。代わりに私のお野菜を半分分けてあげますから。それとちゃんと膝を閉じて座りなさい。下着が丸見えじゃないですか」

「桃華は私のママか。あ、こら勝手に私の唐揚げ持ってくな。そして野菜と一緒にきんぴらごぼうも追加で私の弁当に突っ込むな」

「いいから大人しく食べなさい。桜華の家の方からあなたをよろしくと言われているんです」

「あ、美味い」

「当然です。私が栄養と味の両立を目指して作っているんですから」

「桃華は絶対いいお嫁さんになりそうだよね」

「私は桜華のお嫁さんじゃありません」

「え?」

「え?」

 一瞬その場に静寂が降り、結局私達は互いに食べ終わるまで何も喋らず箸を動かした。


END

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