雨でも晴れでも隣に貴女

 雨が降っている。

 シャッターの降りた商店の軒先で、この急な通り雨をやり過ごそうと思い私はこの場にしゃがみ込んでいた。

 彼女の笑った顔が見たくて。だけど失敗した私をかばった彼女の姿に耐えられなくて、私は家を飛び出した。衝動的に何も持たずに出てきて、どうしようかと思っていた矢先にこの突然の大雨。まるで今の私の心の内を現したようで、憂鬱な気分になる。

「今頃、私の事探してるのかな……?」

 膝を抱えて厚い雲で覆われた空を見上げ、一人呟く。

「馬鹿みたい。こんなこと」

 自身の行いが馬鹿馬鹿しく思えて、膝に顔を埋めた。

「私、別にあんな顔させたかったわけじゃないのに……」

 困ったように笑う彼女の顔を思い出す。

 ふと、気が付くと雨が止んでいた。

 いや、雨が地面を叩く音は続いているけれど、僅かに体に当たっていた雨の感触が無くなっていた。

「お嬢様」

 突然耳に届いたのは、いつも私の傍に彼女の声。

「探しましたよ」

「……別に探しに来なくてもいいじゃない」

 膝から顔を上げれば、右手に持った傘を私の頭上に広げた使用人の姿。

 僅かにそばかすの浮いたその顔は困ったように笑っている。

「探しますよ。私はお嬢様のメイドですから」

 私に手が差し出される。

「そんなに泥だらけになって、帰ったらまずはお風呂ですね」

 私を立ち上がらせた手は少しカサついていて、だけど大好きな手だった。

「なんで来たの……。私、志野にひどいことしたのに」

 繋いだ手の甲を指先でなぞって、志野を見上げる。

 私の言葉に少し考える様に上を向いてから、私に目を向けた。

「お嬢様、私のお仕事を手伝いたかったんですよね? 今回はちょっと失敗しちゃいましたけど」

「……あんなに部屋をぐしゃぐしゃにして、結局志野を困らせて。志野は私を怒ってもいいのに……」

「それじゃあ、帰ったら一緒にハウスキーパーに怒られてください。それで許してあげます」

 私の大好きなお姉ちゃんは、おどけたように笑う。

「ごめんね。ごめんなさい、志野」

「別にお嬢様が謝ることなんて無いですよ」

 視界がにじむ顔を見られたくなくて、俯いた私の頭を優しい手が撫でる。

「私はお嬢様のメイドで、お姉ちゃんですから」

「……うん、ありがとう志野お姉ちゃん……」

 繋がった掌は暖かくて、見上げれば雲の隙間から日差しが見え始めていた。

「雨、止みましたね」

「私、もうちょっとこのままが良い」

「お屋敷までですからね」

 一つ傘の下、二人寄り添って家路に着いた。


END

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