第2話 構ってください先輩1

「ふむふむ……。確かにこうすればもっと良く見えますね」


 でしょ?

ここをもうちょっと丸く見せたら、こんな感じに可愛く見えるようになるから。


「流石です先輩。先輩はわたしの師匠です」


 そこまで言わなくても……。

じゃあ今日はここまで!

ということで早速なんだけど……お姉さんの部屋の片付け手伝ってもらっても良い?


「お任せください。わたしがとことん先輩のお姉さんの部屋を綺麗にしてあげますよ!」


 じゃあここにもう掃除に使うものが揃ってるから。

あと、マスクは絶対に着けて!


「そんなに酷いんですか?」


 まあ、見ればすぐに分かるよ。

じゃあ開けるね……。


「――――! これは……先輩がマスク必須だって言った理由が分かります。これはかなり酷いですね」


 でしょ……?

良くこの状態で平然と過ごせるお姉さんが良く分からない……。


「急いで掃除してしまいましょう。時間かかりそうなので」


 うん!










◇◇◇








「これはティッシュ。これはティッシュの空箱……」


 お姉さん、前より酷くなってる!?


「ホコリもすごいですね。ベットの下なんかほこりだらけです」


 これだからお姉さんは……。

何度も僕言ってるのに。


「でも、だいぶ片付いてきましたね。部屋が綺麗になってきました」


 本当にごめんね。

こんなこと手伝わせて……。


「いえ、わたしの掃除本能がやりたいと疼いていたので、かえって良かったです」


 掃除本能……そんなのがあるんだ。

船田って意外に潔癖症?


「うーん、掃除の時は特にホコリがあったら気になっちゃいますね。でも、思いっきり潔癖症というわけではないです。必要最低限プラスαアルファでやってます」


 なるほど、普通にやるけどちょっとだけこだわるって感じなんだね。


「その通りです。母親からの教えです」


 船田のお母さんって結構家事に厳しい人?


「厳しくはないです。ただ、自分が将来結婚した時に困らないようにするためだって言ってました。なので、わたしは小学生から家事を教えてもらっていました。その時に教わったことが『必要最低限プラスαアルファ』でした」


 そうだったんだね。

船田のお母さんは子どもの将来のために教えてくれたんだね。


「はい。なのでわたしは母親には感謝しています」


 ――――ちょっと聞きにくいんだけど……。


「――――? 何でしょうか?」


 船田はもう完璧に家事が出来て、もし結婚したとしても難なくこなせるようになっていると思うんだけど……その、船田って好きな人とかいたりするの?


「好きな人、ですか。それは恋愛のほうですよね?」


 うん。


「わたしは……まだ一度恋愛というものをしたことがありません。先輩なら分かると思います。何故わたしが恋愛というものをしたことがないのか」


 ただ単に興味がないから?


「違います」


 なら……普段人と関わることがないから?


「正解です。わたしは毎日ずっと人と関わることがなく過ごしています。わたしは普段話さないというのもあるのかもしれません。それに……まだ恋愛というものが分からないんです」


 そうだったんだ。


「はい。先輩、恋愛っていうのは一体何でしょうか……? 恋をした時の心情って一体どんな感じなのでしょうか?」


 うーん……僕も恋愛をしたことがないからよく分からないけど、幼馴染が言ってたのは、好きな人ができると心臓が持たないくらいにドキドキして落ち着いていられなくなる。

そして、ずっと隣に居たいって思うようになるんだって。


「そうなんですか。じゃあ、もしわたしが先輩のことが好きになったとしたら、心臓が持たないくらいドキドキして、落ち着いていられなくなって、先輩の傍に居たいって思うようになるってことですか?」


 ま、まあそうだね。

例えるとそんな感じだと思う。


「なるほど……。じゃあ先輩。わたしと子どもに戻ったように遊んでもらえませんか?」


 ――――はい?

子どもの頃に戻ったかのように遊ぶってどういうこと?


「わたしの家族にしか知られていないことなんですが……わたし、実はかなり遊ぶことが好きなんです。ゲームもそうですけど、意外に小さい子どもが遊ぶような遊びが好きなんですよ。先輩のお姉さんの部屋の掃除を手伝った条件として話し相手になって欲しいと言いましたが訂正します。わたしに構ってください」


 えっ……もしかして……。

僕は今から船田と一緒に僕が小さい頃にやっていた時のような遊びを、今からするってこと……?


「はい、そういうことです」


 だ、大丈夫かなあ……?


「案外楽しいものです。じゃあ、今日はこれを持ってきたのでこれで遊びましょう」


 もしかして、下校する時持って来たその大きな手下げバッグって……そのおもちゃ? が入ってるの?


「はい、先輩の言う通りです。では、今日はこれです。よいしょ」


 これは……もしかして玉入れゲーム?

何か小さい頃に僕もこれで遊んでた気がする。


「おお、そうでしたか。そうです、玉入れゲームです。玉をレーンに10個まで入るのでここに玉を入れます。そして、自分の手前にあるこの白いボタンを押すとポーンと玉がカゴに向かって飛んでいきます。先に全部入った方が勝ちというゲームです」


 あー……何だか思い出してきた。

ていうか、これの組み立て方も全部思い出したよ!

果たして今の歳になって楽しく遊べるのかな……。


「子どもの遊びっていうのは、案外楽しいものです。ささ、早速やっていきましょう!」


 目がキラキラしてる……。

あの、始める前に聞きたいんだけど……船田って毎日こういう遊びやってたりする?


「はい、もちろんですよ! だって楽しいので!」


 あっ……そうなんだ……。









◇◇◇









「――――!」


 ――――っ!

やった!

全部入った!


「残念でした先輩。わたしのほうが早かったです」


 またかー!

これ意外と難しいね!

玉が予想外のところに飛んでいくよ。


「そうです、そこがこのゲームの醍醐味なんです! 先輩、だんだんとハマってきませんか?」


 これは……ハマるかもしれない!


「おお! これでわたしの仲間入りですね! じゃあ、次回もやりましょう!」


 うん!

僕、今まで子どもの遊びなんてって思ってたけど、奥深くて面白いって思った!

またやろう!


「はい! あ、もうこんな時間になってたんですね。じゃあ、わたしはそろそろ帰ります」


 もうそんな時間になってたんだ。

うん、じゃあ今度はいつにする?

明日は部活があるし、船田も部活見学するでしょ?


「明日で部活見学は終わりにします」


 えっ、もう?

まだ始まって2日しか経ってないけど……。


「もう決めました。先輩がいる漫画研究部に入ります。その準備に、明日漫画研究部の部活見学に行きますので、その時はよろしくお願いします」


 船田……。

うん、ぜひ来て!

漫画研究部は大歓迎だよ!


「ありがとうございます。それでは、さようなら先輩。また明日会いましょう」


 うん、こちらこそ掃除手伝ってもらってありがとう。

またお願いしても良い?


「はい、この船田 海にお任せください! それでは……あ、その前に」


 ん?

どうかしたの?


「今日はすごい楽しかったですよ先輩。多分、この遊びをしてから今までで一番楽しかったです。なので、またわたしに構ってください、ね?」


 ――――!

う、うん。

僕も結構楽しかったから、またやりたい!


「――――! じゃあ、またやりましょうね先輩! では、お邪魔しました。さようなら」


 うん、じゃあね。

船田って……あんな顔をする時もあるんだね。

結構可愛いかも。


「先輩って……やっぱり良い人。だから先輩は女子からモテる。かっこいい……」

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