【短編】構ってください先輩

うまチャン

第1話 お久しぶりですね先輩

「あ、お久しぶりです先輩」


 えっ……誰?


「覚えてないんですか? うみですよ。ふなだ うみです」


 ふなだ うみ……?

ふなだ うみ……ああ、もしかして船田ふなだ

久しぶりだね。


「思い出してくれましたか! わたしは嬉しいです」


 てか、僕とそんな接点あったっけ?

あんまり船田と関わった記憶あまりないんだけど……。


「確かに……。わたしと先輩が関わった記憶あまりないですね。じゃあ、今日からいっぱい関わりましょうね」


 関わりましょうねって……。

てか、今は部活どこ入ろうとか決めてるの?


「部活は……今のところまだ決まってないです。本当はさっさと帰って家でゴロゴロしていたいんですが……。この学校は絶対に部活に入らないといけないっていう規則があるのでどこか入らないといけないんですよね」


 だったら、僕がいる部活に入ったらどう?


「先輩がいる部ですか。どこに入っているんですか?」


 漫画研究部。


「漫画研究部にいるんですか? 先輩って意外とそういう趣味持っていたんですね。あれですか? 女の子のいやらしいシーンとか書いて興奮してるとか……」


 それは絶対にないから!

そんなことより、船田だって良くイラスト描いてたよね?

漫画研究部って漫画だけじゃなくてイラストを描いても大丈夫だからぴったりじゃないかな?


「なるほど……。少し考えてみます。まあ、今の聞いてほぼ100パーセント入ろうと決めましたが」


 え?

100パーセント入ろうって決めたのなら考えなくても良いんじゃないの?


ですからね先輩。このが大事なんです」


 ふ、ふーんそうなんだ……。

まあ、他にも色んな部活があるからゆっくり決めると良いよ。


「はい、ありがとうございます。そういえば、先輩は漫画研究部に入ってるって聞きましたが、どんな漫画を描いているんですか?」


 僕はラブコメだよ。


「ラブコメ描くんですか? なら尚更女の子のいやらしいシーンとか描くんじゃないんですか?」


 か、描かないよっ!

僕は全年齢対象の漫画を描くって決めてるんだから。


「――――面白くないですね。先輩は男なんですからもっとそういうシーン描いたって誰も文句言わないですよ」


 僕の中の僕がそう訴えるから……。


「なるほど。では、先輩が所属している漫画研究部も考えておきます」


 うん、ぜひ!


「それでは――――あ、先輩」


 ん?

どうしたの?


「この後って時間ありますか?」


 あるけど……どうかしたの?


「先輩漫画が描けるってことはイラストも描けるってことですよね?」


 まあ、一応は。


「なら、このわたしにイラスト上達のコツを伝授してほしいです」


 えっ、でも船田のイラスト結構上手かったよ?


「いえ、もうちょっと細かいところもこだわりたいですし、まだ納得できてないんです。なので、先輩目線でのアドバイスが欲しいんです」


 なるほど……うん、良いよ。

僕は今日部活ないけど……今日は船田は部活見学に行くの?


「わたしは今日は行かないです。なので今から行きましょう」


 分かった。

でもどこでやるの?


「どこって決まってるじゃないですか。わたしの家ですよ」


 ――――!?

ふ、船田の家に今から行くの!?

お、親とか大丈夫?

僕がいきなり船田の家に上がっても大丈夫なの?


「別に問題ありませんよ。親は夜まで帰って来ませんから」


 そ、それなら良いんだけど……。


「――――? 何でそんなにキョドキョドしているんですか?」


 いや……男が女の子の家に上がっても良いのかなって……。


「別に何もないので大丈夫ですよ。先輩は別にわたしに変なことしないって信じてるので」


 そ、そう……。


「はい。ということで早速行きましょう。先輩には色々教わりたいので」


 ――――本当に大丈夫かなぁ?










◇◇◇










 ここが船田の家……。


「そうです。まあ、普通の家です。ささ、どうぞ遠慮なく上がってください」


 お、お邪魔します……。

結構広いお家だね。


「そうなんですか?」


 うん、僕の家は古いからこんなに広くないんだ。

最近の家ってこんなに広いんだね。


「なるほど、そうだったんですね。気になるので今度は先輩の家に行きますね」


 ――――!?

ぼ、僕の家に行ったところでボロボロだし楽しくないって!


「ささ、階段上がったらわたしの部屋があるのでどうぞ」


 さらっと流したね……。

まあ良いや、じゃあお邪魔します……。

これ絶対僕の家に来るパターンじゃん……。


「良いじゃないですか。それに、実際に行ってみないと面白くないとか楽しくないとか分からないですよ?」


 ぐっ……!

言い返す言葉が見つからない……!

あ、これが船田のお部屋……結構綺麗にしているんだね。


「それはそうに決まってますよ先輩。綺麗にすることは女の絶対的な習わしだって母親から教わって、幼い頃からその言いつけを守っているので」


 言いつけを守っていることで十分素晴らしいと思うよ。

僕のお姉さんは全く逆だから……。


「――――! 先輩お姉さんが居たんですか?」


 うん、部屋の中が毎日ぐちゃぐちゃになってるよ。

片付けたら? って言ったら逆ギレしてくるくらい、とにかく片付けるのが大嫌いなんだ。


「ほう……。なら尚更先輩の家に行く必要がありますね!」


 えっ、もしかして……片付けしてくれるとか……。


「はい。もちろん手伝いますよ先輩。ただ、条件があります」


 条件?

手伝ってくれるんだから条件があるのは当たり前だもんね。

どんな条件だい?


「先輩の家でもイラストを教えてほしいです」


 えっ、そんなことで良いの?


「はい、先輩にもっと教えてほしいんです。もっと、もっと自分のイラストを完璧だって思えるくらいまで求め続けたいんです」


 ――――!

それは良いけど……本当にそれだけで大丈夫?


「はい、それで良いです……と思いましたが今もう一つ思い浮かびました」


 ん、何?


「わたしに構ってください」


 ――――はい?


「わたし友達が出来そうにないので、一人ぼっちのこのわたしに構ってほしいんです。それが今浮かんだもう一つの条件です」


 構うって……具体的に?


「そうですね……わたしの話し相手になって欲しいです」


 それだけ?


「はい、それだけでもわたしは十分です」


 そうなんだ、分かった。

それを条件にして、お姉さんの部屋を掃除して欲しい。

お願い。


「はい、この船田 海にお任せください。あ、先輩もちょっと手伝って欲しいです」


 それはもちろん。

1人じゃ流石に大変だから。










◇◇◇








「一応出来ました」


 どれどれ……。

あれ?

前見た時よりちょっと違うような……?

申し訳ないけど……ちょっと下手になった?


「さすが先輩ですね。そうなんです。実は1年くらいイラストを描いてないんです」


 えっ、どうして?

僕が見たときはイラストばっかり描いていたのに?


「それがあの後、急に描けなくなってしまったんです。次はどんなキャラクターでどんな服を着ていてとか……全く思いつかなくなってしまったんですよ。だからそれが怖くて描けなくなってしまったんです」


 そうだったんだ……。


「でも、先輩が漫画研究部にいるって聞いて……また描いてみようって思ったんです」


 僕がきっかけなの?


「はい。何ででしょうか?」


 それは僕に聞かれても分からないけど……。

でも、僕がきっかけでまた描こうって思ったのなら嬉しい。


「――――感謝してますよ、先輩」


 ――――!


「――――? 急にわたしから視線を逸してどうしたんですか?」


 い、いや……何でもないんだ……。


「そうですか……。何だかだんだんと先輩の顔が赤くなってってますけど、もしかして熱あるんですか?」


 そ、そうかな〜?

僕はそんな感じしないけどね。


「――――熱がないのなら良いですけど、無理はしないでくださいね。急に誘ってしまったわたしの責任もあるので」


 それは気にしなくて大丈夫だから!

そ、それじゃあ早速始めよう!


「はい、よろしくお願いします。先輩」

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