たまご譚

 酷暑の夕方。

 蒸し暑い河川敷を歩いていた。

 前から黄色いレインコートを着込んだ人が近づいてきた。

 体つきから、女性かな、と思った。

 こんなに暑いのにレインコート?

 ふらふらと、おぼつかない足取りで歩いている。

 変わった人だな。

 すれ違うとき、興味本位で顔を見てみた。

 ギョッとして身を引いてしまった。

 レインコートを着込んだ人の顔には目も鼻も口もなく、鶏卵がひしめいて、蠢いていた。

 いくつかは殻が割れて、白身や黄身が滲み出ている。

 見られていることに気がついたのか、それは顔らしきものをぐっとこちらに近づけてきた。

 精液に似た臭いが鼻に入り込んできた。

 僕は悲鳴をあげて逃げ出した。

 それからです。

 僕の口から、ぽろりぽろりと、たまごが、たまごが溢れ出て、止まらないのです。

 誰か、誰か、たす…。


 ぽんっ!

 

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