踊る人生劇場

 あっ、もう、ダメか。

 一瞬の油断。

 いや、こんなことになるとは思ってもいなかった。

 脱輪した瞬間に二トン以上ある車体は傾いた。

 ティルトに刺していたパレットの荷物の重さも悪かった。

 ジェルフレグランスが百六十八箱。五百四十キロ。

 落下の速度を加速させた。

 と、頭の中で、走馬灯のように、人生が映し出された、はずが、一寸先に、緞帳のような闇。

 なんだよ、これ。

 四メートル下のトラックバースに落下していく間に、それは幕を開けた。


 やあやあ、ここもとご覧に供しまするは、奇々怪々摩訶不思議のスペクタクル、皆々様の人生劇場、ほら、あれは田無浩三郎さんのトンボとり、ほら、あれは山鹿章子さんの嫁入り舟、あちらはっ! 本田仙一くんの初ホームラン。

 神変不可思議の人生劇場はまだまだ続きます!

 こちらは平井太郎くんの散歩姿。江戸川のほとりをニヤニヤしながら歩いています!

 あちらはっ! 大江勝彦さんが匣に女の子を押し込めています!

 内田栄造さんはノラを探して、大ウナギにまたがって川下りの真っ最中!

 そうら、こちらでは鏡太郎さんが豆腐をグツグツ煮てますね。あんなに煮てたら舌も喉も大火傷だ。

 どれもこれも、奇怪千万を愛する皆さまが待ち望んだ人生劇場! 嗚呼、いよいよ劇はクライ、マックス!

 二千人の闇の住人たちが、胎児が見た夢の、その美しさを歌い出した!

 なんという、なんという美しさ!

 これが、これがぁ、これが人生劇場の大団円ー!


 おい、俺の人生はどこだよ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る