湯の花

 月明かりが照らしている。

 渓流沿いの、川の淵のような小さな温泉。

 そこに続く道はもうなく、そこを訪れる人もおらず、動物たちもなぜか近寄らない。

 草木も眠りについて久しい。 

 暗天の雲が流れる。

 月明かりが滑る。

 湯に暗闇が落ちた。

 ぴちゃり、ぴちゃり。

 湯に、ふたつの何かが身を浸す音。

 月明かりが遠のいていく。

 闇はさらに深く、音も無く、湯の花が何かに削られ、湯が、白く濁る。

 それらもすべて闇の中。

 その中に、湯に浸るふたつの影。

 身を寄せ合い、闇に沈んでいる。

 オニイサマ…。

 湯のうえで、花火が爆ぜたような、大きな破裂音。

 誰にも届かず、渓流に轟くだけ。

 白く濁った湯に、赤い花がふたつ咲いた。

 のは一瞬。

 月明かりが帰ってきて、すべてを払い除けていく。

 身を寄せ合っていたふたつの赤い花は、涅槃にゆらゆら堕ちていく。

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