ワレモノ

 営業回りでたまに行く子桐町は町工場や木賃宿が肩を寄せ合っている、海沿いの寂れた町だ。

 いつも潮の臭いが漂い、活気もなく、人よりも野良猫の数が多い。

 行くのは決まって水曜日。子桐駅で普通電車を降りて、トラックが行き交う産業道路を渡れば子桐町だ。

 ゴミの収集日なのか、電信柱のあたりにはネットを被せられることもなく半透明のゴミ袋が積まれている。

 そこにいつしか混じるようになった大きめの封筒。黒いマジックで太々とワレモノと書かれている。

 それが、いつからから、いつも置かれるようになった。

 そんなに頻繁に、同じ人がワレモノを出すものなのかな。

 そんなことをぼんやりと思いながら、いつも営業先に向かっていた。

 五回、六回と目にしただろうか。

 あるとき、封筒の右下が赤く染まっていた。

 あれ、誰かがワレモノに触れて手でも切ったのかな。

 興味本位で近づいてみた。

 ワレモノと太々と書かれた大きめの封筒。そこから滲む赤は、やはり、血だ。

 しかも、これは外からついたものではない。

 中から滲んでいる。

 なんだろう。

 軽い気持ちで封筒を手に取ってみた。

 ずしりと重い。

 そして、アスファルトに滴り落ちる血。

 まさか。

 封筒を破り、中を覗き込む。

 鼻をつく腐臭。

 封筒の中には、切り刻まれた人体の、どこかが入っていた。

 ワレモノ。 

 いや、我のもの。

 何度も何度も見かけた我のもの。

 残りは、あと、どれくらい?

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