誰も知らない

 金沢区福浦工場団地の片隅にある貸倉庫。エスニック雑貨を取り扱うチャンダンが借りているのは二階の一角。可動棚が二列並ぶだけのわずかなスペース。ロケーション番号は01から04まで。可動棚の片面が01、02、03、04。たったそれだけ。賃料は月二万五千円。常駐の作業員はいない。派遣作業員が店舗から送信されるピックリストに従って商材をピックして、梱包し、運送業者に渡すだけ。九年間、そうして運用されてきた。だから、


 誰も知らない。


 ロケーション番号03-03-01-23に置かれた、インドから直輸入された鋳造の髑髏。目玉はガラスで出来ている。インドの青年がたった一人で造っている。納入されたのは七年前。チャンダン自体が横浜と藤沢に二店舗しかないから、商材はあまり捌けない。五十個納入されて、今まで売れたのは二十七個。まだ二十三個の在庫がある。人気商品ではない。この鋳造の髑髏をピックしたのはいつも違う派遣作業員。だから、


 誰も知らない。


 この鋳造の髑髏をピックした派遣作業員が、作業した当日に、自分の頭部を激しく損壊していることを。

 金槌で殴り続けた主婦がいた。電柱に思いっ切り頭を叩きつけた学生がいた。空手の心得がある男性は自分の拳で頭のかたちを変えてしまった。だけれど、

 それをピックする人は、その日、たまたま派遣された人。関連も繋がりも見受けられない。ピックされるのも数ヶ月に一度。だから、誰も知らない。

 倉庫にはまだ二十三個の髑髏が残っている。これから、誰があの髑髏をピックするのか、誰も知らない。

 もちろん、その髑髏を買った人がどうなってしまったのか、それは、


 誰も知らない。

 

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