真っ直ぐな目

 よく晴れた午後。

 彼女は亜麻色の髪を風になびかせて、前から歩いてきた。

 瞳を奪われた。

 ひとり歩く彼女は、ほんの少し微笑んでいた。

 少しずつ近づいてくる。

 亜麻色の髪が眩しい。

 小麦の香りがしそうだ。

 じっと彼女を見つめてしまった。目が離せない。彼女は微笑んだまま、僕のまえを通りすぎていく。

 一瞬、目が合った。

 胸が高鳴った。

 声をかけようかな。

 そう思ったとき、通りすぎかけていた彼女が急に振り向いて近づいてきた。

 まさか。

 胸の奥が締めつけられた。

 彼女はぐんと僕に近づいてきて、僕の右腕を強く掴み、真っ直ぐな目で言った。

「いま私のこと見ましたよね、見ましたよね、返してください、ねえ、返してください」

 彼女の指が腕に食い込む。

 怒るでもなく、声を荒らげるでもなく、真っ直ぐな目で彼女は続ける。

「いま目が合いましたよね。私を見ましたよね。返してください、ねえ、返してください」

 彼女の爪が皮膚に食い込んでくる。

 真っ直ぐな目を見返す。

「返してください」

 爪が皮膚を突き破った。

 激痛が腕をつらぬく。

 真っ直ぐな彼女の目の奥には、何もなかった。

 空っぽの真っ直ぐな目。

「返してください」

 彼女が、もう一方の手を僕の顔に近づけてきた。

「その中にありますよね、返してくださいよ」

 長い真っ赤な爪が、僕の目に近づいてくる。

「それですよ、それ返してください」

 爪が真っ直ぐに、僕の眼球に突き刺さった。

 これで本当に返せるのかな。

 

 

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