第14話 追い掛ける爆弾

帝国暦502年4月13日 アドギア海


「レーダーに捕捉、方位015より複数の大型機が接近中。周囲に複数の小型機が確認される事から、護衛を付けて接近していると思われます」


 「エルナト」の艦橋にて、レーダー管制士がスラグ提督に報告を上げ、スラグは艦長と目を見合わせる。


「相手も反撃をしてくるか…空母に残っている直掩機のみで事足りるか?」


「戦線からの報告では、敵の戦闘機は全てが新型ではなく、水冷式レシプロ機も多数投入している事が鹵獲等で判明しておりますので、事足りるかと思われます。危うくなれば攻撃隊の艦載機を急ぎ呼び戻せばよろしいでしょうし」


 基本的に帝国軍の航空機では、空冷式レシプロエンジンが用いられている。航空隊創立当初の戦闘機や爆撃機では、形状の面から速度を得やすい水冷式エンジンが採用されていたが、航空力学や工業技術が発展した今日では、信頼性が高く、整備しやすい空冷式が主力となっている。特に海軍航空隊の艦上戦闘機は格闘戦を重視しており、速度性能は機体形状の大胆な変更ではなく搭載エンジンの大出力化で解決できると考えていたのだ。


 だが共和国空軍の戦闘機は、速度を活かした一撃離脱戦法に拘っており、速度を得やすい機体形状を求められる水冷V型エンジンを多用している。低空でのドッグファイトでは旋回性能の高い帝国軍機に軍配が上がるが、高高度での一撃必殺を求める戦いや一撃離脱をメインとした戦闘では共和国軍の方が優勢であった。特に新型戦闘機では、それが顕著であった。


 だが、今は違う。まず敵戦闘機の鹵獲による調査では、最高速度は時速690キロメートルと非常に速いが、〈アクイラ〉に対抗するには旋回性能で劣っていた。また数も直掩機だけで3倍もの開きがあり、複数の敵との交戦を余儀なくされた。


 そうして敵の護衛を引っぺがした後、相も変わらず接近を続ける敵爆撃機の編隊に対し、艦隊外縁部を守る駆逐艦の10センチ連装両用砲が火を噴いた。


 レーダー連動式の射撃管制装置で狙いを定めた砲撃は、至近距離での近接信管による爆発で幾分かの損害を与えつつ、十分に誤差を修正した上で直撃。主翼を撃ち抜かれた機は煙を引きながら落ちていき、スラグは勝利を確信する。


「ふん、やはり航空機がその程度の数では戦艦を沈める事など叶わぬのだ。我が「エルナト」を沈めたければ、10倍は持ってくるといい」


 そう言い放ったその時、見張り員の一人が叫んだ。


「あっ、敵機が爆弾を投下…いえ、ロケット弾です!高速でこちらに向けて飛んできます!」


 その絶叫の直後、数発の『ロケット弾』は寸分の狂いなく、数隻の煙突へと突進。そして炸裂した。旧日本海軍の加賀型戦艦に酷似したタウルス級一等艦隊型航洋装甲艦は、機関や弾薬庫にも堅牢な装甲を有し、煙突も不幸な被弾で致命傷の原因とならぬ様に工夫されてはいるが、それでも速力低下は余儀なくされた。


「馬鹿な…ロケット弾が正確に煙突に当たっただと…?」


「いえ、アレは煙突を…『熱を発する場所』を追いかけていました!他の艦も同様にです!」


 その報告に、艦長は双眼鏡で同様の被害に遭った艦を見やる。確かに、他の艦艇も中央部の煙突に必ず被弾しており、偶然と考えるには出来過ぎている。


「馬鹿な…一体いかなる技術で、正確に爆撃を当てたというのか…?」


 スラグは愕然を露わにする。敵爆撃機で生き残ったものは翼を翻し、全速力で逃げていくが、直掩機は敵戦闘機との交戦に忙殺されており、追撃は不可能であった。その2時間後、第一次攻撃隊は帰投を果たしたのだが、スラグ達艦隊司令部に追撃の意思は見られなかった。


「あの様な隠し玉を持っていたのだ、再攻撃でより多くの被害を被る事になるだろう。西方艦隊とともにここは撤収し、万全の状態を整えて決戦を挑むべきだ」


 斯くして、ハレー作戦は帝国軍の勝利に終わった。共和国軍の海上戦力及び補給線破壊は見事成功に終わった一方、鹵獲した兵器や捕虜からの聴取によって、恐ろしき事実が判明した。


 一つは、理論段階で開発途中であった航空機用タービンエンジンは共和国にて実用化している事。電波や赤外線を用いた誘導兵器が開発されている事。この二つの事実は質的な面で逆転される可能性を示唆しており、帝国軍上層部は直ちに新兵器の開発と量産を行う様に指示したのである。

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