第13話 イオニア空襲
帝国暦502年4月13日 ヘレジニア大陸南部海域
ゾディアティア帝国東方艦隊を主軸とした攻勢艦隊は、テサロネキアを出航して7日が経ち、イオニア市へと順調に近付いていた。
「先の西方艦隊のブレダ襲撃を受けてか、共和国は相当混乱した様子であり、現在一部の陸軍部隊を後退させて新たな防衛線を築き始めている模様です」
艦隊旗艦を務めるタウロス級一等艦隊型航洋装甲艦「エルナト」の艦橋で、参謀長がレジュメを片手に報告し、艦隊指揮官のスラグ大将は頷く。
「中継地点を攻撃され、あまつさえ物資を大量に奪われたからな…後方を軽視したツケというものだ。だからこそ我ら攻勢艦隊が輝くというもの」
彼が率いる攻勢艦隊は、戦艦12隻、空母10隻、重巡8隻、軽巡8隻、駆逐艦60隻、潜水艦18隻、補給艦12隻の総勢126隻からなる大艦隊であり、戦艦を主力とした第一艦隊を中心に据え、重巡を主体とした前衛艦隊を前に、空母を主体とした航空艦隊を後方に据える隊形を取っていた。
しかも空母のうち2隻は最新のガリレイ級一等航空巡洋艦であり、〈アンタレス〉の後継として開発されたNF-7〈アクイラ〉艦上戦闘機や、A-7〈ベラトリクス〉艦上攻撃機など艦載機を72機も搭載する事が出来た。よって従来のペガソス級一等航空巡洋艦や、中型空母のグリニッジ級二等航空巡洋艦を含め、860機もの常用機が動員されていた。
とその時、複数の通信士が報告を上げてきた。
「提督、「ガリレイ」より入電。直掩機が敵哨戒機を捕捉したとの事です。現在迎撃を行っておりますが…」
「「コペルニクス」より入電。偵察機が敵艦隊を捕捉しました。方位005、距離200キロ」
「相手に行動を気取られたのは確実だな。であれば先に手を打つか…全空母は直ちに攻撃隊を出せ。直掩機以外全てをイオニアへの空襲及び敵艦隊攻撃に差し向けろ!」
「了解!」
命令を受け、10隻の空母は直ちに行動を開始する。甲板上にはすでに〈アクイラ〉と〈ベラトリクス〉、前任機である〈アンタレス〉とA-6〈デネブ〉艦上攻撃機、〈アルタイル〉艦上爆撃機が並び、プロペラを回していつでも飛び立てる状態にあった。
「発艦、始めー!」
合図と同時に、油圧式カタパルトに設置され、手始めに航空魚雷を抱えた艦上攻撃機が発艦を開始。その次に艦上爆撃機が発艦を始め、最後に艦上戦闘機が自然風と自力の滑走で発艦する。これは先の第二次海峡戦争での教訓であり、攻撃隊発艦中に敵機の襲撃を受け、攻撃機や爆撃機の燃料と弾薬が誘爆して母艦に甚大な被害をもたらした事があったためである。
そうして第一次攻撃隊として、戦闘機120機、攻撃機180機、爆撃機180機の総数480機が発艦。攻撃機は敵艦隊へと迫った。
ラテニア海軍はヘレニジア大陸に対し、巡洋艦6隻、駆逐艦12隻、魚雷艇18隻、哨戒艦18隻、潜水艦12隻の66隻を配置していた。木造帆船ぐらいしかない周辺国に対しては十分過ぎる戦力であるし、帝国の現地で確認されている艦隊に対しても圧力を掛ける事は出来ると思っていた。
だが、哨戒機によって敵艦隊の位置を把握していた共和国海軍ヘレニジア艦隊の指揮官は、敵艦隊の行動を知ったからこそ、驚愕を顕にしていた。
「馬鹿な、軍艦から多数の航空機だと…!?」
ラテニア海軍は少数の飛行艇や水上機以外、航空機を持たない。基本的に空軍の支援が届く沿岸域にて艦隊戦を行う事が多く、この世界ではワイバーンの襲撃など対空砲で十分に対応出来たため、個別に戦闘機や爆撃機を主体とした航空隊を持つという発送に至らなかったのである。
相手の戦い方を知ろうともせず、格下ばかりの周辺の侵略で満足していた驕りのツケは大きかった。四方八方より迫りくる敵機に対し、艦隊は両用砲や機関砲による抵抗を見せ、実際に相当な効果を見せたものの、余りにも数が多過ぎた。
敵機が墜ちるよりも多くの航空魚雷が投下され、海面下より多数の死が迫りくる。中には決死を悟って炎を全身に包んだまま体当たりをする機もおり、最初の攻撃が終わった後、洋上には多くの黒煙が立ち上っていた。
戦闘は別の場所でも起きていた。イオニア近郊の上空では、圧倒的多数の敵戦闘機を相手に共和国空軍の防空戦闘機は疲弊を強いられた。如何に高速のジェット戦闘機と言えども、一度に3倍もの数を相手取る程の性能は無く、しかも〈アクイラ〉は最高時速690キロメートルというレシプロ機として快速である上に、航続距離も長い。燃料が乏しくなり、速度が落ち始めた機から20ミリ機関砲の餌食となっていき、またたく間にその数を減らしていったのである。
斯くして、イオニアを巡る最初の戦闘は帝国軍の優勢であった。しかし、その2時間後、無事な飛行場より護衛戦闘機を引き連れた爆撃機の編隊が出現。帝国軍攻勢艦隊に対して反撃を開始したのである。
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