第10話 スロビア=ゲルマニア戦争③

王国暦502年3月20日 スロビア王国西部 港湾都市ドブロニスク


 海戦から7日が経ったこの日、帝国海軍スロビア派遣艦隊旗艦「デロス」の士官室では、各艦の艦長やスロビア軍連絡将校を集めての会議が行われていた。


「西方艦隊主力が到達するまであと7日、ゲルマニア帝国は洋上からの侵攻を諦めてはいるが、すでに艦隊残存主義に切り替えた様だ。よって我が艦隊は、陸軍第2歩兵師団及び王国軍と共闘してこれの完全な殲滅を計る」


 ドーラフ提督の言葉に、多くの将校の表情が引き締まる。ゲルマニア帝国の大規模侵攻はスロビア国民から相当な顰蹙を買っており、正当な報復を求める声が強かったのだ。そして講和条件として一部地域の割譲を求める事が決定され、ゲルマニア領への侵攻が決定されたのである。


「その侵攻目標は、国境線にほど近い港湾都市トレストとその周辺地域。ゲルマニア帝国の戦力を削る事は我が帝国にとっても好都合であり、本土も許可を出している。連中は少し調子に乗り過ぎた」


 戦争が開始される以前、帝国はゲルマニアに対して外交交渉を求めたのだが、相手は『遥か東の辺境など相手にならん』と門前払いをしており、国務省を憤慨させていた。よって帝国政府もスロビアの方針に全面的に賛同しており、より軍事支援を強化していた。


「こちらの損害は未だにゼロだ。だが敵国内にはまだ大量の戦力がある事を踏まえて、全力で仕掛ける事とする。陸は第2歩兵師団及びスロビア陸軍の第1師団が主体となり、猟兵旅団及び第2軍団が侵攻を支える。空は陸軍航空隊第8航空団が主体となり、敵航空戦力の排除と制空権の確保、対地航空支援を行う。そして海は我ら艦隊が参戦し、敵軍港を強襲。敵艦船を全て撃沈する。我が国を侮った報いを受けさせるぞ」


「了解!」


 この2日後、艦隊はドブロニスクを出航。その際、物資運送用の揚陸艦も5隻付随しており、これらにはスロビア王国陸軍で新たに編成された特殊部隊、『魔導歩兵旅団』が乗艦していた。彼らはその名の通り、魔法能力のある騎士を中心に構成されており、人数は総数750名程度と非常に少ない。だが彼らは魔法具により一騎当千の戦闘能力を得ており、上陸作戦で十分な戦力となる事が見込まれていた。


・・・


3月23日 ゲルマニア帝国トレスト沖合


 『トレスト侵攻』と呼ばれる事になる戦闘は、「デロス」艦載機と〈カエルム・レオパルドゥス〉の空襲により幕を開けた。


 〈ペレグリウム〉と一部の〈アンタレス〉によって、防空を担っていたワイバーンを一掃するや否や、4機の〈カエルム・レオパルドゥス〉が胴体爆弾倉や主翼下に搭載していた18発の50キロ爆弾を投下。飛行場に対して絨毯爆撃を仕掛ける。


 敵の航空戦力が封じられたのを確認した艦隊は接近を開始し、港湾部に停泊している敵艦船に武装を指向。砲撃を開始する。12門の20センチ砲と7門の15センチ砲、36門の12センチ砲が一斉に火を噴き、身動きの取れない敵戦列艦を一方的に破壊していく。空母や水上機母艦の艦載機は地上の敵陸軍基地に向けて飛び、爆撃や銃撃で以て一方的に叩いていく。


「撃て撃て!火力ではこちらの圧倒的有利ぞ!すでに陸軍は領内に侵入している、戦果で後れを取るな!」


 「デロス」艦橋よりドーラフが怒鳴り、艦隊は艦砲射撃の勢いを強めていく。そして沿岸砲台が破壊された事を確認するや否や、スロビア陸軍魔導歩兵旅団は行動を開始した。


 まず、揚陸艦の甲板上に座っている大型ワイバーンに2名の歩兵が乗り込み、ワイバーンは翼をはためかせて離艦。市街地に向けて飛んでいく。そして揚陸艦が着岸するのにふさわしいであろう浜辺の周辺と飛び回り始め、それを合図に5隻の揚陸艦は前進した。


 浜辺に着岸するや否や、艦首の扉が開かれ、そこから数両の〈エクウス〉が現れる。これに対して数名の守備兵が迎撃を試みられたが、突撃前に57ミリ砲が放たれ、即座に吹き飛ばされる。


 そこから先は、一方的の一言であった。2日後、抵抗する全ての敵兵の無力化を確認したスロビア王国軍は、トレストの占領を宣言。陸軍もより広範囲の占領を押し進め、領土の拡大に成功したのである。

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