第9話 スロビア=ゲルマニア戦争②

王国暦502年3月13日 スロビア王国西部沖合


 地上での攻防戦から2日程度経った頃、戦闘は海でも繰り広げられていた。


 軽空母1隻と一等巡洋艦2隻、二等巡洋艦1隻に駆逐艦6隻、そして潜水艦6隻と水上機母艦1隻の17隻で構成されたゾディアティア帝国海軍派遣部隊は、将兵の全てがゾディアティア海軍軍人ではあるが、海軍参謀本部から与えられた命令はスロビア領内のゾディアティア租借地の警備であるため、ドブロニスク基地を拠点に行動している。そして水上機によってゲルマニア海軍艦隊の行動を把握したゾディアティア艦隊は、現在ハレー作戦のために移動中の西方艦隊の障害となるであろう敵を排除するべく、行動を開始していた。


「まさか、この地でこの様な初陣を果たす事になろうとはな…」


 艦隊旗艦を務める二等航空巡洋艦「デロス」の艦橋にて、艦隊司令官のドーラフ少将はそう呟き、隣に立つ艦長のケネス大佐は肩をすくめる。


「ですが、見事に戦果を上げれば、それなりに表彰を受ける事が出来ましょう。ここは確実に勝利し、誰に喧嘩を売ったのかを思い知らせてやりましょう」


 スロビア海軍の主戦力は、60門のカノン砲を装備した戦列艦が10隻に、蒸気機関を採用し、20門の火砲と薄い鉄板を装備した装甲コルベット艦が10隻。その他旧式の帆船20隻を有するが、装甲コルベット艦以外は当てにはならなかった。


 対するゲルマニア海軍は、戦列艦20隻に竜母5隻、フリゲート艦20隻の45隻を投じており、しかもフリゲート艦は蒸気機関を採用している艦も見られた。これは確かにゾディアティア帝国に安全保障を求めてくる筈である。


「この国の海鮮料理は旨い。さらに海の幸は食料のみならず、南の島国との貿易も含まれる。この国の豊かな料理を味わう事が出来る様に、奮励努力しようではないか」


 料理人の実家に生まれ、魚介料理にうるさい事で知られるドーラフの、この艦隊に対する訓示は、当然ながら帝国海軍の将兵を奮い立たせた。


・・・


 さて、2時間後に始まった戦闘であるが、趨勢は終始ドーラフ艦隊の優勢に進んだ。


 「デロス」には32機のNF-6B2〈アンタレス〉艦上戦闘機が搭載されており、ノルマンディア大陸征服に伴う戦闘にて、ワイバーンとのキル・レシオは10対0、すなわち1機当たり損害無しで10騎も撃墜出来る事が判明している。


 零式艦上戦闘機21型に酷似した〈アンタレス〉のB2型は、機首の7.7ミリ機銃で以てワイバーンの翼を引裂き、主翼内の20ミリ機関砲で胴体を撃ち抜く。そうして敵騎60騎を全滅させた〈アンタレス〉隊は「デロス」に帰投するや否や、試作兵器の13ミリ機銃ポッドや50キロ爆弾を装備。敵竜母やフリゲート艦へ爆撃に向かう。


 ゲルマニア艦隊は攻撃魔法や単発式の高射砲で迎え撃つが、第二次海峡戦争の生き残りであるパイロット達からすればささやかな抵抗に過ぎなかった。


 空襲から3時間後、重巡洋艦2隻と駆逐艦4隻からなる水上打撃部隊は敵残存艦に接近。砲撃を仕掛けた。竜母全てとフリゲート艦10隻を沈められたゲルマニア艦隊の士気は最底辺にあったが、そんな事など彼らの知った事では無かった。


 スロビア海軍の観戦武官曰く『もはや蹂躙でしかない』と評された追撃により、ゲルマニア艦隊は45隻中43隻が撃沈され、1隻が鹵獲。生きて帰る事が出来たのは戦列艦1隻のみであり、文字通りゾディアティア艦隊の完勝であった。


 余談ではあるが、戦闘後ドーラフ提督はドブロニスク中のレストランと料理人に対して魚介料理を注文し、盛大な食事会を開催。スロビア海軍の将兵も招き、親睦を深めた。そして彼が本国帰還後に新聞に投稿したコラムにより、ゾディアティア本国ではスロビア料理がささやかなブームになったという。

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