第6話 王国陸軍第1自動車化狙撃兵師団
王国暦502年2月5日 スロビア王国ベイオブルグ近郊 王国陸軍基地
「ようやくここまで揃ったな…」
陸軍基地の敷地内にて、国王エリクス1世は目前に揃った兵力を見てそう呟く。同席するマリアも、イェーガーに話しかける。
「流石ですわ、イェーガー大佐。訓練の開始から僅か3か月で、1個師団を完成させる事が出来るとは…」
「いや、これは俺だけの手柄じゃないですよ。あんたらスロビア人が真面目だからこそ、こうして短期間で完成したんですよ」
彼の言う通り、スロビア王国はノルマンディア大陸の国々の中では小国という事もあって、全ての国民は血税によって運営される学校に通い、高度な高等教育を受ける事で、産業の様々な分野において活躍していた。
軍も同様に、かつての騎士中心の時代から、従軍魔導師や銃の普及によって国民皆兵の時代となり、ゾディアティア式の軍隊のシステムを受け入れる素地が出来上がっていた。そしてヘレニジア大陸での惨敗を受けて行われた軍事支援を元に、王国陸軍は新たな編制を採用したのである。
それは帝国陸軍の歩兵師団をベースに、スロビアの人口に適合する形でイェーガーがアレンジした自動車化歩兵師団である。9名の歩兵分隊を最小単位とし、定数1200名程度の歩兵連隊を3個、102両の中戦車を有する戦車連隊を1個、砲兵や工兵なども含めて7000名の将兵で構成される自動車化部隊となったのである。
ちなみに兵科は当初は『歩兵』であったが、これまで弓兵や長距離攻撃魔法、そしてマスケット銃で敵将兵を狙撃する狙撃兵は王国軍にて『エリート』の扱いを受けていた事から、イェーガーは王国軍でも精鋭の存在となってほしいという願いを込めて、『狙撃兵』の兵科とした。ちなみに既存の狙撃兵は、『狙撃専門兵』の名称に変更されている。
「しかし、トラックの普及がこんなに早く済んだのは意外でした。あそこまでの大盤振る舞いは帝国にとって多大な負担でしたでしょう」
「いや、むしろ本国の企業連中にとっては好都合だ。目前のトラック群はいわゆる型落ちでな、軍も廃棄の手間が省けるといって喜んでるよ。ま、ヘレニジアの件があるからその状況も大きく変わるだろうがな」
ゾディアティアの産業は現在、軍事部門と植民地開発のための関連機材が最も大きな生産量を誇っていた。例えば自動車は公用車や乗用車よりも、物資運送用のトラックの需要が大きく、自動車化を進める陸軍はもちろんの事、ノルマンディア大陸やヘレニジア大陸を開発する移住団から多数の注文を受けていた。
企業は挙って競争し、より高性能なトラックの開発に勤しむ。そして中堅企業の一つであるカラバン重工業は、既存のものより性能がよく、それでいて量産性の高いトラックを開発し、見事陸軍からの要求に応えたのだ。
これに対し、軍需の最大手として有名な大企業である
こうして大口の注文を得たカラバン社は、供給量を増やすために海外に工場を建設する事を発表。議会にて社長は『我が帝国の素晴らしき科学技術を普及させる』と宣言し、ここスロビアにも工場の建設を開始したのである。
「いずれ、馬車に頼っていた陸上の輸送や物流は、鉄道と自動車に取って変わられる。敷設工事も順調に進んでいると聞いたが、本当か?」
「ええ、我が国の土木関係者を舐めないで下さいまし。土いじりはドワーフにとって得意中の得意でございますし、人手はゴブリンとオークが担っています。何より重機の役割はトロールやオーガが行いました。ですのでその功績を考慮して、砲兵や工兵には彼らを採用しております」
マリアはそう言いながら、砲兵連隊と工兵連隊に目を向ける。彼女が王子の配偶者として降嫁する5年前、つまり今から12年前の王国暦490年には、周辺国との国力の差を埋めるべく、これまでヒトとみなされてこなかった亜人族や魔人族にも人権を与えて、人口増加と対立の解消を図っていた。
その成果は非常に大きく、統計上の人口が1割増えたのみならず、各種産業や魔法の発展をも促し、ノルマンディア西部の中堅国家として盤石な地位を得たのである。でなければどうやって、こうも早くゾディアティアの科学技術を受け入れる事が出来たであろうか。
「現在、王国軍では新規に2個、同規模の狙撃兵師団を編成する計画を進めている。既存の5個軍団は10年後をめどに縮小を進めつつ解体し、新たに4個歩兵師団を編成する予定だ。火器が優秀となり、一騎当千の装甲車両もあるとなれば、戦列歩兵など過去の存在でしか過ぎないからな」
「成程…して、車はどの様に調達する予定だ?」
「マリアがすでに、南部のブドビアに土地を確保しており、ヘファイストス社からの協力を得て国営の工場を建設中だ。他の地域でも同様に、工業地帯の整備を中心に、兵器の国産化を進める方針だ。しばらくは貴国からの輸入に依存する事になるがな」
「それは直ぐに変わると思うがな。何せここから西にはラテニアの本土があるんだ、直ぐに最新の兵器を供与してくるだろうな」
イェーガーはそう答えながら、檀上に立つ。
「王国陸軍第1猟兵連隊長のイェーガー大佐だ。貴様らの属する狙撃兵師団は、従来の歩兵部隊に比して、ライフル銃の保有数が非常に高い。すなわち全員が狙撃兵としての能力を標準的に有している事となる。諸君らにはその名に恥じぬ、優秀な戦いを期待する」
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