第3話
小学校高学年。
「……」
既に高校範囲を履修した俺にとって退屈な授業を聞き流し、とある考え事をしていた。
(最近、鈴と蒼太が仲良くない気がする)
ちなみに鈴は公園にいた女の子、蒼太は主人公様である。
(うーん、でも)
まぁ取り返しはつくと思っている。
鈴は間違いなく蒼太に惚れているだろうし、蒼太も本人は気付いてないっぽいが分かりやすく鈴が好きなことがバレバレだ。
となれば思春期故のあれだろう。
俺が踏み台として活躍すれば、二人の関係はまた大きく一歩近付くはず。
だが問題はそこではない。
(このままたった一つの物語だけで満足していいのか?)
そう、俺は最高の踏み台。
そんな俺がたった一人の為の使い潰されるなんて人類の喪失。
世界の終わりと言っても過言じゃない(過言です)。
新たな主人公を探す。
その必要があるな。
「先生、くも膜下出血したので保健室行ってきます」
「それなら保健室でなく病院に行ってね」
「うぃっす」
俺は保健室へ向かった。
「こんにちは」
「あ、主人公もどきBさん」
保健室には今高校生の主人公もどきBさんがいた。
「何故ここに?」
「学校の授業の一環で調べもの。圭くんは?」
「全身打撲したので保健室に」
「そっか。先生なら私が実験した下剤をこっそり飲ませたからトイレに行ってるよ」
「何故下剤を盛ったんです?」
「面白いから」
さすが主人公もどきBさん。
やることが常人のそれではない。
「なら今暇です?相談したいんですけど」
「いいよ。座って」
俺はもどきBさんの正面の椅子に座る。
つまりさっき便意を催した先生が座っていた場所だ。
「新しい主人公を見つけたいんですけど、中々良さげな相手がいなくて。どうにかなりませんか?」
俺の質問にBさんはうーんと頭を悩ませる。
「そうだね。踏み台となるとやっぱり同世代がいいでしょ?」
「はい」
「私の周りになら前世の知識を持つ転生者だとか、魔法を使える怪物だとか、神を名乗る翼の生えた人?がいるけど、紹介できないなぁ」
「そうですか」
どれも気になるが、その人達の踏み台としては魅力を感じない。
やはり未完成の存在に俺は魅力を感じるのだ。
「じゃあ今から私、他の小学校に行くけど一緒に来る?」
「いいんですか!?」
もちろんと優しげな顔で頷くもどきBさん。
つい惚れてしまいそうになる綺麗な笑顔だ。
「じゃあ行こっか」
「保健の先生はいいんです?」
「ああ大丈夫。そもそも話自体興味ないから。会ったって事実が欲しいだけだし」
「そうですか」
そして俺達は隣町にある小学校へと向かった。
「あらこんにちは奈——」
「ちょ、本名禁止で。私ミステリアス系で売っていくので」
「そ、そう?」
「それとこの子も一緒で大丈夫です?」
「この子は?」
「2時間前から不登校になった踏み台なので気にしないで下さい」
「そ、そう?」
なんかヤバい人達入れちゃったな〜と教師は考えながら、学校内へと入っていった。
「奈——」
「Bです」
「び、Bちゃんは学校の様子について調べているのよね?」
「はい。ガキど——子供達がどのような生態か調べたくて」
「濁した後の台詞で危ない人って分かるから気をつけなさい」
俺ともどきBさんは学校を案内される。
「おや、図書館では4年生が授業中みたい」
「みんな集中してますね。この中に塩素ガスを流し込んだらと思うとワクワクします」
「もう隠さないのね」
「どう?圭くん。気になる子はいる?」
「あまり……。あ、でも」
俺は指を差す。
「あの子、少し気になります」
「どれ?」
「あの窓際の」
「えぇ〜いっぱいいて分かんない」
「右の方の」
「んんん?」
「だーかーらー」
俺は図書館に入り
「これです!!」
「!!!!」
「この子か〜」
授業中であるにも関わらず本を読んでいた男の子。
「気が弱そうだけど、どこか異端の香り。胸元に書かれている名前が近くのヤクザ組と同じなことも気になります」
「!!!!!!!!!!」
「なるほど。学校では気弱だけど、実際はめっちゃ強い。それは確かに主人公っぽい」
「普段は甘んじて虐めを受けるが、大切な人を守るために真の力を発揮する。そしていじめっ子である俺は無様にやられるというシナリオです」
「いいんじゃない?私はあまり好きじゃない話だけど、人が傷だらけの姿は大好き」
「ちょっと貴方達!!」
すると授業をしていた教師がこちらに寄ってくる。
「急に入ってきたと思えば何!?」
「だってもどきBさんが全然気付かないし……」
「えぇ〜私が悪いの〜?もっとちゃんと教えない圭くんが悪いんじゃない?」
「そんな話はどうでもいいの!!」
ヒステリック気味に怒る教師。
奥の方で俺らを案内してくれた先生は頭を抱えている。
「学校はどこ?家の電話番号は?しっかりとお話するから」
「それは」
「さすがに面倒」
俺はもどきBさんにアイコンタクトを送る。
「じゃあ」
「はい」
そして俺ともどきBさんは床にガスを撒き散らし、外に出た。
扉を塞ぎ、誰も外に出られないようにする。
「揮発性高いからある程度時間が経てばオッケー」
「了解です」
奥から必死に扉を開けようと力を込められるが、鍛えた俺には勝てない。
段々と声が小さくなっていき、やがて扉にかかる力は無くなった。
「殺してないですよね?」
「大丈夫に決まってるでしょ。目を覚ましたらみんな今日のことは忘れてるよ」
「ならよかった」
すると突然閉じていた扉から強烈な引力が発生する。
その激流に逆らえず結局扉は開く。
扉の先には何か含みのある目を向ける人物がいた。
「あ、主人公(仮)くん」
「……」
「まさかもう復讐を?俺達なんかしましたっけ?」
「何も」
「ですよね」
俺達の前に立ちはだかる男の子。
名前を主人公NO2、略して主2と名付ける。
そんな彼は俺達の前でしばらく黙った後、ゆっくり口を開き
「あ、ありがとうございました」
そう言ってどこかに去って行った。
俺ともどきBさんは互いに首を傾けた。
◇◆◇◆
僕はイジメられていた。
家が普通じゃないのが理由なのか。
それとも僕の見た目が弱そうだからかは分からない。
でも、少なくとも彼らにもちゃんとした理由があったわけではないと思う。
理由があるからイジメるんじゃない。
イジメる理由が欲しいのだ。
僕は先生に助けを求めた。
だけど先生は
『……そう』
『先生?』
『対応しておくから、あまり周りには喋らないように』
『は、はい』
それから問題は解決しなかった。
後から聞いたが、僕をイジメる男の子は先生の甥っ子らしい。
結局その理由もどうでもいい。
僕がイジメられ続けた現状は変わらないのだから。
そんなある日、とある二人が学校へとやって来た。
一瞬で僕の家を見抜かれた時は恐ろしかったけど、それは些細なことだった。
だってあの二人
(頭おかしい)
クラス中のみんなが怯えていた。
もちろん僕も。
僕は昔から人よりも頑丈に生まれた。
イジメられる時に叩かれたり蹴られたりしても、あまり痛くはない。
でも、こっちから叩く勇気はなくて一方的な暴力に見舞われ続けた。
だからあの二人が恐ろしくても、僕は何も出来ない。
だけど先生が動いた。
僕の時は何もしなかった先生が。
二人にちゃんと先生らしく注意をした後、携帯を取り出した。
それと同時に二人の目が変わった。
そして何かを地面に落とし、逃げた。
先生は追いかけようとしたが、割れた瓶から溢れ出た煙を見て必死に逃げ出した。
でも扉は開かなくて、何度も何度も叫んでいたけど、結局眠ってしまった。
先生も、僕をイジメた連中も、それを見て見ぬふりをしていた連中もみんな倒れた。
それがなんだか愉快だった。
「あ」
お礼を言わないと。
そう思った。
僕はいつもより硬い扉を開け、お礼を言った。
でも急に恥ずかしくなって、走って逃げてしまう。
スッキリした。
満足した。
これなら明日からのイジメも耐えられる。
そう思った。
でも、それだけじゃなかった。
「おい優斗。お前をイジメに来てやったぜ」
次の日、ナイフを舐める救世主がいた。
その日以降、僕がイジメられることは無くなった。
告白まで残り6年
踏み台キャラに憧れて @NEET0Tk
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