第2話

 踏み台になると決めてから、俺はとにかく色んなことを始めた。


 最高の踏み台になる為、どのような人間にもなれる力が欲しいと思ったのだ。


 スポーツはもちろん、勉強や娯楽、ニュースや本を読み様々な知識も蓄えた。


 寝る時間も惜しい。


 そんなわけで遺伝子に頼み込んでショートスリーパーとなることで問題を解決。


 なんとなく手を出した株が成功し、栄養食だけで日々の食事を完備。


 ひたすら己を高める日々を送っていた。


 だがある日気付いた。


「俺を踏み台にする人間は誰なのだろう?」


 ふと思い立った。


 最高の踏み台になろうとする俺を踏むに値する人間はいるのだろうかと。


 俺の夢は色んな人に踏み倒され、もう動けなくなるまで使い潰されることだが、ただの人間じゃダメだ。


 物語に登場するような主人公。


 そんな奴でなければ俺を乗り越えることは許さないし、不可能だ。


 だから俺はパートナーを探すことにした。


「あら神崎さん家の圭くん。おはよう」

「おはざいます」

「今日も勉強しながら走ってるのかい?」

「はい。この前車に轢かれて死にかけましたが大丈夫です」

「そうかい。精が出るねぇ」


 近所のおばちゃんと別れ、俺は主人公探しの旅を続ける。


 すると俺は公園でとある子供を見つけた。


「あれは……」


 公園で一人泣いている女の子。


 黒と白が混じったような髪は、日本人……というか、人としてあまり見かけないものだ。


 理由は知らないが、周りで遊んでいる子達が無視するあたり、変に気味悪がれているのだろう。


「……間違いない」


 俺のヒロインレーダーがビンビンに働いている。


 彼女は間違いなく俺の上に立つべき人間だ。


 主人公が俺の背を蹴り、彼女の手を取る。


 そんな光景が容易に想像出来た。


 あとは


「俺を気持ち良く踏んでくれる奴は誰だ」


 俺は全力で走り回す。


 彼女をあの公園から助け出せる人材を探さなければ。


「すみません!!この辺りで気が弱そうだけどいざとなると勇気を出して仲間を守るような人はいませんか!!」

「俺か?」

「私のこと?」

「オイラか?」

「妾のことか?」


 あれも、あれも違う。


 みんな主人公としての格が足りない。


「一体どうすれば……」

「よく分からないけど、本人に聞いてみたらいいんじゃないか?」

「主人公もどきAさん……」

「その女の子が助けて欲しい相手。本当の主人公ってのは圭にとっての主人公ではなく、彼女にとっての主人公であるべきじゃないのか?」

「ッ!!」


 天命だった。


 雷が落とされた気分だった。


「全く」


 俺も踏み台としてまだまだだな。


「ありがとうございます。俺……頑張ります!!」

「行ってこい」

「応援してるよ」

「が、頑張るんだぞ」

「吉報を待っておる」

「はい!!」


 主人公もどきA、B、C、Dさんに見送られ、俺はもう一度公園へと戻って来た。


「うぇえええええええええん」


 今もなお泣いている少女。


 俺は彼女に声をかけた。


「誰に助けて欲しい」

「え?」


 俺の存在に気付いた彼女は、キョトンとした顔をした。


「だ、誰?」

「俺はしがないロイター板。人々が超えるべき存在だ」

「本当に……誰?」

「俺の話はいいんだ。俺はあくまで脇役だからな。それで?どんなタイプの人間に助けて欲しい」

「タイプ?」


 少女は戸惑いを見せる。


「今気になる相手でもいい。もしくは近くに住んでいるイケメンのお兄さんでもいい。今、君は誰に助けを求めたい」

「……」


 少女は涙を拭き、こちらと目を合わせる。


「あなた」

「……」

「あなたが……いい」

「……それはダメだ」

「どうして?」

「俺は主人公の踏み台だ。だから、俺が主人公であってはならない」

「よく分からない」


 子供にはまだ難しすぎるか(同い年)。


「本当に些細な相手でいいんだ。隣に住んでいる幼馴染とかでも」

「蒼太君?」

「蒼太?」

「うん。私最近引っ越してきたんだけど、隣に住んでる蒼太君は優しくしてくれる」

「そいつに助けてもらえたら嬉しいか?」

「え?……う、うん。多分」

「そうか」


 俺は標的を定めた。


「待ってろ。直ぐに助けを呼んできてやる」

「う、うん」


 そして俺は走り出した。


「……面白かった」


 少女の涙は完全になりを潜めていた。


 ◇◆◇◆


「あいつが蒼太か……」


 俺は木の上から歩いている男を観察する。


 見た目は平凡。


 中身も平凡。


 だが


「あ!!猫ちゃんだ!!これ上げる!!」


 近くにいた野良猫を餌を与えている。


「動物が好き。性格も穏やか。心優しい」


 俺はビジョンを思い描く。


 先程の少女とこの男が俺の上にまたがり、動物園でデートする姿を。


「……パーフェクトだ」


 直ぐに行動に取り掛かる。


「グ、グハァー!!」

「ど、どうしたの!?」


 道端で声を上げる俺の元に走ってくる主人公。


「ガハっ!!ど、どうやら俺はもうダメみたいだ」

「え?だ、大丈夫?」

「だから最後にお前に頼みがあるんだ」

「う、うん。僕に出来ることなら」


 俺は血反吐を吐きながら懇願する。


「公園に……1人、女の子がいる。あの子をどうか……助けてやってくれぇ」

「わ、分かった。僕、頑張るよ」

「あぁ。後は……頼ん……だ」


 ばたりと倒れる俺。


 踏み台になるための演技が身を結んだ瞬間であった。


「と、とりあえず救急車呼ばないと」

「待て!!」

「え!!」


 突然腕を掴まれ驚く主人公。


「先に……女の子だ。俺は別に怪我をしてないから救急車なんか呼ばなくていい!!」

「う、うん。分かった」


 そう言って公園へと向かった主人公を『頑張れよ』と血で書いたダイイングメッセージで見送る。


 そして主人公の姿が見えなくなった後、公園で二人の様子を眺めた。


「友達に……なってくれる?」

「うん」


 二人はこうして運命の出会いを果たした。


 全く、神様も気まぐれなものだな。


「……」

「どうしたの?」

「どこ行ったんだろ」

「よく分かんないけど、遊ぼ?」

「うん!!」


 駆け回る二人を見て、あれなら大丈夫そうだなと俺はホクホク顔で見送った。


「さて」


 最後の仕上げだ。


「おい、あれ」

「うん。ちょっと痛い目に合わせよう」


 そんな様子を見ていた公園のガキども。


 本当に最近の子供はどうなっているのやら(同い年)。


「ほれ子供達よ。俺達脇役は脇役らしく華々しく散ろうか」

「お前誰だ!!」

「地上最高の踏み台。高級絨毯よりも素晴らしい踏みごごちで有名な圭ちゃんだ」

「誰だよ!!」

「お前達の最後の仕事はあの二人に絡んで散ることだ。それ以降は蛇足だからもう関わるな。分かったか?」

「む、難しい言葉ばっか使うな!!」

「そうだそうだ!!」

「とりあえずだ。もう面倒だからあいつら二人に関わるなって言ってるんだ」


 俺のへりくだった説得のかいもあってか、奴らもモブであることを自覚し、今後二人に意地悪しないことを誓ってくれた。


「ごめんなさい」

「許して下さい」


 顔がボコボコになったガキどもと別れ、俺の踏み台生活はより鮮やかなものになるのであった。


「……」


 そんな俺を見ている少女に気付かずに。


 告白まで残り9年

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