第9話 ROUND2 サキVS爆乳竜人 【くっころ成功したら投げコイン】

 コウキの特殊能力の説明が終わったところで、

「ってことで洸希コウキのユニークを知ってもらったけど、委員会名乗るにはエースが一人じゃ不安だよね。それじゃ、こっからは私のターン


 サキはそう言って後方で盾を構える爆乳ドラゴニュートの女騎士に向かいます。


「エルミナ、逃げろ!」

 爆丸が叫びましたが、もう遅いのでした。


 サキが女騎士の足元に放った小さな粒。小指の先ほどの黒色のそれが地面に潜り込みます。と、瞬時に石板を割って伸びてきた植物のツタ。最初の1本に続いて十数本ものツタが伸び上がり、幾本かは互いに絡まりついて太さを増してうごめきます。

 それらツタが戸惑うエルミナに襲いかかります。

 

「くっ、このっ!」

 竜人のエルミナは、爆丸ほどではありませんが爆乳を支えるに相応しい大柄な体躯。ですがこのツタには為すすべがなく、手足を絡め取られ、身体ごと持ち上げられてしまいました。


「なっ、エルミナ!」

 爆丸の目の前でエルミナの落とした剣と盾がカランと音を立てて石床に転がります。


 武器を失った彼女は必死にもがくもツタは余計に絡まるばかり。おまけにツタは騎士の尊厳をも奪おうという意思をもつかのように触手のごとくに動き、彼女のあられもない姿が爆丸の眼前に晒されました。


 エルミナは屈辱に顔を歪めて吐き捨てるように言いました。

「くっ、殺せ!」


 この光景にはリスナーたちも大判振る舞いで応えます。


:くっころ くっころ【Silver-coin×3】

:ありがとうございますありがとうございます【Bronze-coin×7】

:ちょっと生みの親が見てる前でこれはマズイですよ!【Silver-coin×11】

:大丈夫? アカBANしない? 【Gold-coin×2】

:こいつはE・R・Oが発禁になるわけだぜ! 【Silver-coin×4】


「エルミナ!」


 爆丸がパートナーの元へ駆けつけようとしますが、コウキが足払いをして抑え込みます。爆丸とコウキの体格差は大きいものの、軽く手足を絡ませてるだけに見えるコウキの拘束を爆丸は抜け出すことができません。


「ええい離せ! 撮影ができんではないか!」

「あっ、はい」


 爆丸の真剣な顔におされたコウキが手を離せば、

「これはけしからんすぎだろ!」

 

 爆丸が腕を突き出し、その先にシステムウィンドウがオープンされています。そこから思念ポインターを使って彼が呼びだしたのは撮影モード。

 これは課金要素ですが、E・R・Oではゲーム中のイベントを撮影して保存や他のプレイヤーとシェアすることができます。

 無課金状態の撮影モードではウィンドウ枠に収まる部分の映像記録が36枚分できますが、課金によって記録容量を増やしたり、ムービー形式の保存ができたり、さらには3Dデータの保存(後から閲覧したときに主観視点以外の様々なアングルで楽しむことができます)が可能となっています。


「くそっ、アルバム容量を増やしとくんだった」


 ステージ上でベストアングルを求めて立ち位置をあちこち変えていく爆丸。

 エルミナも固有のセンシティブモーションが発動。身悶えし、羞恥に顔を赤らめ、とパートナーの撮影意欲を盛り上げていきます。


「爆丸さんすみません! 撮影いいですか?」

 

 周囲の観客の中から数人が近づいてきて同じく撮影モードを起動させます。

 E・R・Oでは街中やフィールドにてえっちなイベントが発生しますが、これを他のプレイヤーが勝手に撮影するのはマナー違反です。

 そのイベントを起こすための労力や時間を思えば、えっちなシーンだけ横から堪能するというのは浅ましい行為です。

 必ず許可を取ってからの撮影をするべきですね。

 人が戦っているモンスターを奪ったりしない、というのと同じくらい最低限のマナーなのです。

(公開処刑イベントはむしろ見せたくてやっているので、積極的に無断撮影をしたり卑猥な言葉をかけていくのがマナーです)



 そんなふうに、きちんとマナーを守った彼らは爆丸の知り合いだったようで、許可をもらった後は競うようにシャッターを切っていきます。


 

春々977:我が娘ながらここまでのポテンシャルを秘めていたとは。サキさん、もう少しカメラを寄せていただけますか。


 エルミナの生みの親である春々977先生もご満悦のご様子です。


 一人、コウキだけが悔しそうな寂しそうな顔をしています。えっちフィルターが作動してしまったようです。


 爆丸があっという間にアルバム容量を使い果たしてしまい、残念そうにカメラウィンドウを閉じたのを見て、サキがどうよ、という顔で口を開きます。

「これは西の森で手に入る戦闘用アイテム。効果は見ての通り敵を一定時間えっちな感じに拘束できる。レベルが10まで上の相手に有効よん」


「なんだと……あそこにそんな秘宝が眠っていただと。どこだ! どのモンスターが落とすんだ!」


「モンスターじゃなくって特定の木に止まってる鳥を落とすと手に入るの。あの森のさらに深部にこういう植物が自生してて、その実が好物って設定みたい。といっても私たちが取り尽くしたから5日間はリポップしないけどね。でもご安心。今なら攻略委員会に参加するメンバー、先着10名様にプレゼント」


 サキはそう言ってシステム画面を操作。光の球が出現します。

 それを手で押し出すと、ふわりと爆丸の元へ球が移動。彼が触れると光球はまるで吸収されたかのように消えました。プレイヤー間のアイテムの受け渡し機能です。


「そうか……契約しよう。俺たちはあんたの下につく」


:よっしゃ! トッププレイヤーの上に身バレ恐れない最高の人材ゲット!

:ばくまるがなかまになった!

:もうちょっと考えようぜ

:エロスに釣られすぎしゃよ

:俺たちはそうじゃないって知ってるけど詐欺かもしれないじゃん

:爆丸の兄貴はシリコン容認派だからいいんだよ


 爆丸の即決ぶりに逆にリスナーから心配の声が聞こえます。


「つまりそれだけの攻略情報が外部から得られるようになったというわけだな」

 いえ、大丈夫でした。ちゃんと知性があっての判断でした。


「チートでしょ」

 と微笑むサキ。

 実はサキはここで曖昧な顔を見せています。。

 なぜならこの攻略情報はメーカーから公式にもたらされたわけではないからです。


 サキは当初からメーカーに攻略情報の提供を求めていましたが、メーカーからは応答はありませんでした。

 あちらにしてみれば、その情報を元に行動したサキたちが命を落としでもしたら責任問題です。

 ただでさえ社会的責任を追求されているメーカーにはそのようなリスクは冒せなかったのです。全プレイヤーがココスタウンで待機している間に主催者が捕まるか、ヘッドギアの細工を安全に解除できるなど、技術的に解決できるのではないか。そんな願望と可能性に縛られ動けずにいたのです。


 ですがとあるリスナーから攻略情報のいくつかが届きました。西の森でのモンスターの徘徊パターン、安全な裏道の入り方、レアアイテムの入手方法、等々。

 検証の結果、その情報が正確であることが判明。明らかに開発メーカーのスタッフからのリーク。サキは引き続きの攻略情報の提供を打診し、そのリスナーから承諾を得られたことが今回の委員会設立宣言に繋がっています。



「くっ、よくも私にこのような屈辱を」

 そこへようやくツタの拘束時間がすぎ、解放されたドラゴニュートのエルミナ。

 落とした武器を構えたところで爆丸に静止されます。


「ありがとう、すばらしいファイトだったぞエルミナ。だが試合は俺たちの負けだ」

「そう、シーズンはまだ始まったばかり。次には勝ちましょう」


 爆丸が呼び出したウィンドウ画面を操作するとステージ中央に文字が浮かびます。


  【コウキ&サキ WIN!】


 文字パネルがくるくると回転するその下で、サキが手を伸ばします。爆丸も同じく無骨な太い手を伸ばします。ステージの上で両者が手を握りました。


 すなわち握手。


 業界においてアイドルが差し出した手を取ることは、そのアイドルへの絶対の忠誠を誓うことを意味します。


 ここに契約がなされました。


 デスゲーム攻略委員会、始動の瞬間です。


 現実世界ではサキたちの決断と爆丸の加入に祝いのコメントとコインが飛び交います。しかしゲーム内では、取り巻くプレイヤーたちは未だ呆然とし、態度を決めかねている様子です。

 撮影を終えたプレイヤーたちもささっとステージを離れていました。


「その話、私もいいだろうか」


 ですがそんな遠巻きにしていたプレイヤーたちの中から、一人の男性が近づいてきました。


「あら」

 ステージ下から顔を向けているのは30代と思われる男性。剣士の初期装備である革防具を着用しています


 それはデスゲーム開始当初に、サキの配信を通して妻と連絡を取ろうとした男性でした。妻とのやり取りの中で現在失職していることや家庭の問題を抱えていることが世間的に暴露されてしまい、社会的に身バレしてしまった不幸な男性です。



:おっ、中本さんじゃん

:すでに身バレしてんなら怖いもんねえよな

:元とは言え大手企業のエリートだろこいつは期待できる  



「私もその委員会に入れてほしい。必ず攻略の役に立つはずだ」


 真剣な、というよりも悲壮感さえ漂わせる表情で訴えてくる男性。


 サキとコウキが答えます。


「もちろん」

「ダメよ」

 姉弟の相反する言葉が重なりました。

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