デスです! — フルダイブ型VR・RPGでデスゲームに巻き込まれたので実況配信しちゃいます! なおR18タイトルなのですでに社会的に死亡Death —
第3話 【定期】生存者5千人突破するまで見守る実況
第3話 【定期】生存者5千人突破するまで見守る実況
デスゲーム開始3日目(2029年4月3日18時)
「はーい、さっきーチャンネル定期配信の時間でーす。引き続きデスゲームの会場からお送りしていまーす!」
ココスタウンの中央広場。デスゲームの舞台にはそぐわない気軽な調子でサキがリポートをしています。
「日本ではちょうど18時になる頃ですねー。こちらE・R・Oではお昼の12時を迎えようとしていまーす」
まるで海外から中継中のようなサキのセリフ。実はE・R・Oの世界では時間のカウントが現実の2倍速で進みます。つまりE・R・Oの1分が現実の30秒に相当します。
E・R・Oの2日分で現実の1日ということ。ですからサービス開始3日目の今は、E・R・O世界では6日目。そして現実では日が暮れようという18時は、E・R・O世界では正午の12時となります。
これは一日の変化を短いプレイ時間でも味わってもらうため。また本来ならプレイヤー数が多くなっていた現実の18時~21時に活動しやすいお昼帯を当てようという仕様です。それ以降にダイブするプレイヤーは常に夜間帯に当たりますが、どうせそんな時間に遊ぶプレイヤーは次に日が登るまで続けるタイプなので問題ありません。
※ただし舞台となる惑星の公転周回軌道は地球と同じものとします。
「さあ、今日も主催者は姿を現すのでしょうか。あっ、空にヒビ割れが入りました! 今日も出現するようです!」
ちょっと海外の天体ショーの中継っぽさを意識しながらのサキのリポート。
初日に偉ぶって出てきたデスゲーム主催者の久地沢ですが、実は二日目(地球時間で)にも出現して現状報告やら煽りや意味深なポエムを口にして消えていました。多少出現時の演出は違いますが、同じ時間の登場であったため、また続くのではないかと予想されていました。
サキの読みでは、彼女が外の情報をE・R・O内部に伝えているため主催者は自分の方が情報格差で上なのだと、プレイヤーたちを脅かすのは己であることを忘れるなというアピールをしているということです。さも、最初からそういう予定でしたが? みたいな態度で。
「器ちっさw」とサキは裏で容赦なく笑いものにしています。美少女の心からの
自分が命拾いしていることを知らずに、主催者は今日もパリッとしたスーツ姿で現れ、格好にそぐわぬ病的な表情で語りだします。
「さて、プレイヤー諸君、久地沢だ。現在の我が計画の進捗状況を伝えよう。この時点での生存者は4989人。ほぼ5千人といっていいだろう。だが残念ながら現在タウンの外に出て活動しているのはその内わずか数%。
これは私の計画が甘かったことを認めざるを得ないな。世界さえ用意すれば人は覚醒へと歩むものと期待していたのだが、
ああ……もしも私が逮捕されることを期待しているのなら否定しておこう。私が捕まるなどあり得ないし、計画はそんなことで止まりはしない。なぜなら実りは常に春を…………」
主催者のポエムを流してサキがつぶやきました。
「また生存者増えてるし」
主催者が告げたなぜか初日よりも増えている生存者数。これはデスゲーム開始後もE・R・Oにダイブしてきたプレイヤーがいるということです。
実は4月1日の18時前まではログアウトは可能であり、プレイヤー登録をしながらも死の罠から逃れた者がいたのです。
夜勤に行く時間になった、デリバリーした牛丼が届いた、ゲームは一日一時間と決まってるから等の理由でログアウトしていた幸運な者たちが。その数およそ110名。
主催者の手によって新規登録はできなくなっていますが、デスゲーム開始前に登録した彼らのプレイヤーアカウントは有効となっており、今になっても参加は可能でした。
とはいえ普通に考えればわざわざ命を危険にさらす者はいないはずなのですが……
:なんで日に日に生存者が増えてるんですか?
:夜勤明けとかでニュース知らずに再ダイブしたのが5人くらいいる
:[↹]日本は平和だからね、命のリアルを知るためにゲームの中に入ったのさ
:登録済みのアカウントがカリオクに出てる
:【警告】カリオクの初期アカは全部詐欺ですよ
;だめだ奇跡のチーズ乗せキムチ牛丼がどこの店も売り切れてるw
:牛丼屋の超効率提供とベテラン運搬員のコラボが生み出したわずか1分差での奇跡
:誰がエロゲで真面目にデスゲーム攻略目指すと思ってんだよ
:現実ですでに社会的に死亡してるかんな
:昨日の主催者が人数読み上げて「えっ!?」って二度見してたのが草
:そもそも主催の人は閉じるの忘れてただけだと思うんだよね
:例の炎上系VerSpecerが落札したのは本物だったぞ
:ダイブは出来たけどΦラインのメーカー認証ないから実況中断したけどな
:主催者が認証してくれると思ってたのか?
:ものほんのバカだったんだな
:ブラックアウトした実況動画が墓碑銘まつりになってるhttps://www.versp …
:これからはGACE社に養ってもらうって言い残してダイブしたニートだけは評価したい
:危険性理解して入ったやつもGACE社に保障義務はあるのか?
:人生かけた計画にバカが群がってきて主催者さんが可哀想……
恐ろしいことに増加した分の殆どは危険性を理解したうえでの参加者でした。恐ろしいことに。
さて、主催者の語りが続く中、ココスタウンにいるプレイヤーたちは苦々しい表情で主催者を見上げるだけ。
そんな中でコウキが一人声をあげて彼を糾弾します。
「許さねえぞ久地沢! 俺はお前を倒して必ずこの呪いを解いてみせる!」
その頭部には可愛らしいひよこの形のヘルメット。
主催者の手によって防御力と引き換えにE・R・Oにあふれるエロスをフィルタリングされてしまったコウキ。
そんな彼の怒りと悲しみは一晩で癒えることはなく、むしろお預けを食らった数だけさらに増していました。
「待ってろよー!」
はるか上空の元凶に向けて叫ぶのは無理からぬところです。
「あんた……」
怒りのままに吠える弟を、サキがばっかでーという顔を向けます。
:さっきー許してあげて
:男の子はしょうがないんや
:一線を越えた主催者が悪いんだ
:男にはゲームクリアより先に取り戻さねばならないものがある
果たして彼の声が聞こえたのか、主催者はちらっとコウキたちを見下ろすと不快そうに表情を歪めます。
「おーおー、バッチリ意識してくれてんじゃん」
サキも不敵な顔で睨みつけます。
さらには銃の形にした指をピッと突きつけ、きらめきのアイドルフレーズをお届け。
「この想い、あなたに届いて
「ふんっ」
そうして視線を交わすのもわずか。主催者は消えていきました。
:[↹]マウント勝負はキミの勝利だよサキ【Silver-coin×4】
:さっきーは前のFPS配信からアイドルセンテンスが歪んでるとこある
:たしかに星は撃墜マークだけどさ……
:アイドルポエムを煽りに使わないで!
「さーて、それじゃあ皆、私たちはこれからフィールド調査に行くから、カメラは一旦スタジオにお返し。またすぐ再開するから、チャンネルはこのままでヨロシク!」
主催者が退場すれば、反転してカメラ目線でリスナーに向けてビシッとポーズをとるサキ。
VRゲーム専用の配信ツールである
サキのレンズの片隅にはその画面が表示されています。自分たちの可愛さとカッコよさをいかに映えさせるかを常に意識しています。アイドルとして研鑽を怠らないサキです。
そしてサキは装備を変更します。リスナーの要望で付けていたネコミミ型カチューシャを、魔法攻撃力アップ効果のある小オーブの頭飾りに交換。衣装も町娘のミニスカワンピースから各種効果付き魔道士服へ。耐魔法のローブもまといます。
「あんまガチ装備するとレベル上げて攻略する気なのバレるんじゃない?」
「まーねー、流れだと今の時点で警察勧告に反対するのはまずいんだけど。まあコウキの格好でネタ動画ってことで通るでしょ。ほれほれ」
姉に促され、コウキもストレージから各種アイテムを取り出し、組み合わせ、装備します。元々のスタイリッシュな冒険者服に補助装備と巨大なオプションを付けて。
そして二人は広場を後にしました。
さて、姉弟が去ると物陰に隠れていた数人が広場に集まってきます。
「あっぶねえな。あの娘の配信に巻き込まれると身バレするとかほんと勘弁してほしいわ」
「デスゲームで死ぬならまだしも社会的に死にたくねえよ」
「中本さんの二の舞いはごめんだぜ」
こわごわとした様子でそうこぼす男たち。
このデスゲームではまだ肉体的に死亡した者はおらず、むしろ生存者の人数は増加しているわけですが、現実世界への身バレで社会的に死亡した者がいます。
一人はコウキ。まあ実際には彼は未成年ということもあって、むしろしょうがねえよなと温かい目で応援されていたりするのですが。
しかし他にもう一人成人男性で名前と顔が広まってしまった者がいるのです。
主催者によるデスゲームが宣言されてすぐ、唯一外部との連絡経路を持っているサキは情報収集に務めました。
ほどなくしてメーカーがE・R・Oにおけるあらゆる管理権限が奪われたこと、ヘッドギアに施された細工が本当に自分たちの肉体を破壊できることが判明しました。
サキはすぐさま周囲のプレイヤーたちにデスゲームが本物であることを訴えます。その頃はログアウトができなくなっていることは理解しながらも死亡ペナルティを信じない者が多くいたのです。
何の準備もせずに街の外に出ようとする者。むしろ試しにHPを0にしてみれば分かると言い出すプレイヤーもいました。
慌てたサキは自分が配信中であり、外部との連絡ができることを明かします。その時点ではまだ公共機関とは繋がりがありませんでしたが、これを使って信用できる現実世界の人間とコンタクトするようにと呼びかけました。
それに一人の男性が応えます。
30代半ばのサラリーマンだという彼は妻を呼び出します。しかし都合よくコンタクトは出来ず、その間に余計なからかいを入れてくるリスナーと口論になったりとぐだぐだとしている内に、男の顔と名前だけがネットに広まっていきます。
やがて妻との連絡は取れ、デスゲームが真実であったことは判明します。しかし妻が告げるのはそれだけではありませんでした。男が務めていた大手企業を派閥争いに敗れたことで一月前に退職していたこと、今まで長期出張と称して安ホテルでゲームで遊んで過ごしていたこと、それを知ったと。チャンネルを見ていた男のかつての同僚たちから妻に連絡がいき、その過程で夫の隠し事まで明らかになったのだと。
混乱していた妻と冷静さを失っていた男。荒くなるやり取りは売り言葉に買い言葉で男の過去のキャバクラ通いや子供のおゆうぎ会をすっぽかしたこと、余計な情報まで世間に広めてしまう結果になってしまったのです。
「あれはホント、哀れだったぜ」
狼狽した男が走り去るまで。その一部始終を見ていた彼らは己は絶対に身バレなどされるものかと警戒していたのです。大人しくここで目立たずに救助を待っていようと、タウン内でサキを避けつつ待機していたのです。
「まあアイツらがゲームクリア目指してくれる分にはいいんだけどさ」
「いや無理だろ」
彼らが顔を向ける先には、広場を後に道を進むコウキの姿。ですが彼は積み重ねた馬車の車輪と自分とをロープで繋げて引っ張っています。その車輪の上にはサキが器用に座っています。
「おらいけコウキー!」
魔法の杖を振り回して弟を鼓舞するサキ。
熱血スポーツ漫画でよく見る筋力トレーニングの構図です。
「………………ダメだなありゃ」
「ああ、ゲームの中で筋トレとかまったく意味ねえよ」
「アイドルだぜ。結局やってるフリなんだよ」
彼らは肩を落とし顔を見合わせ、俺たち戻れるのかなあとため息をつきました。
背後でそんなことをつぶやかれていることを知らず、サキとコウキは進みます。乗っかっているだけの気楽なポジションのサキは浮かれた様子で弟に声をかけています。
「やっぱさ、最初に仲間にすんなら音楽家だと思うのよ」
「えっ、何で? いや、分かるからいいや」
流れていたリスナーのコメントに反応でもしたのか、ふいのサキのつぶやき。コウキは突っ込めばサキがドヤ顔で言いそうなことが分かったのでさらっと流すことにしました。
「仲間は何人考えてんの? 初日のあの中本って人は確定って言ってたけど、トータルでは。やっぱ10人?」
「10人は少なすぎでしょ。アイドルって
5千人、つまりは現在E・R・Oにいるプレイヤー全員を仲間にするというサキの言葉。
「お姉は本気なんだよなあ……」
サキの混じり気なしの本心からの言葉に、その果てに自分に待ち受けている苦労を想像し、コウキは身体にかかる姉の重みがぐっと増したのを感じたのでした。
◇◇デスです! 攻略wiki◇◇
【投げコイン】
世界最大の動画配信サイトVerSpecsではリスナーが動画配信者に金銭を送ることができます。
但しクレジットカードによる決済ではなく、VerSpecs社が発行する独自通貨であるカラーコインを購入し、そのコインを配信者に送る形式になります。これを投げコインと呼びます。
コインには基本的には
そこから3割が手数料として引かれた金額が配信者に入ります。
【Gold-coin】1枚と【Silver-coin】10枚は配信者が手にするのは同額になりますが、【Gold-coin】は購入時に多少の割引が入ることと、【Gold-coin】の取得枚数がVerSpecsのチャンネルランキングの加算要因になっています。
またコインはVerSpecs社が提供するドラマやアニメの購入にも使えますが、【Bronze-coin】だけは投げコインに限定されます。そのほかにもプレミアム会員に定期的に配布されたり、リスナーが指定の動画を視聴するなどで無料配布され、投げコイン文化の促進のためのプロモーション用の位置付となっています。
そしてE・R・Oは買い切り型のゲームですが、随所でリアルマナーを投入することで攻略が有利に進むようにデザインされています。
つまりサキのデスゲーム攻略は、このコインをいかに大量に集めるかが鍵となっていると言えるでしょう。
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