兄弟
尾八原ジュージ
兄弟
おれ兄弟ってよくわからなくて、という彼には、とにかく「兄弟」と呼ぶ何かがいるらしい。それは一見普通の少年のようだが、よく見ると左右の手が逆についていたり性器がなかったりして、まるで人間のパーツで作ったできそこないの人形みたいなのだという。
幼い頃から両親にそれを「おまえの兄弟だよ」と言われて育った彼は、それでも世間を知るにつれ「おかしい」と思うことが増えた。ところが、疑問めいたこと――たとえば「兄弟っておれの兄なの? それとも弟なの?」などということを少しでも口にすれば、両親から殴られたり蹴られたり、「兄弟になんてことを言うんだ」と何時間にもわたって説教を受けたりする。とにかく何か疑問を持つこと自体がタブーだったのではないかと彼はいう。高校時代、死にものぐるいでアルバイトをして金を貯めた彼は、卒業と同時に遠方に引っ越して就職、以来一度も実家には戻らず、連絡すらとっていなかった。
「それが去年、家が火事で焼けて、おやじもおふくろも死んじゃったんだよね」
静かにそう語る彼の自宅は、一人暮らしにしては少し広い。背後には押入れらしき襖があり、先程から彼がきょうだいと発音するたびにガタガタと揺れる。こちらが気にしているのに気づいたのだろう、彼は小さく笑うと、思いがけず優しい声で「やっぱり兄弟だからさ」と呟いた。
兄弟 尾八原ジュージ @zi-yon
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