第30話 下層侵入
レオを追うように俺たちも下層へと急いだ。
「飛び降りるか」
「……はい? 死にますよ?」
「大丈夫だから。ほらつかまって」
怯えるユキナを抱え、ためらいもなく虚空へと足を踏み出す。足場を失った身体は何の抵抗もなく重力に従って落ちていく。
高層ビルの屋上から飛び降りているのかと錯覚するほどの時間の後ようやく底が感知できた。
パラシュートを開くように重力を『反転』しゆっくりと下層に降り立った。
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
「さすがに死ぬかと思いました……」
よろよろとユキナは俺の腕から降りうずくまる。
「速すぎてカメラが追いつかないことってあるんですね……」
彼女が見上げた方向からは必死にプロペラをうならせてカメラが飛んでくる。レオに襲われてすっかり忘れてたけどこれ配信中だったわ。真っ暗な画面を見させられてさぞかしコメント欄は怒ってんだろうな。
ユキナに手を差し伸べて立ち上がらせ、二人で恐る恐るコメントを確認した。
『ここ飛び降りるの!?』
『オイオイオイ。死んだわアイツ』
『自殺!? ユキナちゃん死なないで!!』
『カメラ早く追えよ!!』
『暗っ!! アビスってこんななの!?』
『入った人間が少ないからライトを取り付けられてないんだろ』
『ナイトモードでも何も見えねえw』
『早く降りろって!! 死んでるかもしれないだろ!!』
『ユキナちゃんが死んでたら一生あいつを恨むわ』
『いや、俺たちも一緒に成仏しようぜ』
『巻き込んでくんなよw』
『いた!! 無事だ!!』
『よかったー』
『逆になんで無傷なのか知りたいんだけど』
『それなw 人間じゃねえwww』
まあどうやっては気になるよな。
「まず、突拍子もない行動に出たのはごめんなさい。配信をすっかり忘れてました。それとどうやって着地したのかですが、着地寸前で重力を『反転』し勢いを殺して安全に着地しました。案外深かったのでちょっと早めに発動させてたのでユキナも私もケガはないですよ」
『もはやチートだろwww』
『それを早く言ってくれ』
『何でもありだな』
まあ自分でも何でもありだなとは思ってるよ。見た目の性別変えれるくらいだし。
呆れの混じったコメント欄を従わせて俺たちは足を進める。下層は上層、中層とは違い縦穴に沿って道があるわけではなく、いわゆる古びた遺跡のような迷宮を歩く典型的なダンジョンだ。
ここからは魔物だけじゃなく罠にも気を付けた方がいいな。
父親の報告書でもここから先の情報はほとんどない。この下層の探索中に失踪したんだから情報がないことは当然だ。
「ここからは気を引き締めていこう」
「覚悟はできてます」
2人身を寄せ合うようにして慎重に進んでいく。
もちろん周囲のスキャンは欠かさない。じわじわと疲労が脳にたまっていくが想定外の魔物や罠に出会うよりはマシだろう。
このくらいの疲労度だったら戦闘にも問題はない。
「でかい空間があるな」
俺たちの前方、数十メートルに小部屋のような空間が広がっていた。面積的には他のダンジョンのボス部屋より二回りほど小さいが、部屋の天井がビルの4回くらいの高さにあり体積的にはボス部屋と変わらない。
面積よりも高さがある部屋であるとすれば……
「やっぱりな」
ガサガサと騒がしい足音を立てながら部屋に侵入した俺たちを迎えるように降りてきた魔物が1匹。
「ドラゴンメイルスパイダーか」
複眼を守るようにドラゴンの頭蓋骨を被り、身体から足先まで着飾るように肋骨や骨盤などで武装している蜘蛛型の魔物。報告書によれば自分が仕留めたドラゴンの骨を集め武装しているというから驚きである。普段のダンジョンのボスよりも何倍も強い魔物であることは明白。
こいつ蜘蛛のくせにドラゴンブレス効かないのは意味が分からん。変温動物だろ。
「私も戦いますからね!!」
スッとユキナの前に行こうとした身体が止まる。
無意識のうちに守ろうとしてる自分が恥ずかしくなってくる。ユキナだって実力のある探索者だ。俺が守るような子じゃない。
「二人で倒そう。いくよ!!」
クラスメイトの配信者を救って大バズりしたバ美肉高校生探索者、うっかり身バレして炎上したら性癖歪ませたファンが大量発生してしまいました 紙村 滝 @Taki_kamimura7
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