第27話 『アビス』攻略①
「いよいよですね」
配信用の茶髪のウィッグを被った雪菜が『転生』を発動させフェンリルに変身する。
余裕そうに座り込んでくつろいでいるが、その背中の毛が逆立っているように見える。
そういう俺も『反転』発動し女体化した自分の体の具合を確かめていた。
週末、学校からの依頼もとりつけ準備も完了させた俺らは『アビス』の入り口で装備の最終確認を行っていた。
『聞こえるか?』
「ああ。通信は良好だ」
『よかった。『ポップソナー』の使い方はわかるな?』
「大丈夫だ。50メートルごとに壁に着けるだけだろう」
柊から預かった設置型『ポップソナー』端末は意外にもボール型だった。
ダンジョンの壁に近づけると吸盤の要領でくっつき、俺たちのパラメータを観測するだけでなく地上から電波を届けてくれるらしい。なんとも便利なスキルを持った友人がいるものだ。
正直すごい助かる。
『オーケーだ。生半可な攻撃だったら壊れないけど一応安全な場所に設置してくれよ』
「岩裏とかに隠しましょうか」
端末を転がしていた雪菜は立ち上がり、端末をしまう。
俺も持ち物を確認し、入り口からダンジョンを覗き込んだ。
『アビス』は地元のダンジョンと同じように大きな縦穴を沿うように道が続いている。
本来このダンジョンは未開拓であり、父親の失踪などから危険性が高いと予測されており、一般人は立ち入りが禁止されている。
誰もいないダンジョンからは時折、こちらを威嚇するような鋭い雄叫びが縦穴の奥底から響いてくる。
深淵からも覗かれているのだ。
「気を引き締めていこう。大丈夫。俺たちなら死なないさ」
「ええ。リツカ姉さまがいるなら百人力ですから!!」
『サポートは任せろ。期待してるぜ』
ユキナの前足と軽く拳を突き合わせ、俺たちは『アビス』へと足を踏み入れた。
俺たちの身体が完全に『アビス』内部に入った瞬間、入り口が閉じた。
『入り口が閉じたな。聞こえるか?』
「大丈夫。聞こえる」
『オーケイ。じゃあ試しに1つ設置してみてくれ』
『ポップソナー』を一つ取り出し壁に近づけるとスポン、と子気味良い音を立ててくっついた。
「つけたぞ」
『よしじゃあそっちで配信付けられるか?』
「ユキナいける?」
「電波届いてます! いまオープニング流れてますね」
誇らしげに見せつけられた彼女のスマホの画面ではデフォルメされた彼女のイラストが動くオープニングが激流となっているコメント欄と共に流れていた。
「こんにちはー! 今日はリツカ姉さまとあの『アビス』に来てまーす!! ちゃんと許可をもらっているのでその辺は心配しないで!! この配信が生存報告の代わりだからみんなしっかり最後まで見ててね!!」
明るいいつもの雰囲気でしっかり視聴者に注意喚起と説明を行うユキナを横目に俺も配信をつける。
「今日はユキナと『アビス』に来てます。許可関係だったり、注意は概要欄に書いてあるので必ず読んでください」
おのおの挨拶を終え、カメラを追尾させながら慎重にダンジョンを下っていった。
ダンジョンだというのに魔物が出現するどころか、その気配すらしない。
父親の報告書では下層でもそれなりに魔物と戦った記述があった。ダンジョンの生態系が変わったか、何者かに変えられたか。
その時ふと視界に奇妙なものが入った。
壁から生えている触手の先端に中央がアーモンド上にくぼんだ球体がぶら下がっている。
他のダンジョンでも、父親の報告書でも見たことのない代物だ。
「何でしょうか?」
「魔力でできているけど魔物じゃないな」
「その通りダ。橘ァァ……」
「誰ッ!?」
地面が盛り上がり現れたのは人型の何か。
二足歩行ではある者のその背中は老人のように曲がり、手足にはドラゴンの鉤爪が窮屈そうに伸びている。
全身から漂うまがまがしい魔力といい、人間を軽々と捨てたような容姿と言いまさに悪魔。
ただその顔には見覚えがあるどころか鮮明に記憶に残っている。
「……レオ、だな」
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