第24話 第2実験
「調子はどうだバカ息子」
「早く『アビス』に行かせろクソ親父」
ダンジョンから出るとすぐに俺は何者かに捕らえられまたあの無機質な研究所で装置につながれてしまっていた。
目の前に映し出されているモニターには心電図と共にわけのわからない折れ線グラフが不規則に山脈を描いている。
何か検査されているのは確かだが体感では今のところ改造されてから調子が悪くなった箇所は見当たらない。
むしろ、内側からふつふつと湧いてくる魔力を放出したくてたまらないのだ。戦いたい。早くこのストレスを発散したい。
ここ数日の俺の頭の片隅は戦闘に対する欲で支配されていた。
「魔力波もバイタル値も予測通りか……つまらんな」
「ざまあみろ」
「ふん。それだけ俺の実験が成功しているということだ」
言葉とは裏腹に眉間にしわを寄せ親父はパネルを操作し、ロボットアームで繋がれた器具ごと俺を棺型の装置に入れた。
「まだ改造すんのかよ? 早く出して『アビス』に行かせろよ」
「黙れバカ息子。誰が実験が1段階で終わるといった? お前に施したのはまだ全体の50%にも到達していない。これからが本番だ。逃げるなよ」
人間離れした魔力量に、ダンジョン内で魔物を召喚できるスキルの二つを獲得してもまだ全体の半分にも満たない。
それはつまりまだ強く、六花なんて足元にも及ばないほどの力をこの俺が授かるということ。
新たな力を想像するだけで溢れんばかりの魔力が腹の底から湧き上がってくるのを感じた。
「やるならさっさとやってくれ」
「焦るな。今からは前回注入できなかったダンジョンコアの残りの魔力を注入する。今回は痛みなんかが出るかもしれないがあきらめろ」
「だから説明は良いからさっさとやれよ」
「チッ……始めるぞ」
棺が閉じ、目の前が暗闇に包まれる。
パソコンが起動したときのような鈍い音が響いたかと思うと、四肢をロボットアームで固定させられ注射針が差し込まれる。
「っぐ……」
得体のしれない魔力が流れ込むたび俺の口からは苦悶の呻きが漏れる。
前回とは違う。明確に全身の血管を異物が駆け巡っているのがわかる。
『魔力注入完了。コフィン内経過観察態勢に移行します』
アナウンスが流れると、刺されていた針が抜かれ棺の中が明るくなる。
「終わった……のか?」
棺の蓋は開かれない。
「おい! 終わってんなら出せよ! バグってんのか!?」
『経過観察だというアナウンスがあっただろう。ちゃんと聞け』
「クソ……身体もだるいしこのままおとなしくしてやるよ」
経過観察といってもどうせ何もないだろうと身体の力を抜き目をつむった。
しかし、それは突然現れた。
「いってえええ!?!? ちょっ、なんだよこれ!?」
身体の内から食われていくような痛みが全身を駆け巡ったのだ。
血管の周囲の細胞から蝕まれ、俺じゃない何かに変わっていく感覚と痛みで悶絶する。
『お前の身体が魔力に適応しようとしているだけだ。あきらめて耐えていろ』
「俺用にチューニングしてあるんじゃなかったのかよ!!」
『チューニングにも限界はある。100%波長を合わせるなど不可能だ』
血管が、細胞が魔力の侵略に悲鳴を上げている。
だが、それと対照的に腹の底では魔力がまるで同志が見つかったかのように渦巻いていた。
「くそがああああ!!!」
叫び以降、俺の記憶は吹き飛んだ。
☆
「実験は終了した。さっさとコフィンから出ろ」
「気ぃ失ってたのわかるだろ!! そんなすぐに動けるかぁ!!」
地獄のような経過観察が終わり、目を覚ますと棺に入った時と何も変わらない顔で親父が覗き込んできた。
ロボットアームで強制的に棺から出されると、長い間横になっていたからか足腰が立たなくて座り込んでしまった。
「副作用は今のところは見られないな。まあ何かあったら報告しろ。研究対象だ」
「くそっ、わかったよ。じゃあな」
吐き捨てるように別れを告げ俺は研究所を飛び出した。
「帰り際にでもこの力、誰かにぶつけるか……」
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