第22話 書庫探索
翌日、いつもの踊り場にて。
「さて、お前たちはどうやって『アビス』を攻略するつもりだ?」
「1度父親のレポートを探してみる。1回目の探索の情報があると思う」
父親は失踪するまで何回もアビスを探索している。大学をパトロンとして探索を行っていたはずだから報告書は書いているはず。
それに父親の持ち物は整理していないはずだ。家のどこかには報告書があるだろう。
「俺もバイト先で情報探してみるけどあんま期待すんなよ?」
顔をくしゃっと歪め、頭の後ろをかく。
「いや、助かる」
「私は……リスナーに聞いてみようかな?」
「俺も早速探してみるか」
「手伝いますよ?」
「うちの家だけど大丈夫?」
「……え?」
スマホを取り出した雪菜が固まる。
どうやら彼女は報告書が電子化されていると思ったらしい。
まあ、このインターネット時代において紙で保存しているのは時代遅れだと思うだろう。
だが紙での保存はアビスの情報がネットの海で保存できないほど重要機密だということでもある。
「やっぱお前んちヤバいよ。なんでそんな文書抱えて平然としてんのさ」
そんな文書が家にある状況にはもはや慣れたからな。
「さすがに書庫に保管してるから防犯はしてるよ」
「あ、あの……」
おずおずと雪菜が話し出す。
身長差による自然発生の上目遣いでも少し体に緊張が走ってしまった。
「家でも大丈夫ですよ?」
「……え?」
正直一人で探すんものだと思ってたって。
☆
「これが書庫ですか……天井まで本棚が伸びてる……」
ほえー、と口を開けて雪菜は書庫全体を見渡すように首を回していた。
書庫といってもしがない探索者が買える程度の一軒家の地下室だ。天井まで本棚が伸びていたとしても床面積は少ないから報告書を探すくらい余裕だろう。
「ここは父親の資料だったり報告書だったりの保管庫だからあんまり入ったことないんだよな」
「どこにあるかわからないってこと?」
「大体の位置くらいしかわからないな……」
物置から脚立を取り出し書庫の最奥、父親が書斎代わりにしていたスペースの棚を漁り始める。
「魔物のスケッチに魔力グラフ……さすが伝説の探索者……」
「好奇心の塊みたいな人で研究熱心な結果が失踪だけどな」
探索のあまり失踪して俺と母親が困窮する羽目になったのは恨んでいる節はある。
けど、父親が残した情報のおかげで俺がダンジョンに探索に出て安全に稼いで親孝行ができている事実もある。
なんとも複雑でまだ整理はついてない。
だからこそ「父親」の呼び名なのである。
「やっぱり思うところはありますよね……でも彼の遺した功績は大きいです。ダンジョンがこんなにも身近な存在になって私たちが配信をしながら探索できるのも彼のおかげです」
資料の埃を払いながらしみじみとつぶやく。
「やっぱり、私たち探索者にとって彼はあこがれの対象なんですよ」
「あの実績ならそうだろうな」
だからこそ、俺へのプレッシャーが尋常じゃない。
「私がこうやって配信でお金を稼げるのも彼のおかげなんですよね。六花くん。ここパスワード必要なんだけど開けれる?」
「たぶんいける。その代わり上見てくれない?」
「わかった。けど、下からのぞかないでよ」
「大丈夫だって」
雪菜が持っていた金庫を受け取りダイヤルに手をかける。
一般的な数字のダイヤルだ。
どうせ誕生日だろ、と安易に入力すると案の定取っ手が回った。
中には数枚の写真のみ。
家族の写真かもと思ったけどどれも魔物の画像だった。
しかしどの魔物も見覚えがない。アビスの魔物だろうか。
「こっち報告書じゃないけど手掛かりあった」
「こっちも調査ファイルがありました! ほら! って落ちっ……!!」
こちらを振り向いた雪菜の身体がファイルの重みでぐらりと傾いた。
脚立からどんどん彼女の身体が遠ざかる。
「アブなっ!!」
落下地点に身体を差し込み、重力を『反転』させ抱きとめる。
わずか数十センチの距離にある彼女の黒く宝石のように澄んだ瞳と目が合った。
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