第21話 改造の成果【レオ視点】
配信開始ボタンを無造作に押す。
『炎上したのによく配信すんな』
『帰れ! ユキナちゃんに謝れ!』
『リツカお姉さまにも謝って! あんないい人が男なわけないでしょ?』
『イキり陽キャが。出しゃばってくんじゃねえよ』
「うるさい」
コメントが煩わしい。文字なのに耳から不快感が広がっていく感覚に身を震わせた。
改造が終了し研究所から解放された翌日、自然と俺の脚はダンジョンに向いていた。
この力を試したい。圧倒的な力を使いたい。何ができるのか知りたい。あいつらに、全世界にこの力を知らしめたい。改造のせいかに対する欲求が心の中心で渦巻き身体の隅々までいきわたっている心地がした。
早く、早く敵を、敵生体を蹂躙したい。
はやる気持ちを抑えきれず、俺はダンジョンへ駆けだした。
群がる魔物たちを普段のスキルだけで蹴散らし、殴り倒していく。
下層のモンスターではやりがいがない。もっと強く、もっと硬く、俺のサンドバックになるような奴はこの下にいる。
「早く、早く下に……!!」
魔物も冒険者たちも踏み越え、下層のボス部屋に到達した。
「邪魔だ」
ただでかいだけのホーンラビットキングを殴り倒し、中層へ向かう縦穴へ飛び込む。
『馬鹿だろw』
『そのまま〇ね!!』
『玉ヒュンやめろ!!』
「チッ、配信付けなきゃよかったな」
今こいつらに構っている暇はない。有象無象に構っている暇があるような人間ではなくなったのだ。
縦穴の壁に足を滑らせるようにして降りながら一種の爽快感があった。壁に沿った坂を下っている冒険者たちが、目を見開きながらこちらを見ているのもいい。すべての注目が俺に集まっている。
「邪魔だな。あれ」
中層の底、ボス部屋ではオークキング率いるオーク軍団とみすぼらしい格好のいかにも雑魚な冒険者パーティが乱闘していた。
縦穴から落ちる勢いのまま乱闘の中心へ着地する。
「ゲホッ!! 誰だっ!?」
舞い上がった砂埃の奥から冒険者たちの困惑した声が聞こえる。
煩わしい。人間も、魔物もすべてが気に食わない。
俺には改造の力がある。誰にもない力がある。
対してこいつらはどうだ?
1人では何もできないからとパーティを組み、せっせと働きけなげに魔物を討伐する。
ただの一般人が俺の邪魔をするナ。
「今、俺たちが戦ってんだぞ! 乱入するのはマナー違反でしょ!?」
パーティの女がヒステリックに叫ぶ。
「うるさい」
人間がうるさく騒ぎ立てるのも、俺の道を邪魔するのも、雪菜を奪われたこともすべて橘六花のせいだ。
全て、全てすべてスベテ!!
橘六花。お前が原因だ。
「戦わないなら邪魔だ!! どけぇ!!」
「うる、さい!!」
近づいてきた冒険者の顔を殴りつける。
壁まで吹っ飛んでいったそいつは頭から血を流して動かない。
「ヤバッつ、こいつレオだ! おいどうしてくれんだよ!! リーダーが!!」
「お前も、ダマレ!!!」
地面を蹴り、背負い投げの要領で長髪の男を倒し、馬乗りになる。
「お前何馬乗りにな……グハッ」
「お前も、俺の! 邪魔を! すんのかよ!!」
1度、2度、3度と怒りに身をまかせ男の顔面に拳を打ち付ける。
パーティの奴らが何か叫んでいるがオークの雄叫びとこいつの悲鳴でいまいち何言っているかわからない。
オークもパーティを襲い、俺には見向きもしない。
どれくらい殴っただろうか。気が付くと男は顔を腫らして伸びていた。
「レ、レオ!! 通報したからな!! この人殺し!!」
「ウル、さい!!」
馬乗りになったまま地面に手を突き、魔力を流す。
これが、新しい力だ。
使い方は父親から教わった。
『お前に組み込んだのはダンジョンコア本来の魔力をお前専用にチューニングしたものだ。ダンジョンで使ってみろ。お前が支配者だ。この力で必ず橘六花を抹殺してこい』
床に流した魔力を植物が根を張るように張り巡らしていく。
張り巡らされた魔力は互いにつながりネットを形成していく。
「これか」
ネットの先に何か引っかかったような感触。
これがこのダンジョンのコアだろう。
ダンジョンのコアを包むように俺は魔力を流し続けた。
「ちょっと! 早くケンタから離れて!!」
「お前も俺を邪魔するかァ!!!」
女冒険者に叫び返す。
ネットを引き上げるように魔力をボス部屋にまき散らした。
「あんた何して……きゃあ!?」
女の悲鳴がこだまする。
彼女は背後からブラックハウンドにかみつかれていた。
「オークキング!! てめえも動けぇ!」
叫びに呼応したようにオークキングもわらわらと下っ端たちを出現させていく。
改造の力がこれだ。ダンジョンとリンクしダンジョンを、魔物をすべて支配できる。魔物の規格外のパワー、無尽蔵の魔力ストック。もはや俺に勝てるものはいない。
「待ってろ橘ァ!! 絶対に殺してやる……!!」
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