第17話 協力者か第三者か
「六花くん! おはよう」
「おはよう。早いな」
下層を攻略した次の日、俺たちは何一つ変わらず学校へと足を運んでいた。
「なんか興奮しちゃってて早く目が覚めちゃったんだよね」
雪菜はないごともないかのように俺の隣で歩き始めた。
また面倒な輩に絡まれるかもと辺りに視線を向けるがこの時間帯に登校するような生徒は俺たち以外にはいないようだ。
「……ねえ。本当にいいの?」
「何が?」
「ダンジョン踏破者として名前を残さなかったことだよ。リツカお姉さまのおかげでラスボスもドラゴンも倒せたのにもったいないよ」
「いや、今目立つとまたいろいろ言われそうだからこれでいいんだよ」
そもそも俺の存在とリツカという配信者を乖離させるためにダンジョンを攻略したのだ。そこでユキナの名が配信以外で広まると収拾がつかなくなる。それにこんな俺の問題に付き合ってくれたのだ。そのくらいの礼はするべきだろう。
「俺は俺で十分報酬はもらったから」
「そう? あんなに強いのに……」
もったいない、とつぶやいて雪菜は数歩だけ俺を追い越すとこちらを振り向いた。
「またコラボに誘っていい? リツカお姉さま、ううん六花くんとのコラボ楽しかったんだよね」
朝日を背に太陽にも劣らないまぶしさの笑顔を浮かべている彼女は羽こそ生やしていないが人々を天国へ連れていく天使のようだった。
レオや他の男どもが沼にはまるわけだ。
「えっと……だめ、かな?」
「いやいや、うれしいよ。ただちょっとボーっとしてただけだから」
「そう? ならよかった! また誘うね!」
そうふんわりと前を向いた雪菜の隣に並び立ち足を進めた。
☆
教室のドアを開けると、クラスメイト全員の視線がショットガンのように降り注ぐ。
「雪菜ちゃん見たよ! 下層クリアおめでとう!」
「雪菜ちゃんもあのお姉さんもすごかった! あの人誰?」
「ありがとう。あの人はリツカっていう人だよ」
すぐに雪菜のまわりには人だかりができていた。
何人かは俺が隣にいることに気づいたけど、見て見ぬふりをして雪菜のまわりで群れていた。
無言の圧力を察しそそくさと自分の席へ向かった。
にやにやと人の悪い笑みを浮かべている柊に見られながら席に座る。
「作戦、よかっただろ?」
「なんとかな。ドラゴンが出てきたときマジで死ぬかと思った……」
「よく生き延びたよ。ほんと。普通あんな小さなコアのダンジョンに現れないんだけどなぁ」
のほほんと頭の後ろで手を組んだ柊の頭を掴み引き寄せる。
「なあ今更なんだがなんでお前が『反転』を知ってたんだ?」
「ここで聞いていいのか? 誰かに聞かれてるかもしれねえぞ?」
当たり前だが周りには事情を知らない生徒が多数いる。
「昼、あの階段の踊り場に来いよ」
「へいへい。逃げようとか思ってないから安心しろよ」
柊が人の悪い笑みを絶やすことはなかった。
☆
「それで、話というのは?」
事情を知らない雪菜が小首をかしげる。
彼女の目の前では余裕そうに柊が調子の外れた口笛を吹いていた。
「ただ事実確認がしたいだけだ」
「ではなんでも答えましょう」
柊は大仰に礼をすると腕を組み壁にもたれかかる。
大仰に構える柊を正面から見据える。
「なぜお前が『反転』を知ってるんだ?」
「炎上した奴のステータスを調査するのが俺の仕事なんだよ」
「仕事?」
「そう。なんてったって俺のバイト先はあんたら御用達の配信サイトの運営会社だからな」
柊が言うにはこいつは配信サイトの運営会社のシステム関連の部署でアルバイトとして働いているらしく、今回の炎上も最初期から注視していたらしい。
「んで、お前ら炎上しただろ? うちでは炎上した奴は原因特定のために身辺調査から配信アーカイブの調査までやるんだよ。そこで六花の『反転』を知ったというわけ」
自慢げに胸を張りながら柊はとうとうと説明する。
「だが、どうやって『反転』を突き止めたんだよ?」
「『ポップソナー』を付けたんだよ。お前にな。監視してみたらお前が変身してるとこも戦ってるとこもすべて見えちゃったってわけ」
完全にこいつのことを安心しきっていた。まさかと思ったことが現実で行われてしまっていたのだ。
柊はその後もおちゃらけた様子で話す。
「大丈夫だって。お前が不利になるようなことはしないよ。ほら、『アビス』に行こうとしてるんだろ? また手伝ってやるからさ」
俺は短く諦めのこもったため息をつき手すりに身を預けた。
「今回は配信の手助けはいらない。その代わり、調べてほしいものがある」
「俺の権限の範囲内で頼むぜ」
「レオを調べてくれ。なるべく『アビス』に行く前までに」
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