第15話 歯車が狂ったなら改造すればいい

 コメント欄にて


『二人とも強かったな』

『リツカは男だぞ』

『すご』

『ん?』

『誰だよ。まだ言ってるやつ』

『『変身』じゃねえんだから女だろ』

『いや、男なんだよあいつ』

『だったらさっきの瞬間移動どうやって説明すんだよ』

『それも含めてあいつのスキルなんだろうが』

『いや無理だろ。スキルは一人につき一つだろうが』

『だから一つのスキルなんだよ! 頭かてぇな!!』

『っていうかこいつ誰? 名前も『最強高校生卍』とかくそダサいし』

『ああ? かっこいいだろうが。お前たちもユキナちゃんも騙されてんだよ!』

『ユキナちゃんが嘘言うわけないだろ!』

『おい、こいつ一色レオだぞ!』

『ナイス特定班!!』

『噂の高校生探索者の実態がこれとはねぇ』

『急に黙るなよ』

『おい』


 その日、俺のスマホの通知は鳴りやまなかった。

 バズった動画があったわけでも、急に友人全員から連絡が来たわけでもない。


 かぶっていた布団から這い出し、恐る恐る通知欄を見る。


『おい、逃げんじゃねーよ』

『どう一色君? 君の思い通りにはならなかったねぇ。ざまあ』

『デマ流した罪が重いことぐらい知ってるよな?』


「クソがっ!!」


 スマホを投げ捨て再び布団をかぶる。

 もはや我が家の外に通行人が見えただけでアンチが俺を殺しに来たのではないかとさえ思い始めてしまうほどにまでなってしまった。


 きっかけは明白。リツカとかいうユキナちゃんに這い寄る虫が橘六花だとばらしたら裏垢だったのに特定され炎上した。

 リツカが橘であることは真実なのだ。この目で見たし動画も撮った。


 ただその事実を誰も信じようとしないのだ。

 裏垢がバレた時、登録者30万の配信者の俺の人気なら信じてもらえると期待していたがその当ても外れ、さらにバッシングが強くなっている。


「俺はただユキナちゃんをあの陰キャから守ろうとしただけなんだが!?」


 ベッドで吠えたところで誰にも届かない。

 だが頼みの綱のネットも炎上していてこちらから動くことはできない。


「くそ……全部橘が、あいつのせいで狂ったんだよ!!!」


 橘がユキナちゃんに話しかけられなければ、あいつがユキナちゃんと二人で会わなければ俺がその立ち位置にいたはずなのだ。


「なんで、なんで俺が……あんな陰キャより登録者も人望もある俺が惨めに隠れなきゃいけねぇんだよ!!」


 許さない。すべてあいつに狂わされた。あいつが、橘六花が元凶だ。


「絶対復讐してやる……!!」


 怒涛の勢いで画面上をすべる通知をにらみつけながらつぶやいた。


 ──ピコン。


 アンチの源泉になっている配信サイトのDMとは別のSNSの通知に目が移る。


「メール? 今時スパムですらDMで来るのに誰だよ」


 部屋にタップ音が響く。

 メールを開封するとそこには簡潔に要件が記されていた。


『もし悔しいと思っているのなら彼らの後を追い『アビス』に向かうと言い。最大限の援助はしよう。まあ君がこのままでいいというのなら無理強いはしないがね』


 メールに記されたのはこれだけだった。件名も署名もない。

 うさん臭さはレベルマックスだがURLがないから迷惑メールではなさそうだ。


『誰だお前? なぜあいつらの行動がわかる?』


 すぐに返信が返ってくる。


『失礼な聞き方だが、まあ許そう。お前の父親だ。バカ息子。リツカらが橘秋人の遺物を発見した。ゆえに奴らは『アビス』に行くのだ』

「相変わらず言葉足らずだなクソ親父。ろくに会話もしないくせに今更なんなんだよ」


 普段、ろくに会話しないどころか研究所に籠ってろくに帰ってこないくせに息子のピンチにだけは駆けつけてくる。

 今更父親に用はない。


『馬鹿な息子に不手際の尻拭いをさせに来た』

『お前が指図するなよ』

『このまま腐らせたままでもいいんだぞ』


「クソがっ! どいつもこいつもムカつくことばっかしやがって!!」


 ベッドの上をはねたスマホから新たな通知音が鳴った。


『私の研究所に来るといい。お前に力を与えてやる。その力で全てを手に入れろ』


 このメールの後、返信が返ってくることはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る