第12話 下層ボス戦
オークキングが倒れたのをしかと捉えた瞬間のコメント欄はむしろ止まっているように見えた。
カメラと目が合うと堰を切ったかのように流れ始める。
『おい、このネカマ瞬間移動してないか?』
『嘘だろ……二人で勝っちゃったんだけど……』
『ナイス!!』
『マジでネカマじゃないの?』
『いや、ネカマだろ。女装だ女装』
少しだけだが批判コメントが減ったように思える。
ボス部屋に散らばっているドロップアイテムをちまちま拾いながらコメント欄の流れを観察する。
「今なら質問に答えるわよ。ハラスメントと個人情報以外ならNGなしよ」
『スキルは何?』
「私のスキルは『反転』。物体同士の位置を入れ替えることができるわ」
このようにね、と右手に持った回収バッグと左手に持ったドロップアイテムを『反転』させる。
『たしかに、橘六花のスキルとは違うっぽいな』
『いやでもマジックぽくない?』
『さっきの戦闘見てた? あれをマジックで再現するの無理だろw』
煽り始めたコメント欄に軽くため息をつき、ボス部屋の出口へ向かう。
「ユキナ、準備は良い?」
「はいお姉さま! いつでもいけます!」
いつになくハイテンションなユキナを引き連れてボス部屋を飛び出し、縦穴を下っていった。
下層は中層、上層とは違い、いわゆるダンジョンといった風の洞窟ではない。どのような理屈化はわからないが下層ではダンジョンごとに森林地帯、砂漠地帯、海岸、高山と特徴的なエリアが広がっている。
このダンジョンではうっそうとした森林がひろがっていた。
「下層広いですねー。外にいるみたい」
天井を仰ぎながらしみじみとユキナはつぶやく。ほへー、と口を開けてきょろきょろと辺りを興味津々に眺めている。
天井では遥か頭上で鉱石が淡く青い光を発しており、地上の空とたいして違和感がない。
「見学はここら辺にして、攻略していきましょうか!」
「はい! お供します!」
「じ、自分から動いていいからね……?」
背後にぴったりとついて走るユキナを気にしながら途中で襲い掛かる魔物を狩っていきながら森の中を駆け巡った。
「私、下層の魔物と戦えてる!」
「その調子よ! ただ慢心はしないでね?」
ぽっかりと空いた広場で足を止めた。ボス部屋だ。
続けてたどり着いたユキナが息をのむ音がする。
後ずさる足音も2,3回。
ユキナが怖がるのもそのはず、広場で待ち構えていたのはあのデュラハンだった。
高く積みあがった人間の頭蓋骨を背景に仁王立ちしている。
「大丈夫よ。あの時も勝ったでしょ?」
「は、はい……!」
ユキナは深呼吸すると静かにファイティングポーズをとる。
「お姉さまがいるから頑張れます!」
そう言うとユキナは地面をすべるようにデュラハンに肉迫する。
彼女のフェンリル化した爪とデュラハンの剣がぶつかり合い、砂埃が巻き上がる。
アクロバティックに攻撃を繰り出す彼女を避けるように銃弾を撃ち込んでいく。
だが相手の血に濡れた鎧にはかすり傷程度のダメージしか与えられていない。そもそもデュラハンは有名な伝承にある通り、アンデッドの魔物だ。物理攻撃はダメージが通りにくい。
だからと言って『反転』で性質変化もリスクがある。
「ちょっ、ヤバっ……!」
デュラハンの斬撃を受け止めきれずにユキナは木々をなぎ倒しながら端まで吹き飛ばされてしまった。
せき込みながら立ち上がろうとするが、すぐにまた地面と仲良しになる。
対してデュラハンはほぼ無傷で、エンカウントした時と同じように仁王立ちしている。
「なんとしてでも決着をつけるわよ。ユキナはよく頑張ったわ」
「ごめん……なさい。お姉さま」
彼女を守るように前に出てデュラハンとにらみ合う。
出方をうかがうこと数秒、大きく腕を振りかぶり木片を投げた。
デュラハンが反射的に防御態勢をとる。
木片と『反転』させ、一瞬で肉迫、掲げられた剣をくぐるようにして鎧に触れた。
鎧を『反転』、剣と位置を変えられ浮き上がった鎧に銃を押し当て、発砲した。
『物質反転』
最大出力で放たれた魔力弾が、物理的な鎧を非物理的な魔力に『反転』させながら貫いていく。
「これで終わったかな」
この言葉を口にした瞬間、悪魔を召喚したような、背後に幽霊を察知したかのような悪寒に襲われた。
「──!!」
本能的に転がった俺の髪の先がチリチリに焦げているのが見えた。
「まじかよ……」
思わずらしくない言葉が漏れた俺の目の前に現れたのは、烈火のようなドラゴンだった。
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