第10話 火消し同盟
「どうしようこれ……」
ユキナが震える指でスクロールする画面にはコバエのように湧いてきたユニコーンどものお気持ちコメントで溢れかえっていた。
「配信で弁明するのが一番効果的だろうな。今からリスナーの思考を変えるのは不可能だし、男だと認めるのも火に油を注ぐ結果にしかならないしね」
「ごめんなさい! 私のせいです!」
雪菜が頭を下げる。
「私がお礼が言いたいって言っちゃったから……!」
「いや、謝る必要はないよ。不用心に『反転』した俺も悪いし」
雪菜をなだめながら今後について考えを巡らせた。
弁明するなら火元のユキナの生配信で俺が直接言うのが一番効果的だろう。
だが俺本人から言ったところでリスナーは信じるだろうか?
「わかんねぇ……」
「ゴメン……私も初めて炎上したから……こういうの詳しい人っていないかな?」
これまで炎上なんて無縁だったただの学生だ。迷惑系配信者でもない限り対処法を知っているほうが少ないのだ。
「そこで俺の出番ってわけよ」
「うおっ!? 柊!?」
柊が階段下から音もなく顔を出す。
「情報局でバイトしてる俺が説明しよう!」
「いや、結構です。記憶消すから顎を差し出せ」
「人の親切心は素直に受け取れよ!!」
押し返す俺の手をはねのけながら柊が自慢げに胸を張る。
「ふうん、炎上は真実だったかあ。立花が優等生とねぇ」
「言いたいことはそれだけか?」
「待て待て待て! 殴るな! 真面目に言うから待てって!」
後ろを振り向き誰もいないことを確認すると、人差し指をたてて語り始めた。
「炎上を鎮火させるなら立花、お前の行動が重要になる」
「だろうな」
そもそも炎上の原因は俺だ。ここで俺が隠れて雪菜が弁明でもしたらさらに燃える結果しか来ないだろう。
「立花、もう一度優等生のチャンネルに出ろ。もちろんダンジョン配信にな」
「そこで弁明しろってことかよ。そのくらい俺でも思いついてる」
「違う。あんたら二人で下層を攻略するんだよ」
「それはなぜなのでしょうか?」
ちょこんと小首をかしげた雪菜に柊はミュージカル俳優のように指を振る。
「簡単なことさ。立花のスキルが『変身』じゃないことを見せればいいのさ」
「それはそうだな。戦闘で俺のスキルを見せ、戦闘風景で一度も変身せず、かつ火力を出して魔物を狩れば必然的に俺のスキルは火力スキルだと思われる。だが一つ疑問がある。お前なぜ俺のスキルが『変身』でないと知っている?」
「そ、それはほら……授業の時、変身なんてしてないだろ?」
そう言う柊の目が一瞬泳いだのを見逃さなかった。
『授業でいつも見ているから』と答えるのは予想していた。だがなぜ至極当然なことを答えるだけで目が泳いだ?
「ほら俺の役目はこれで終わったから。鎮火するかはお前たちにかかってるんだからな!」
そう早口でまくし立てて柊は階段を駆け下りていった。
取り残された俺たちはぽかんとして顔を見合わせる。
気まずい間の後、雪菜がぎこちない笑みを浮かべた。
「とりあえず、今週の日曜、コラボしませんか?」
「お願いできるかな。下層まで行くことになるけど大丈夫?」
雪菜が配信で攻略しているのは中層までだ。下層に行く実力はありそうだが初めてというものがいつ牙をむいてくるかわからない。
だが中層攻略ってなると雪菜が慣れているのもあり戦闘が一瞬で終わってしまってスキルを十分に見せられない可能性が高い。
ただ俺のそんな懸念は杞憂で終わりそうだ。
雪菜はむんと鼻息を荒くして言う。
「大丈夫ですよ。なんてったって立花くん、いえリツカお姉様がついてくれるんですもんね!」
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