第63話 山登り

「…はぁ!と、登山って!やっぱり過酷!そ…そろそろ…息以外も………はぁ……上がって来たわ!!」

「お前のやる気か?」

「それはもうとっくにゼロよ!上がって来てるのは『音を上げる』方!!」

「おう、まだまだ活きが良いな!大丈夫だ!」

 

 どこが!大丈夫だと!言うの?!


 この山は、絶対に初心者が脚を踏み入れてはならない山だわ!少なくとも、登山ガイドも無しに登るなんて無謀だったのよ!


 ああ……バンディエルの軽口に乗って気軽に登るんじゃなかった!私のばか!


 装備より何より足りなかった物、それは私の体力と気力と登山に対する知識!要は、登山ルックだけバチッと決めて、すぐ疲れて使えなくなるダメなヤツの見本!それが今の私よ!


 しかもルート選択を間違ってる気がしてならないわ!登りやすい吉田ルート(富士山初心者ルート)から登山をしようと思ってたら、うっかり吉田口ルート(古来の富士山ルート)に入ってしまった気がする!


「……だめ!この先登った事で得られるご褒美が欲しい!」

「テメェ自身が必要だから進んでんのに、何でご褒美が出るんだよ?」

「いい……?バンディエル。たまには『自分を甘やかす』事も必要なの!私、結構頑張ってるわ!」

「そうですか?」

「急に敬語は止めて!」


 ガラガラと崩れやすい足場の岩。その度に足を取られ、歩みが止まる。それを何度も繰り返してる。


 切り立った場所は無くとも、かなりハードだわ!


 何か……楽して登る術は無いものかしら?エスカーよ!私を運んで!………ダメだわ!他に何か…無いの?!


「おい、何か妖しい場所があるぞ!」

「もう…私の体力の方がよっぽど怪しいわ!!」

「また、ダンジョンっぽいんだよ!」

「ええ〜〜!!またなの?!」

「でも、ダンジョンに入れば、暫くは登らなくても良いかもしれないぞ?」

「!入ってみるわ!」


 バンディエルが示した妖しい場所へ向かい、とにかく山からの一時脱出を目指した。


 そう歩かずに目的の妖しい場所には到着出来た。ただ、これって本当にダンジョンなの?!私には、ただの山のクラックにしか見えないわ。しかも、落ちたら絶対にダメなやつよ!


「バンディエル、もしこれがダンジョンだったとしても、降りる術と登る術が無いんで却下です。」

「あ〜…そうだな。ここは上級者向けか?」

「それに出たばかりで、またダンジョンには入りたくない。次は入るなら街が良いの!」

「街なんかねぇじゃん。」

「山を降りて探します!!」


 上級者?ダンジョンは通り越し、また山を登って行く。


 駄目よ葉子!頂上へはいつか辿り着く!弱気と後ろ向きな思考をとめなさい!


 きっと山頂には………平らな場所があるはず!そこでテントを出しで焼き肉をしましょう!


 しかも食べ放題よ!この際、お風呂は後にして、たくさん食べよう!今日は魔法で綺麗にして、お風呂は明日の朝にゆっくりと入りる!


 素敵なプランだわ!


 山頂に着いたら!必ずそうしよう!それが私のご褒美にんじんよ!

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