第45話 現実

 こっちに来てから、当たり前に自分の足で動いてるせいで、体力がちょっと付いて来た気がするわ!

 以前の私からは考えられない事よね。


 それに、寝てた所をいきなりこんな場所に移動?したものだから、当然に眼鏡を掛けていなかったのよ!


 なのに、ちゃんと視えるから今まで全然気づかなかった!レーシックをしてもいないのに、視力が回復してるのは何でかしら?


 少なくとも、魔術が使えると分かる前から視界には何の問題も無かった。


 両目共に0.1だった視力が、裸眼で1.0は確実にありそうよ!これは素直に嬉しいわ!


 あと自身の変化以外で気になるのは、本当に町に行った後で今更だけど、鏡が無いから身だしなみも整えられているか心配で……。魔術で綺麗にしてるから臭くは……無いわ!大丈夫……大丈夫よね?!


 とりあえず、もうすぐ湖からも離れるし、湖面に写る所だけでもチェックしましょうか…。


「ええ??!!」

「何だ?!どうかしたのか?!」

「……バンディエル、ごめんなさい……私……とうとうおかしくなったかもしれないわ。」

「は?!お前は最初からおかしいが?少しは自覚しろよ。」

「失礼ね!どこもおかしく無かったわよ!……ただ、今は……少なくとも目がおかしい。どう見ても、これは高校時代の私なのよ!」

「こーこーが何だかんだ知らねぇが、最初からだって言ってんだろがボケ!!歳でいったら、お前は町の受付の娘と同じか、それより下だろ?!」


 え………?バンディエルにもそう見えるの?!

 変な場所に来ただけでなく、変わったのは時間もなの?!


 20年以上も?!なら、もし今、日本に戻れたらお父さんとお母さんにも会える!!


 帰りたい!!帰りたいわ!!


 ……でも……どうやって…………。

 何でここに居るかも分からないのに。


「……バンディエル、知っていたら教えて。私、元々はこの世界ではない所にいたの。夜、寝ていたはずなのに、気付いたらダンジョンみたいな洞窟で目が覚めたのよ。」

「…………寝言か?」

「違うわよ!!真剣に聞いているの!それに、私は38歳なのよ?!それなのに、さっき何気なく見たこの容姿は、私の20年以上前のものだったわ!」

「…………虚言か?」

「どっちも違う!本当に本当なのよ!!そこは魔術無いしも魔物もいなくて、代わりに科学技術が発展している世界だったの!」

「……マジか?!魔術が無いだと?!なら魔力は?」

「もちろん無いわよ!」


 私の言葉を聞いて、バンディエルは唖然とした。


 彼にとって、魔力・魔術・魔石はアイデンティティの様なものだから当然と言えば当然ね。


「どうやってここに来たのか、何でここに居るのか、私は全く分からないの…。だからバンディエルが何か知っているなら、何でもいい、教えて欲しいの!」

「…………そんなの、俺だって…詳しくは知らねぇよ。だが……1つの話として聞いたことはある。……極々稀に、本来なら死んで異界へ召されるはずの者が、誤ってこの世界に渡って来てしまう…。そいつは以前より若返り、戻った時の分だけ………この世界にいる事が出来る。」

「………死んで……………?……私は……………」


 私は普通に寝ていたわ。………それが…何で………

 ………あ!!あの頭痛?!


 確か物凄く痛かったのは……微かに覚えてる…。

 それが、死の原因になる様な…ものだったの?


「…………なら、私、孤独死してたの?」


 バンディエルの話が本当なら、手違いで今ここにいて……あと20年でここからも居なくなる……。


 もし日本に戻れたとしても、ここでのイレギュラーな若返りが適用されるとは……とても思えない。

 それに、私の生きていた時間へ、この姿で戻ることが望みでは無いんだもの…。戻りたいのは、22年前に私がいた時代。過去なのよね。

 

「………そうか。どちらにしても…会えないのね。少し…夢見ちゃったわ……。」


 現実と言うのはいつも甘く無い。まあ、甘いのは私の方だからでしょうけど。


 更にここに来て、今までに無かった苛烈さに曝され、思っていたより疲れたんだわ。


 きっとこれは、ちょっと鈍い私に両親が教えてくれた現実と労りだと思おう。


 まだ、20年もあるんだもの。


 一度生を享け、滅せぬもののあるべきか……よね。

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